頭蓋頚椎移行部動静脈瘻に対する顕微鏡下流出静脈遮断術は安全で有効:米国13施設の前向き登録研究

公開日:

2023年1月19日  

最終更新日:

2023年1月20日

Microsurgical Obliteration of Craniocervical Junction Dural Arteriovenous Fistulas: Multicenter Experience

Author:

Salem MM  et al.

Affiliation:

Department of Neurosurgery, Hospital of the University of Pennsylvania, Philadelphia, PA, USA

⇒ PubMedで読む[PMID:36519864]

ジャーナル名:Neurosurgery.
発行年月:2023 Jan
巻数:92(1)
開始ページ:205

【背景】

頭蓋頚椎移行部動静脈瘻に対する主な治療法としては血管内治療と顕微鏡下瘻閉塞術があるが,まだ優劣の決着は付いていない.本稿は,2006-2021年に米国13施設で実施された頭蓋頚椎移行部動静脈瘻に対する顕微鏡下瘻閉塞術の前向き登録研究である.対象は38例(中央値59.5歳).発症はくも膜下出血47.4%,脊髄症36.8%で,92.1%が静脈洞への還流のないCognardタイプ III-Vであった.84.2%では椎骨動脈V3-V4から分岐する硬膜枝が病変に血流を供給していた.5例は先行する血管内治療が失敗しており,他の33例は血管内からのアプローチが出来ないか危険であると判定された症例であった.

【結論】

Far lateralアプローチが最も多用された(94.7%).手技は硬膜内流出静脈の最も動静脈瘻に近い部分にクリップをかけ,その遠位側を凝固切断するというものである.術中血管撮影は39.5%で使用された.術後中央値9.2ヵ月の血管撮影で,36例(94.7%)が治癒の状態で,2例(5.3%)で再発が認められた.再発例のうち1例には定位手術的照射が,1例には再度の顕微鏡下手術が実施された.治療関連合併症は2例(5.3%)で,1例は軽微な不安定(mRS 3)が,1例は無症候性髄膜瘤(治療不要)が残った.
術後中央値11.9ヵ月の最終観察段階で,機能予後良好(mRS 0~2)は81.6%であった.

【評価】

頭蓋頚椎移行部動静脈瘻の治療に関しては既に日本脊髄外科学会がコホート研究を実施しており,2021年12月にその結果を発表している(文献1).これによれば,78例が脳外科手術(顕微鏡下瘻閉塞術)を,19例が血管内治療を受けた.一次エンドポイントは再治療の必要性とした.その結果,再治療率は2.6%(2/78)と63%(12/19)(p<.001)で,脳外科手術では圧倒的に再治療率が少なかった.また中央値23ヵ月後のmRSの改善率は60%と37%(p =.043)であった.この結果,頭蓋頚椎移行部AVFに対する治療として,脳外科手術は血管内治療より効果的で安全であるとの結論に至っている.
また,2016年の26文献56例のシステマティックレビューでも,顕微鏡下手術は血管内手術に比較して有意に高い動静脈瘻の閉塞率を示している(100 vs 71%;p<.001)(文献2).
本稿は米国13施設で実施された頭蓋頚椎移行部動静脈瘻に対する顕微鏡下瘻閉塞術の前向き登録研究の結果である.こちらでは,術後9ヵ月の血管撮影で,36例(94.7%)が治癒と判定され,また術後中央値12ヵ月の最終観察時における良好な機能予後(mRS 0~2)の割合は81.6%と高かった.
頭蓋頚椎移行部動静脈瘻には椎骨動脈V3-V4から分枝する神経根髄膜動脈以外に上行咽頭動脈,後頭動脈,脊髄動脈からも血液が流入していることが多く,そしてシャントポイントは硬膜外,硬膜内と複数存在することもある(文献3,4,5).また,流入血管はしばしば細く,かつ強く蛇行している.このため,血管内治療で経動脈的に流出静脈を確実に閉塞することは困難なことが多い.一方で,細い流出静脈が脳幹や脊髄表面上を蛇行しながら走行していることを考慮すれば,経静脈的塞栓はさらに困難である(文献6,7).これらが,他部位の動静脈瘻に比べて頭蓋頚椎移行部動静脈瘻に対する血管内治療の難易度が高い理由とされている(文献4).
さて,本稿の研究で,顕微鏡下瘻閉塞術の対象となったのは先行する血管内治療が失敗したか,血管内からのアプローチが出来ないか危険であると判定された症例である.しかし,そもそも頭蓋頚椎移行部動静脈瘻に対する治療の第一選択が顕微鏡下瘻閉塞術(流出静脈遮断術)であってはいけないのか.逆に,血管内治療が優先されるべき病態は何か.こうした疑問を明らかにするために,できればRCTが,それが困難でもより大きな規模な前向き登録研究が必要である.

<コメント>
本研究は頭蓋頚椎移行部AVFの外科治療に関する北米の多施設研究である.私たちはこの論文の前に,日本脊髄外科学会主催で,外科手術と血管内治療の多施設研究を発表した(文献1).北米研究の主要研究アウトカムと結果は,日本の研究とほぼ同じである.米国と日本の独立した大規模研究で同じ結果が出たことは,結果の信頼性が高いことを意味している.
北米研究は2006~2021年に13施設で外科手術を受けた38例を対象とした単一コホートの記述研究である.北米研究の主要アウトカムは外科手術後の血管造影上の治癒率であり,94.7%で達成された(再治療率5.3%).38例中5例は,外科手術の前に初期治療で血管内塞栓術が行われ,5例中4例は閉塞が得られず(80%),1例には脳卒中の合併(20%)が生じた.直達手術の合併症は術中破裂1例(2.6%)であった.
日本の研究は,2009~2019年に29施設で実施された外科手術群78例と血管内治療群19例の2群を比較したコホート研究である.日本の研究では北米研究よりも症例数が2.5倍と多く,さらに治療法の直接比較研究であったという点で優位性がある.日本の研究の主要アウトカムは再治療率で,外科手術群2.6%,血管内治療群63%であった.日本の研究では血管内治療群19例中5例(26%)に,外科手術群に7.7%虚血性合併症が生じた.虚血性合併症の詳細は別論文として出版した(文献8).
2つの研究の違いは,北米研究の方が対象集団の年齢中央値59.5歳と若く,女性が半数44.7%を占め,術前mRS2以下が78.9%と症状が軽いことである.日本の研究では平均年齢67歳・男性74%・mRS2以下62%であった.北米研究の術後mRS2以下は81.6%と術前とほとんど変わっていない.日本の研究では術後mRS2以下は76%と一定の改善が得られた(改善56%・不変32%・悪化11%).
ちなみに北米研究の本論文のFigure 5では,背側テンポラリークリップはC1後根軟膜動脈に,腹側パーマネントクリップはC1前根に沿った逆流静脈にかかっている.術後アンギオでは奥のクリップ1つが残っている.逆流静脈は歯状靱帯よりも腹側の前根側を走行するので,静脈クリップは必須であるが,背側C1後根軟膜動脈のクリップは不要であり,脊髄梗塞のリスクがある.注意を喚起しておきたい.(東京都立神経病院 脳神経外科 髙井敬介)

執筆者: 

有田和徳