前頭蓋底髄膜腫の1/3を占めるGAB1陽性腫瘍は再発しやすい

公開日:

2023年3月6日  

GAB1 as a Marker of Recurrence in Anterior Skull Base Meningioma

Author:

Boetto J  et al.

Affiliation:

Department of Neurosurgery, Montpellier University Medical Center, Montpellier, France

⇒ PubMedで読む[PMID:36637273]

ジャーナル名:Neurosurgery.
発行年月:2023 Feb
巻数:92(2)
開始ページ:391

【背景】

GAB1蛋白質は受容体チロシンキナーゼと結合して,各種サイトカインや増殖因子が誘導するシグナル伝達の役割を果たしている.仏モンペリエ大学脳外科などのチームは,前頭蓋底髄膜腫におけるGAB1の発現の意義を検討した.対象は2005年以降に手術した前頭蓋底髄膜腫148例(女性86例,平均52歳).発生部位は嗅窩45%,蝶形骨17%,前床突起15%など.WHOグレード1は84%,2は16%であった.
35%がGAB1免疫染色陽性と判定された.GAB1陽性髄膜腫の多くはmeningothelialタイプで(87%,p=.005),嗅窩部に多かった(64%,p=.01).

【結論】

肉眼的全摘出率はGAB1陽性群で85%,陰性群で75%で差はなかった.
GAB1陽性群は陰性群に比較して再発率(36 vs 14%,p=.002),再手術率(17 vs 4.2%,p=.014),頭蓋底へのびまん性浸潤率(15 vs 3%,p=.0017)が有意に高かった.
多変量解析では,不完全な切除,男性,Ki67インデックス>4%と並んで,GAB1陽性は再発の独立した予測因子であった(HR=3.2,95% CI[1.5~6.9],p=.004).
GAB1は前頭蓋底髄膜腫の独立した予後推定因子であり,HHシグナル過剰発現型髄膜腫の同定に有用である.

【評価】

髄膜腫の予後因子としてはWHOグレード,Ki67インデックス,H3K27me3欠失,TERTプロモータ変異,CDKN2A/B共欠失,染色体不安定性が良く知られている(文献1,2,3,4).一方,次世代シーケンシングによる遺伝子検索は,SMARCB1,KLF4,PI3K,POLR2A,TRAF7,AKT1,SMOなどのドライバー遺伝子変異を次々に明らかにしてきた(文献5,6).
GAB1はソニック・ヘッジホグ(SHH)型の髄芽腫の検索のために日常的に用いられている免疫染色マーカーである(文献7).本稿の著者らは,髄膜腫においてもGAB1発現がHH活性化(SMO変異が2/3,SHH転写亢進が1/3)の良好な指標(感度100%,特異度86%)となることを報告してきた(文献8).また,既に著者らは,同一グレードで同一部位に出来た髄膜腫でもSMO変異を有する腫瘍は予後が不良であることを示している(文献9).
本研究でも,SHH活性化の代理マーカーであるGAB1免疫染色陽性は,前頭蓋底髄膜腫における再発に関する独立した予測因子であった.また,GAB1免疫染色陽性の前頭蓋底髄膜腫は高い頻度で頭蓋底へのびまん性浸潤を示した(陽性群15%,陰性群3%,p=.0017).
本研究から得られる実践的な教訓は,前頭蓋底髄膜腫の1/3を占めるGAB1免疫染色陽性腫瘍には,長期にわたる丁寧な経過観察が必要ということであろう.また,GAB1免疫染色陽性腫瘍では次世代シーケンサーを用いて分子生物学的にSHH活性化を確認すべきであろう.現在のところ,SMO変異型髄膜腫に対するSMO阻害薬の効果に関しては不確実であるが,今後新たな分子標的治療が開発されることを期待したい.
気になるのは,GAB1免疫染色陽性でSHH活性化型髄膜腫が判るのは良いが,髄膜腫の予後に関係しそうな遺伝子異常は多数報告されており,どうせ各髄膜腫の分子生物学的な特徴を捉えて,予後推定や追加治療の判断材料とするなら,網羅的な遺伝子パネルによる解析を行った方が確実と思われる点である.GAB1免疫染色を敢えて行うのは,前頭蓋底髄膜腫ではSHH活性化型髄膜腫が多いという事実を反映しているのであろうか.

執筆者: 

有田和徳