公開日:
2023年3月27日最終更新日:
2023年3月28日Safety and efficacy of propranolol for treatment of familial cerebral cavernous malformations (Treat_CCM): a randomised, open-label, blinded-endpoint, phase 2 pilot trial
Author:
Lanfranconi S et al.Affiliation:
Department of Neurology, Fondazione IRCCS Cà Granda Ospedale Maggiore Policlinico, Milan, Italyジャーナル名: | Lancet Neurol. |
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発行年月: | 2023 Jan |
巻数: | 22(1) |
開始ページ: | 35 |
【背景】
脳海綿状血管腫は人口の0.1~0.8%に認められるありふれた血管奇形である(文献1).多発性の海綿状血管腫ではその多くが家族性で,主にCCM1-3の3つの遺伝子変異のうちどれかを有し,その頻度は人口0.5~1万人に1人と推定される(文献2).海綿状血管腫からの出血の頻度は5年間で3.8~30.8%とされているが(文献3),出血を未然に防止する有効な手立てはない.本稿は家族性海綿状血管腫に対するプロプラノロール投与第2相パイロット試験の結果である.対象は症候性の家族性海綿状血管腫の83例(平均46歳,女性58%)で,57例は標準ケア+プロプラノロール,26例は標準ケアのみにランダムに割り当てられた.
【結論】
プロプラノロール投与量は20 mg/日から開始し,耐性に応じて160 mgまで増量した.2年間の追跡期間における症候性頭蓋内出血か局所脳神経症状の出現頻度はプロプラノロール群1.7/100人・年,標準ケア群3.9/100人・年であり,単変量ハザード比は0.43(80%CI:0.18~0.98)であった.全入院件数はプロプラノロール群,標準ケア群とも8.2/100人・年で差はなかった.プロプラノロール群のうち3例のみが服用を中止した(低血圧2例,虚弱感1例).
プロプラノロールは症候性家族性海綿状血管腫症例の症候性出血などの新規臨床イベントを減少させるかも知れない.
【評価】
脳海綿状血管腫に類似した軟部組織の乳児血管腫ではプロプラノロール内服が標準治療の一つとなっている(文献4).また,症例報告レベルあるいは非ランダム化コホート研究では,脳海綿状血管腫に対するプロプラノロールの有効性が報告されている(文献5~8).本研究では家族性のみが対象で症例数は多くはないが,脳海綿状血管腫症例に対する世界で初めてのRCTである.その結果,プロプラノロール内服は安全であり,症候性頭蓋内出血か局所脳神経症状の出現頻度はプロプラノロール群が標準ケア群に比較して有意に少なかった.
興味深いのは,本研究では,プロプラノロール投与は既に存在する海綿状血管腫には影響を与えず,新規の海綿状血管腫出現を抑制したことである.このような作用は動物実験でも示唆されているが(文献9),そのメカニズムは明らかではない.プロプラノロールが血管内皮機能を救援し,血管透過性や血管新生を抑制することによって新規の海綿状血管腫発生を抑制する可能性などが示唆されている.
現在,症候性の脳海綿状血管腫に対してはアトルバスタチン内服に関するRCT(I-II相)が進行中であり(文献10),2025年頃にその結果が明らかにされるはずである.
脳の海綿状血管腫は,比較的ありふれた疾患であり,脳深部に存在するものや,多発性のものも多いことから,出血や新規病変発生を防ぐための有効な薬物療法の開発が急務である.スタチンにしてもプロプラノロールにしても,より大規模のRCTが取り組まれるべきであろう.
<コメント>
家族性脳海綿状血管腫(FCCMs)の症候例に対するプロプラノロール投与の有効性をRCT試験で示した論文である.非常に興味深い内容であるが,下記の理由から今後本研究結果への検証が必要と思われる.
1.症候性FCCMsにプロプラノロールが有効である理由のひとつとして,血管内皮の透過性に影響する+毛細血管増生の抑制が想定されているが,一方でCCMsは静脈系に親和性が高く,cerebral cavernous venous malformationsと呼ばれることもある.CCMsは別名angiographically occult vascular malformationでもある.そのためFCCMsの出血は静脈側からの出血が想定されてきた.CCMsに合併する血管奇形は通常静脈性血管腫である.本論文で述べている血管内皮,毛細血管へのプロプラノロールの作用で出血率減少が説明可能かは検証が必要と思われる.
2.FCCMsの発現(個数,サイズ)は多彩である.更に病変の局在が大脳病変が主なもの,大脳病変に加え小脳半球および脳幹部に病変が多発するもの,全2者に加え脊髄にも病変が発現するもの,と多様である.一般にFCCMsの遺伝子変異はCCM1-3,およびそれ以外のものに分類されるが,家系内で同一変異が同定されるも発現様式は一様ではなく,遺伝子変異と発現様式の関係は1対1対応ではないことが予想される(Tsutsumi S, J Neurol Sci, 2016).そのためプロプラノロールが有効なFCCMsはある一定の特徴を有するCCMsに限定される可能性がある.
3.本試験ではプロプラノロールの投与量,投与方法が一定でなかった.
以上を踏まえても,本論文により未だに不明な点が多いFCCMsに対する治療の可能性が示されたことは意義深いとおもわれる.(順天堂大学医学部附属浦安病院脳神経外科 堤 佐斗志)
執筆者:
有田和徳関連文献
- 1) Flemming KD, et al. Population-based prevalence of cerebral cavernous malformations in older adults: Mayo Clinic study of aging. JAMA Neurol 74: 801–05, 2017
- 2) Zafar A, et al. Familial cerebral cavernous malformations. Stroke 50: 1294–301, 2019
- 3) Horne MA, et al. Clinical course of untreated cerebral cavernous malformations: a meta-analysis of individual patient data. Lancet Neurol 15: 166–73, 2016
- 4) Drolet BA, et al. Initiation and use of propranolol for infantile hemangioma: report of a consensus conference. Pediatrics 131: 128–40, 2013
- 5) Moschovi M, et al. Propranolol treatment for a giant infantile brain cavernoma. J Child Neurol 25: 653–55, 2010
- 6) Berti I, et al. Propranolol for cerebral cavernous angiomatosis: a magic bullet. Clin Pediatr (Phila) 53: 189–90, 2014
- 7) Goldberg J, et al. Bleeding risk of cerebral cavernous malformations in patients on β-blocker medication: a cohort study. J Neurosurg 130: 1931–36, 2018
- 8) Zuurbier SM, et al. Association between beta-blocker or statin drug use and the risk of hemorrhage from cerebral cavernous malformations. Stroke53: 2521–27, 2022
- 9) Oldenburg J, et al. Propranolol reduces the development of lesions and rescues barrier function in cerebral cavernous malformations: a preclinical study. Stroke 52: 1418–27, 2021
- 10) Polster SP, et al. Atorvastatin Treatment of Cavernous Angiomas with Symptomatic Hemorrhage Exploratory Proof of Concept (AT CASH EPOC) Trial. Neurosurgery. 85(6):843-853, 2019
参考サマリー