適応基準を遵守すれば,DOAC内服24時間以内の患者に対する経静脈的血栓溶解療法は出血リスクを高めない:国立循環器病研究センター

公開日:

2023年2月4日  

最終更新日:

2023年2月6日

Intravenous Thrombolysis With Alteplase at 0.6 mg/kg in Patients With Ischemic Stroke Taking Direct Oral Anticoagulants

Author:

Okada T  et al.

Affiliation:

Department of Cerebrovascular Medicine, National Cerebral and Cardiovascular Center, Osaka, Japan

⇒ PubMedで読む[PMID:36129032]

ジャーナル名:J Am Heart Assoc.
発行年月:2022 Oct
巻数:11(19)
開始ページ:e025809

【背景】

急性期脳梗塞に対する経静脈的血栓溶解(IVT)は今やスタンダードケアとなっているが,米国や欧州のガイドラインでは,出血リスクへの配慮からDOAC最終服用後48時間以内を適応外とすることが推奨されている(文献1,2).しかし,日本での投与量は0.6 mg/kgと少ないことから,独自の検討が必要である.国立循環器病研究センターのOkadaらは,自施設で過去10年間にIVTが実施された915症例(女性358例,年齢中央値76歳,NIHSS中央値10点)を後方視的に検討して,DOAC服用がIVT後の症候性頭蓋内出血発生に及ぼす影響を検討した.40例は発症前24時間以内にDOACを服用していた.

【結論】

40例中,IVT前の最終DOAC服用は,4時間以内10%,4~12時間40%,12-24時間47.5%であった.一次安全性アウトカムのNIHSS 4点以上の増加を伴う頭蓋内出血はDOAC服用40例で2.5%,非服用753例で2.4%と差はなかった(p=.95).入院時NIHSSはDOAC服用群で高かったが,有効性アウトカムである発症後3ヵ月のmRS:0~2は,DOAC服用群59.4%,非服用群58.2%で差はなかった(p=.46).発症36時間以内のすべての頭蓋内出血の発生や発症3ヵ月以内の死亡率も2群間で差はなかった.
日本でのガイドラインを遵守すれば,DOAC服用者でもIVTは安全に施行出来る.

【評価】

頭蓋内出血は急性期脳梗塞に対するアルテプラーゼ静注療法(IVT)の重要な合併症の一つである(文献3).特にDOACは,内服後2-4時間で血中濃度が最高となり出血リスクが高まること(文献4),日本におけるアンケート調査の結果(患者総数100例,2017年発表),DOAC内服後4時間以内の患者群で無症候性脳出血の頻度が有意に高いことが判明したことから(文献5),日本のガイドライン上はDOACの最終服用後4時間以内の患者はIVTの適応外とされている(文献6).本稿の研究は,国立循環器病研究センターの症例を対象とした単一施設の後方視研究であり,症例数は限られているが,IVT前24時間以内のDOACの服用患者40例では,非服用群753例に比較して症候性頭蓋内出血の頻度は変わらないことを明らかにした(2.5% vs 2.4%).また,36時間以内の全ての頭蓋内出血イベントの発生にも差がなかった(5例 vs 122例,12.5% vs 16.2%).DOAC服用患者で頭蓋内出血を起こした5例の服用時間は12~24時間4例,概ね8時間1例であった.4時間以内を含めた12時間以内にDOACを服用した患者に特に多いというわけではなさそうである.
注意すべきなのは,同施設でDOAC服用患者で急性期脳梗塞と診断された302例ではIVTを受けていなかったが,その理由は発症-着院時間が4.5時間以上(67.5%),症状が軽微か急速改善(19.2%),大きな急性期脳虚血性変化(5.6%),PT-INR>1.7かAPTT>40秒(3.0%),DOAC服用直後(1.3%)であった.すなわち,これらの症例では,日本におけるIVTガイドラインの適応外条項,慎重投与条項を遵守して,IVT非適応が決定されたことが判る.
今後,本研究をベースとして,より大規模な多施設研究で,DOAC服用患者に対する0.6 mg/kgアルテプラーゼ投与によるIVTの適応がより明確になっていくことを期待したい.

<著者コメント>
今回の検討は単施設で少ない症例数(DOAC内服患者40例)による検討ではあるが,わが国の静注血栓溶解療法適正治療指針を用いることで,DOAC内服患者に対して頭蓋内出血のリスクを高めることなくIVTを安全に行える可能性を示した.今後IVT施行患者におけるDOACの血中濃度と出血性合併症との関連や,DOACの強度を反映する適切な指標が明らかになれば,より適切な症例選択を可能とする基準を見出すことができるかもしれない.また,ダビガトランに対してイダルシズマブを投与した後であれば最終内服からの時間に関わらず投与できるように,昨年わが国でも発売されたアンデキサネット アルファなどのXa因子阻害薬に対する中和剤を併用することがこの問題を解決することに繋がるかもしれない.アルテプラーゼの投与量が海外と異なる(日本 0.6 mg/kg vs. 欧米0.9 mg/kg)ことからも,わが国独自の検討が重要となる領域の一つである.(国立循環器病研究センター・鹿児島大学脳神経内科 岡田敬史)

執筆者: 

有田和徳