公開日:
2023年3月6日Radical supramaximal resection for newly diagnosed left-sided eloquent glioblastoma: safety and improved survival over gross-total resection
Author:
Long Di et al.Affiliation:
Department of Neurosurgery University of Miami School of Medicine, University of Miami School of Medicine, Miami, FL, USAジャーナル名: | J Neurosurg. |
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発行年月: | 2022 May |
巻数: | 138(1) |
開始ページ: | 62 |
【背景】
低悪性度の神経膠腫ではFLAIR高信号部分を超える超最大(supramaximal)摘出術が,膠芽腫でも非優位半球のものでは造影部分を超える超最大摘出術が,予後を改善させることは既に報告されている.それでは優位半球の膠芽腫ではどうか? マイアミ大学脳外科は自験の左大脳半球のエロクエント・エリア内あるいは近傍に存在する初発膠芽腫102例(平均61歳,男性57例,KPS中央値80)を基にこの点を検討した.全例で術前画像や術中MEPによる脳機能マッピングが行われた.手術後,全例がStuppレジメに基づく放射線化学療法を受けた.超最大摘出術の選択は臨床,画像所見を基にした上級術者の総合的な判断によった.
【結論】
肉眼的全摘(造影部分の全摘出)は54例で,超最大摘出(造影部分+周囲のFLAIR高信号領域の40%以上の摘出)は48例で実施された.超最大摘出群の73%で覚醒下摘出術が行われた.超最大摘出群のOSとPFSの中央値は22.9と5.1ヵ月であった.年齢,腫瘍存在部位,術前KPSをマッチさせた2群(27例ずつ)の傾向スコア分析では,超最大摘出は肉眼的全摘出に比較してOSとPFSを改善していた(21.6 vs 15.5ヵ月,p=.0098と4.5 vs 3.6ヵ月,p=.041).超最大摘出群内ではFLAIR高信号領域の摘出度がOSとPFS延長と相関した(ともにp<.001).
【評価】
低悪性度グリオーマではFLAIR高信号部分を超える超最大摘出が予後を改善することは良く知られている(文献1).
一方膠芽腫でも,造影部分の摘出度合い(EOR)が予後に影響することが以前から報告されてきた(文献2,3).さらに最近は,造影部分周囲のFLAIR高信号部分の摘出が予後を改善することが示唆されている(文献4).2019年には,韓国延世大学のRohらが,非優位側大脳半球の膠芽腫において,画像では一見正常に見える部分を含む脳葉切除によって,OSとPFSを延長させることを報告している(文献5).
本研究は,優位側(左)半球のエロクエント・エリア内あるいは近傍に存在する膠芽腫における超最大摘出術(造影部分全摘出+周囲のFLAIR高信号領域の40%以上の摘出)が予後に及ぼす影響を検討したものである.このシリーズでは肉眼的全摘出(造影部分の全摘出)か超最大摘出かの選択は臨床所見,画像所見を基にした上級術者の総合的な判断に頼ったので,単純な比較は出来ない.このため著者らは年齢,腫瘍の存在部位,術前KPSを最近傍アルゴリズムを用いてマッチさせた2群(両群27例ずつ)の傾向スコア分析を行った.その結果,超最大摘出群が肉眼的全摘出群よりも予後が良いことが明らかになった.さらに生存曲線のLog-rank解析では,造影部分周囲のFLAIR高信号領域の摘出度は予後と相関し,特に80%以上ではPFS中央値15.0ヵ月,OS中央値36.6ヵ月に達した.簡単に言えば,造影部分周囲のFLAIR高信号領域も出来るだけ除去することが予後の改善につながることを示している.ちなみにIDH-1変異やMGMTメチル化の頻度は2群間で差はなかった(p=.731とp=.744).
一方,優位半球における超最大摘出術は新規神経脱落症状の発生が気になる点であるが,傾向スコア法でマッチさせた2群間の比較では合併症の発生率,KPSの低下ともに差はなかった(p=.236とp=.830).これは,超最大摘出術群の72.9%が覚醒下摘出術を受けていたことや全麻下摘出群でも術前MRI画像によるマッピングや術中MEPマッピングを受けていたことによるものであろう.
本研究は造影部分の周囲のFLAIR高信号領域の内部に潜む腫瘍細胞を可及的に除去することが再発や進行を減らし,生命予後を改善することを示している.また,手術後の放射線照射は切除端から約2 cm拡大した範囲がターゲットとなることが多いので,超最大摘出術群では正常脳の中に潜む浸潤先端までが照射範囲に含まれることになり,腫瘍細胞の白質線維に沿った拡延を抑制しているのかも知れない.
本研究の問題点として当然挙げられるのは,後方視的観察研究であることであり,今後多施設でのRCTが必要であろう.また,本研究の約3-4割の症例では,IDH-1変異やMGMTメチル化といった予後と強く相関する遺伝子情報が得られていないことが挙げられる.幸い,マッチさせた2群間ではこれらの遺伝子異常の頻度に差は無かったというが,今後の研究では,これらの遺伝子情報を含めた解析が必要であろう.
<コメント>
超最大摘出術を評価する際に,グリオーマの腫瘍摘出後にはブレインシフトが起きるため,正確な摘出率の評価は困難なことが多い.また,本研究では超最大摘出術の定義として,術前FLAIR領域の40%以上の摘出とされているが,術後にFLAIR高信号が減弱することがあり,逆に増大することも臨床上しばしば経験するので,摘出度の評価はしばしば困難である.
一方,本研究では超最大摘出術を行った症例の73%で覚醒下手術を行っているが,超最大摘出術を達成するためには,安全な摘出を行うことは前提であり,術中に脳機能評価を行う覚醒下手術が重要であるという点には同感である.
本研究のシリーズは肉眼的全摘出(造影部分の全摘出)か超最大摘出かの選択は,臨床所見,画像所見を基にした上級術者の総合的な判断という曖昧な基準に頼っているため傾向スコア分析を行っているとは言うものの,背景因子にグループ間の偏りが出るのは必至であり,やはり前向きRCTでの検証が必要であると考える.
現在国内で予定されているJCOG2209「テント上初発膠芽腫に対する造影病変全切除術と造影病変全切除+FLAIR高信号病変可及的切除術とのランダム化第III相試験」の結果が待たれる.(名古屋大学脳神経外科 本村 和也)
執筆者:
有田和徳関連文献
- 1) Duffau H. Long-term outcomes after supratotal resection of diffuse low-grade gliomas: a consecutive series with 11-year follow-up. Acta Neurochir (Wien). 158(1):51-8, 2016
- 2) Sanai N, et al. An extent of resection threshold for newly diagnosed glioblastomas. J Neurosurg. 115(1):3-8, 2011
- 3) Lacroix M, et al. A multivariate analysis of 416 patients with glioblastoma multiforme: prognosis, extent of resection, and survival. J Neurosurg. 95(2):190-198, 2001
- 4) Dimou J, et al. Supramaximal resection: a systematic review of its safety, efficacy and feasibility in glioblastoma. J Clin Neurosci. 72:328-334, 2020
- 5) Roh TH. et al. Survival benefit of lobectomy over gross-total resection without lobectomy in cases of glioblastoma in the noneloquent area: a retrospective study. J Neurosurg. 132(3):895-901, 2019
参考サマリー
- 1) 膠芽腫に対する脳葉切除(lobectomy)は有効か:全摘手術(GTR)との比較
- 2) low grade gliomaに対する超全摘手術
- 3) 膠芽腫は腫瘍の中に入り込むより脳回ごと一塊として切除したほうが良い:MDアンダーソンの経験
- 4) 低悪性度グリオーマに対する脳回一塊摘出の意義:ミシガン大学における519例での検討
- 5) 膠芽腫では発症後3週間以内の手術が良好な生命予後と相関する―膠芽腫は準緊急疾患:国立がん研究センター
- 6) 手術で脳室壁を大きく開放した方が膠芽腫の予後は良い
- 7) 5ALA蛍光観察と造影剤増強エコー下(CEUS)での膠芽腫摘出術は摘出率を向上する
- 8) 再発神経膠芽腫の造影部分完全摘出は全生存期間の延長をもたらす:DIRECTORトライアルの結果から
- 9) グリオーマ摘出手術後の隣接虚血は65%に発生する:そのリスク因子と臨床的意義