DOAC服用後48時間以内の患者を経静脈的血栓溶解療法の適応外とすることに根拠はあるのか?:世界64施設33,207例の後方視研究

公開日:

2023年2月6日  

Intravenous Thrombolysis in Patients With Ischemic Stroke and Recent Ingestion of Direct Oral Anticoagulants

Author:

Meinel TR  et al.

Affiliation:

Stroke Research Center, Bern University Hospital, Bern, Switzerland

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ジャーナル名:JAMA Neurol.
発行年月:2023 Jan
巻数:Online ahead of print.
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【背景】

日本のガイドライン上,DOACの最終服用後4時間以内は,症候性頭蓋内出血(sICH)の畏れにより経静脈的血栓溶解療法(IVT)の適応外とされている(文献1).一方,米国や欧州のガイドラインではDOAC最終服用後48時間以内を適応外とすることが推奨されている(文献2,3).しかし,この推奨を支持する根拠は薄弱である.本稿はDOAC最終服用後48時間以内のIVTがsICHのリスク因子であるかについて世界64施設で実施された後方視コホート研究である.2008年以降,33,207例がIVTを受けた.このうち48時間以内にDOACを服用していた832例(DOAC服用群)と,非服用32,375例を比較した.

【結論】

DOAC服用群のうち342例(41%)がダビガトランを服用しており,このうち252例(74%)がIVT前に拮抗薬の投与を受けていた.DOAC服用群のうち27%はDOAC血中濃度の測定を受けていた.
主要アウトカムであるIVT後36時間以内のsICHは,全症例中1,345例(4.1%)で生じた.sICH発症率はDOAC服用群2.5%,非服用群4.1%であった.脳梗塞の重症度や他のsICH予測因子を調整後の調整オッズ比は0.57(95% CI,0.36~0.92)で,DOAC服用群で有意に低かった(p=.02).無症候性も含めたすべてのICHの発生頻度には差はなかった(p=.14).

【評価】

本稿は,欧州を中心にアジア,オーストラリア,ニュージーランドの64施設で実施された,48時間以内のDOAC服用者に対するいわゆるオフラベルIVTが,症候性頭蓋内出血を増やすか否かを検討したものである.実際のDOAC内服時間は,過半がIVTの12時間より前であった.その結果,関連因子調整後の症候性頭蓋内出血のオッズ比は0.57で,DOAC服用群でむしろ有意に低かった(p=.02)
著者らは,本研究の結果を要約して,現在のガイドライン上でIVTの適応外とされている48時間以内のDOAC服用がsICHのリスクを増加させるとのエビデンスは不十分であるとまとめている.同様に,2020年発表のメタアナリシスや2022年発表の米国GWTG-Strokeレジストリーの解析でも,DOACの内服はIVT後の症候性頭蓋内出血を増加させないと報告されている(文献4,5).
注意しなければならないのは,このオフラベルIVTがDOAC服用中の患者に対して不用意に行われた訳ではないことである.そのことは,DOAC服用の条件をはずせば,一般にIVT適格患者のうち1/6がDOACを服用しているという疫学的背景があるにもかかわらず(文献5,6),本研究対象のIVTを受けた33,207例中でDOAC服用患者は2.5%の832例に過ぎなかったことからも想像出来る.さらに,DOAC服用群のうち27%がIVT前に血中濃度の測定を受け,ダビガトラン投与患者群のうち74%が拮抗薬(イダルシズマブ)の投与を受けていた.すなわち,DOAC服用患者に対してはかなり慎重な適応判断と対策の上でIVTが行われたことが推定される.しかし,DOAC濃度非測定かつイダルシズマブ非使用の患者252例においても症候性頭蓋内出血の調整オッズ比は0.66(0.35~1.25)で非服用群と差はなかった.
これらの結果は,もしかするとワーファリンとは異なり,DOAC内服そのものはIVTの禁忌条件にはならないのではないかとの想像をかき立てる.
ただし,本研究では48時間を細かなタイムウィンドウで切り分けて解析してはいないので,通常のDOAC服用患者のほぼ全員が含まれるであろう24時間以内のDOAC服用のリスクの評価はできていない.48時間以内,24時間以内,12時間以内,4時間以内などのタイムウィンドウで区切っての症候性頭蓋内出血のリスク解析が行われることを期待したい.
また,本研究で用いられた血栓溶解剤はほとんどがアルテプラーゼであり,欧米でIVTでの臨床応用が開始されているテネクテプラーゼ(文献7)の使用は3.8%に留まっていた.今後,利用が拡大するであろうテネクテプラーゼの使用にあたってもDOAC服用が除外項目であるのかもこれからの検討課題であろう.
さらに、日本でのアルテプラーゼ使用量は0.6mg/kgで、他国の0.9mg/kgに比較してかなり低い.DOAC内服患者に対するその用量でのIVTの適応については,日本独自の多施設研究が必要と思われる.

<コメント>
本論文では,DOAC最終内服から48時間以内の患者において安全に静注血栓溶解療法(IVT)が行える可能性について述べられている.イダルシズマブ投与時を除けば,わが国ではDOAC最終内服から4時間以内,欧米では最終内服から48時間以内がIVTの適応外とされている.日本国内で静注血栓溶解療法に携わる者の感覚では,欧米と日本とでは基準があまりに異なることに驚く人が多いのではないだろうか.また,本研究に組み込まれているDOAC内服患者のうち約60%はDOACの血中濃度測定やイダルシズマブ投与がなされている点もわが国の現状とは大きく異なる.実際,単施設研究で少数例の検討ではあるが,本邦におけるDOAC内服患者に対するIVTの安全性を検討した我々の研究において,DOAC内服患者40例のうち38例は血中濃度測定やイダルシズマブの使用なくIVTが行われていた(文献8).また,服用していたDOACの種類についても本稿の研究においてダビガトランが832例中342例(43%)と最も多いのに対し,我々のシリーズではダビガトラン服用者は40例中6例(15%)と最も少ない.現時点での治療指針や内服しているDOACの種類,アルテプラーゼの投与量など,海外とわが国では背景が異なるので,今後,日本脳卒中データバンクなどを用いたわが国独自の多施設研究が待たれる.一方本研究は,欧米における現在の基準(DOAC内服48時間以内を適応除外とする)を支持する根拠を示したわけではないので,欧米におけるDOAC内服患者に対するIVTの敷居を下げる一助になることが期待される.(鹿児島大学脳神経内科 岡田敬史)

執筆者: 

有田和徳