長期スタチン服用は脳内出血のリスクを下げる:2,164件の脳内出血を対象としたデンマーク南部の住民ベース研究

公開日:

2023年2月6日  

最終更新日:

2023年2月6日

Association Between Statin Use and Intracerebral Hemorrhage Location: A Nested Case-Control Registry Study

Author:

Boe NJ  et al.

Affiliation:

Research Unit for Neurology, Odense University Hospital, Odense, Denmark

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ジャーナル名:Neurology.
発行年月:2022 Dec
巻数:Online ahead of print.
開始ページ:

【背景】

HMG-CoA還元酵素のスタチンは,虚血性脳卒中や他の心血管イベントの再発を抑制することが知られており,その使用は増加している.一方で,脳卒中の既往を有する患者におけるスタチン投与が脳出血を増やすのではないかとの危惧もあり(文献1,2,3),結論は得られていない(文献4,5).本稿はデンマーク南部地域(120万人)を対象に実施された住民ベース・ケースコントロール研究である.対象は55歳以上で2009年以降の10年間に初回脳内出血と診断された脳葉型脳出血患者989人と非脳葉型脳出血患者1,175人.対象患者群と性・年齢をマッチさせた39,500人と46,755人をコントロールとした.

【結論】

非使用者に対する現在スタチン使用者の脳内出血の調整オッズ比(aOR)は脳葉型で0.83(CI,0.70~0.98),非脳葉型で0.84(CI,0.72~0.98)といずれも有意に低かった.脳葉型のaORはスタチン使用期間が1年未満:0.89,1~5年:0.89,5年以上:0.67,非脳葉型のaORはスタチン使用期間が1年未満:1.0,1~5年:0.88,5年以上:0.62であり,使用期間が長いほど低かった(傾向検定p=0.040と<0.001).非使用者に対する低-中力価スタチン使用者のaORは脳葉型で0.82,非脳葉型で0.84で有意に低かったが,高力価使用者では差はなかった.

【評価】

デンマーク南部地域におけるこの住民ベース研究は,スタチン服用が脳出血発症に与える影響を,全国的な住民登録,患者登録,脳卒中登録,処方登録を結合して解析したものである.脳葉型脳出血患者989人と非脳葉型脳出血患者1,175人を,出血がなくかつ性・年齢がマッチしたコントロール群と比較した.その結果,スタチン服用者は脳葉型でも非脳葉型でも出血のリスクは低く,またスタチン使用歴が長い程,そのリスクが低くなることを明らかにした.
当初著者らは,過去に報告されているように(文献6),スタチンの服用は動脈硬化を抑制するため,非脳葉型出血は抑制するが,アミロイド血管症を背景とする脳葉型出血(文献7)の抑制は乏しいと予測した.しかし,本研究結果はその予測を覆すものになった.同様の報告はイスラエルとイタリアからもあがっている(文献8,9).著者らは,脳葉型出血で頻繁に観察される脳血管アミロイド沈着は,多くの場合動脈硬化を伴っており,このことが,スタチン投与による出血抑制効果をもたらしているのかも知れないと推測している.
注意しなければならないのは,スタチン使用歴の長さと脳出血リスク低減の相関は降圧剤服用者にのみ認められた点である.これらの患者では,医療者によるリスク因子の管理や治療が適切であり,同時に患者自身の健康への意識が高いというバイアスを反映しているのかも知れない.
このトピックについては,今後もまだまだエビデンスの積み重ねが必要と思われる.ただし,低-中力価スタチン使用者では脳出血発症が有意に少なかったという事実は,少なくとも低-中力価スタチン長期使用による脳内出血への危惧を払拭させるものであろう.

執筆者: 

有田和徳

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