抗けいれん剤の長期投与がパーキンソン病の発症につながるのか:UKバイオバンクの解析

公開日:

2023年3月6日  

最終更新日:

2023年3月20日

Association Between Antiepileptic Drugs and Incident Parkinson Disease

Author:

Belete D  et al.

Affiliation:

Neurology Unit, Wolfson Institute of Population Health, Faculty of Medicine and Dentistry, Queen Mary University of London, London, UK

⇒ PubMedで読む[PMID:36574240]

ジャーナル名:JAMA Neurol.
発行年月:2023 Feb
巻数:80(2)
開始ページ:183

【背景】

以前からてんかんとパーキンソン病の関係が指摘されているが(文献1,2),抗けいれん剤服用が影響している可能性も推測されている.本研究は英国バイオバンク・データベースに参加の50万人のうち処方データがリンク出来た22万人を用いたコホート内症例対照研究である.パーキンソン病と診断された1,433名(年齢中央値71歳,男性61%)を抽出し,年齢・性・人種・社会経済的状況をマッチさせた8,598例を対照群として抗けいれん剤の服用状況を比較した.

【結論】

パーキンソン病患者群における発症前の抗けいれん剤の処方率は4.3%で,対照群での2.1%に比較して有意に高かった(オッズ比:1.80,95%CI:1.35~2.40,p<.001).てんかんと診断されたのは対照群の1%に比較してパーキンソン病患者群で4.4%と高かった.抗けいれんの処方回数と処方された抗けいれん剤の種類の多さはパーキンソン病のリスク増大と相関する傾向を示した.
ラモトリギン,レベチラセタム,バルプロ酸の処方の頻度はそれぞれ,パーキンソン病患者群で対照群より有意に高かった(p<.001).カルバマゼピンの処方の頻度はパーキンソン病患者群で高い傾向であった(p=.07).

【評価】

本研究では,パーキンソン病患者群では対照群に比較して,パーキンソン病診断前に抗けいれん剤が処方されている頻度が有意に高いことを明らかにした.最も差が大きかったのはバルプロ酸で,パーキンソン病患者群2.1%に対して対照群0.6%であった(p=1.17×10-8).
抗けいれん剤による薬剤性パーキンソン症候群のケースや,パーキンソン病の発症に伴う感情の変化や神経心理学的な変化をてんかんと捉えて抗けいれん剤が処方されたケースを排除するために,パーキンソン病診断前1,2,5年以内の抗けいれん剤の処方を除外しても,抗けいれん剤服用とパーキンソン病の相関関係は変わらなかった.
抗けいれん剤の内服がパーキンソン病をもたらすとしたら,その機序はどこにあるのか.
カルバマゼピンやバルプロ酸はドパミン受容体のダウンレギュレーションやドパミンへの感受性低下と相関していることが知られている(文献3,4).また,レベチラセタム服用患者がドパミン活動性の低下と関係する遺伝的変異を有している場合は精神性の副作用リスクが高いことも報告されている(文献5).しかし,現段階で機序に関する明確な答えは得られていない.
いずれにしても,本研究は社会的に大きなインパクトがある問題を提起している.他の大規模コホートでの実証とその機序の解明が待たれる.

<コメント>
抗てんかん薬がパーキンソン病発症の原因となりうることを示した影響力のある論文である.本文は抗てんかん薬とパーキンソン病の因果関係を示唆する内容だが,タイトルはAssociation(関連)に留まっている.本当に因果関係があるかは,慎重な解釈が必要であろう.
本研究の対象のうち,パーキンソン病の診断前に抗てんかん薬が処方されていたのは62例,そのうち46例は5年以上の長期にわたって処方されていた(Supplement).考察でも述べられているように「パーキンソン病」の診断が正確かどうかには大きな疑問がある.最も関連が強いとされたバルプロ酸は,副作用として振戦が見られやすい薬剤である.レベチラセタムも同様である.パーキンソン症候群がパーキンソン病の診断に結び付けられている可能性は否定できない.また,発症から最終的にパーキンソン病の診断に至るまで時間を要している可能性もあると思われる.
パーキンソン病を含めた変性疾患が,てんかん発作やてんかんの原因となりうることは,よく知られつつある.また,当然のごとく,てんかんは抗てんかん薬処方の原因となる.ここで,パーキンソン病→てんかん,てんかん→抗てんかん薬処方という因果関係が想定される.もし抗てんかん薬がパーキンソン病の原因であるならば,抗てんかん薬処方→パーキンソン病という因果関係が加わる.こうなると因果関係が循環してしまい,観察データのみから因果を推論することが不可能になってしまう.抗てんかん薬がパーキンソン病の発症につながることを示すには,基礎研究によるエビデンスか,前向き研究が必要であろう.(国立精神・神経医療研究センター脳神経外科 岩崎真樹)

執筆者: 

有田和徳