微小な前交通動脈破裂瘤に対する治療後の再出血率は他部位に比較して多いが,治療転帰には差はない:Swiss SOS

公開日:

2023年3月6日  

最終更新日:

2023年3月20日

Impact of Very Small Aneurysm Size and Anterior Communicating Segment Location on Outcome after Aneurysmal Subarachnoid Hemorrhage

Author:

Roethlisberger M  et al.

Affiliation:

Department of Neurosurgery, University Hospital Basel, Basel, Switzerland

⇒ PubMedで読む[PMID:36469672]

ジャーナル名:Neurosurgery.
発行年月:2023 Feb
巻数:92(2)
開始ページ:370

【背景】

破裂前交通動脈瘤は他部位に比較して微小なものが多く,その治療には特有の問題が伴う.スイスくも膜下出血レジストリー(Swiss SOS)は2009-2014年に登録された症例を解析して,微小な前交通動脈破裂瘤の特徴を検討した.対象は治療を受けた破裂動脈瘤1,258例で,このうち439例(34.9%)が前交通動脈瘤で,144例(全体の14.4%)が径5 mm以下の微小動脈瘤であった.この微小前交通動脈破裂瘤のうち41%が開頭手術を,59%がコイル塞栓術を受けた.これらの微小前交通動脈破裂瘤を径5-25 mmの前交通動脈瘤や他部位の微小動脈瘤と比較した.

【結論】

治療後入院中の再出血率は,微小前交通動脈瘤は他部位の微小動脈瘤より高かった(2.8% vs 2.1%).特に血管内治療を受けた患者ではそうであった(2.1% vs 0.5%).
多変量解析では,動脈瘤径が5-25 mmと大きいことと前交通動脈以外の部位が,術後新規神経脱落症状出現,退院時の高いmRSの独立した予測因子であった.
動脈瘤径が5 mm以下と小さいことも前交通動脈という部位も,退院時死亡,周術期の脳卒中の発生と相関していなかった.
すなわち,他部位に比較して,5 mm以下の微小な前交通動脈破裂瘤の治療後の再出血率は高かったが,退院時の障害(高いmRS)も死亡の割合も高くはなかった.

【評価】

径5 mm以下の微小な未破裂動脈瘤の破裂リスクは一般に低いが,微小な前交通動脈瘤の破裂率は後方循環動脈瘤と同様に高く,全ての動脈瘤性くも膜下出血の中のかなりの割合を占めている(文献1,2,3).本シリーズでは,微小な前交通動脈瘤は全動脈瘤性くも膜下出血の12%を占めていたが,5 mm以下の破裂微小動脈瘤の中では前交通動脈瘤が占める割合は38%と高かった.過去には3 mm以下の破裂動脈瘤の53.3%を前交通動脈瘤が占めていたとの報告もあり(文献4),UCAS-Japanでも前交通動脈瘤は小型でも破裂しやすいことが報告されている(文献5).また,破裂前交通動脈瘤の手術後の非自立の割合は他部位に比較して高く(文献6),微小な前交通動脈破裂瘤に対する血管内治療では周術期の再破裂率が高いことも報告されている(文献7).
本研究はスイスにおける前向き登録データを基にした,リアルワールドでの微小前交通動脈破裂瘤の実態に関する検討である.その結果,血管内治療を受けた群で入院中の再出血率が多少高かったが,退院時の障害(高いmRS)や死亡の頻度に差はなく,動脈瘤の発生部位(前交通動脈)は予後因子ではないことが明らかになった.
従来の報告とは多少異なった結果であり,今後,再出血の原因など,さらに詳細な解析が待たれる.

<コメント>
最近,破裂動脈瘤の小型化が増加している傾向であり(文献8),動脈瘤増大因子である生活習慣の改善が関与している可能性がある.前交通動脈瘤はUCAS Japanサブ解析の小型未破裂脳動脈瘤の破裂危険因子であり(文献9),他の部位と比較して小型でも破裂しやすいことに間違いはないと思われる.本研究では,小型破裂前交通動脈瘤は再破裂危険因子であったが,未破裂動脈瘤のうち発生してすぐ破裂するタイプ(Type 1)(文献10)と小型前交通動脈瘤との関連性についても興味があるところである.高齢女性に大型内頚動脈瘤が多いのとは対照的であり,動脈瘤の発生,増大,破裂機序は部位別に検討する必要がありそうである.(島根県立中央病院 井川房夫)

執筆者: 

有田和徳