日本に続いて,大きな急性期脳梗塞(ASPECTS 3~5)に対する血栓回収療法の有効性を証明:SELECT2国際共同RCT

公開日:

2023年3月27日  

最終更新日:

2023年3月28日

Trial of Endovascular Thrombectomy for Large Ischemic Strokes

Author:

Sarraj A  et al.

Affiliation:

Department of Neurology, University Hospitals Cleveland Medical Center–Case Western Reserve University, Cleveland, OH, USA

⇒ PubMedで読む[PMID:36762865]

ジャーナル名:N Engl J Med.
発行年月:2023 Feb
巻数:Online ahead of print.
開始ページ:

【背景】

急性期の前方循環急性閉塞に対する血栓回収療法は,一般に虚血コアが比較的小さなもの(ASPECTS>5)が対象とされている.大きな虚血コアを示す前方循環急性閉塞に対する血栓回収療法の有用性に関しては日本で実施されたRCTを除けばエビデンスは弱い(文献1).
本研究は,北米や欧州など世界31施設で実施された,単純CTでASPECTS 3~5あるいはCT潅流画像かDWI-MRIで虚血コアが50 mL以上と診断された急性期前方循環閉塞患者に対する血栓回収療法のRCTである.血栓回収療法が発症後24時間以内に開始出来る患者352例を内科的治療群と血栓回収療法群に1:1で無作為に割り当てた.

【結論】

一次アウトカムは発症後90日のmRSとした.
血栓回収療法群では,内科的治療群に比較して機能予後良好の方向への有意のmRSシフトが認められた(一般化オッズ比1.51,95%CI 1.20~1.89,p<.001).血栓回収療法群の20%,内科的治療群の7%が機能的自立(mRS 0~2)となった(相対リスク 2.97,CI 1.60~5.51).死亡率は2群間で同様であった(38.2%対40.8%).24時間以内の症候性頭蓋内出血は血栓回収群で1例,内科的治療群で2例に生じた(0.6%対1.1%).
血栓回収療法に伴う合併症は33例で生じ,内訳は動脈解離10例,脳動脈穿通7例,一過性動脈れん縮11例などであった.

【評価】

急性期前方循環閉塞のうち約1/5がASPECTS <6の大きな虚血コアを有する(文献2).そのような大きな虚血コアを示す急性期前方循環閉塞に対する血栓回収療法の有効性をRCTで初めて示したのは,2022年にNEJM上で発表された日本のRESCUE-Japan LIMIT研究である(文献1).これは発症6時間以内かFLAIRで早期変化がまだ出ていない最終健常確認後24時間以内のASPECTS 3~5の脳梗塞患者203例を対象としたRCTで,血管内治療群の方が標準的薬物治療群よりもmRS 0~3(機能的自立)の頻度が有意に高いことを明らかにした(相対リスク2.43,p=.002).
本稿は北米,欧州,オーストラリア,ニュージーランドの31施設で実施された,虚血コアがASPECTS 3~5あるいは最低50 mLと診断された急性期前方循環閉塞患者に対する血栓回収療法に関するRCTの結果である.その結果,血栓回収療法群では内科的治療群に比較して90日目の機能予後が良好(mRSがより低い方向にシフト)であることを示した(p<.001).本研究は,中間解析の結果を基に,早期終了となっている.ちなみに,最終健常確認からランダム化までの時間中央値は血栓回収群9.8時間,内科治療群9.1時間であった.経静脈的血栓溶解剤の投与は,血栓回収療法群20.8%,内科的治療群17.3%で差はなかった.
本稿と同時にNEJM上で発表された中国のANGEL-ASPECTは,ASPECTS 3~5か虚血コア体積が70~100 mLの急性期前方循環閉塞に対する発症後24時間以内の血栓回収療法が,内科的治療と比較して,より良好な機能予後の方向へのmRSシフトをもたらすことを明らかにした(一般化オッズ比 1.37,95%CI 1.11~1.69,p=.004).
これで,日本,北米・欧州・オセアニア,中国と,対象の選択に若干の違いはあるものの,ASPECTS 3~5の大梗塞に対する発症24時間以内の血栓回収療法の有効性が示されたことになる.今後,既に多くのエビデンスが重なっている比較的小型の梗塞巣(ASPECTS≧6)も含めて,急性期前方循環閉塞に対する血栓回収療法が標準治療としてより発展するであろう.
それでは,どこまでの大梗塞が血栓回収療法の対象になるのか.RESCUE-Japan LIMITの二次解析では,ASPECTS 4~5点の患者では主要アウトカムの発症90日目のmRS 0~3(機能的自立)は血管内治療群で著明に高かったが(オッズ比 9.12,p値=.01),ASPECTS 3点以下の症例に対する血管内治療の有効性は示されなかった(文献4).のみならず,ASPECTS 3点以下の症例では,48時間以内の頭蓋内出血の頻度は,血管内治療群で21例(47.7%)と薬物治療群の16例(30.8%)に比して有意に高かった(オッズ比 4.14,CI 1.84~9.32,p<.001).
本稿のSELECT2研究対象の352例中でASPECTS 0~2の患者は20例含まれていたが,これらの症例では血栓回収療法の有効性は示されていない(一般化オッズ比 1.40,95%CI 0.91~2.16).
やはり,ASPECTS 3以下の非常に大きな虚血コアを有する症例に対する血栓回収療法は相当慎重に選択されるべきであろうが,実際にASPECTS 2か3か4か判定に迷うことは多い.日本でもRAPIDシステムなどの虚血コア自動解析ソフトの導入が急がれるべきであろう(文献5).
本稿の研究で少し気になるのは,症候性頭蓋内出血の頻度が血栓回収療法群,内科的治療群ともに極めて低かったことである(24時間以内で0.6%と1.1%).症候性頭蓋内出血の頻度は,RESCUE-Japan LIMITでは48時間以内で9.0%と4.9%,ANGEL-ASPECTでは48時間以内で6.1%と2.7%である.単純に経過観察時間の違いだけの問題か,特殊な予防措置を講じた結果なのかは言及されていない.

<コメント>
また,虚血コア体積の違いについて,SELECT2試験では虚血コア体積の中央値が血栓回収療法群と内科的治療群でそれぞれ81.5ml,79mlであった.入院時ASPECTSの中央値は両群とも4であった.一方,先行研究であるRESCUE-Japan LIMIT研究では虚血コア体積の中央値は血栓回収療法群94ml,内科治療群110ml,ベースラインのASPECTSの中央値はそれぞれ3,4であった.
日本ではより重症例を扱っていた可能性が示唆されるが,主な原因として虚血コア体積の評価を日本では主にMRIを使用して行っていたことが挙げられる.DWI-ASPECTSはCT-ASPECTSに比較して1点ほど下がるとされており,RESCUE-Japan LIMITではより大きな虚血コアを算出している可能性がある.虚血コア体積が大きく異なる群での検証を行っているのであれば,先の症候性頭蓋内出血の頻度の違いの説明もできるかもしれない.これらの違いについては,今後の統合解析で検証されるべきである.<兵庫医科大学脳神経外科 金城典人,吉村紳一>

執筆者: 

有田和徳