公開日:
2023年4月12日Congenitally Fused Cervical Spine Is Associated With Adjacent-Level Degeneration in the Absence of Cervical Spine Surgery
Author:
Friedman GN et al.Affiliation:
Department of Neurosurgery, Massachusetts General Hospital, Boston, MA, USAジャーナル名: | Neurosurgery. |
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発行年月: | 2023 Mar |
巻数: | Online ahead of print. |
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【背景】
椎体固定手術後に隣接椎間の変性が起きやすいこと(文献1),その結果として隣接椎間の手術が多いことは良く知られているところである(文献2,3).では先天性の頚椎椎体癒合ではどうか.本稿はハーバード大学関連のマス・ジェネラル・ブリガム病院システムの患者登録のデータベースから,手術後やKlippel-Feil症候群でない単一椎間レベルの頚椎先天性癒合を有する96例(平均51歳)を対象とし,年齢をマッチさせた80例を対照として抽出して比較したものである.全体で995個の頚椎の椎間可動部を変形性椎間板症スコアと変形性椎間関節症スコア(いずれも0~4の5段階で4が最重症)(文献4,5)を用いて評価した.
【結論】
対象96例における,椎体レベル毎の癒合椎体の数はC2-3:47例,C3-4:11例,C4-5:11例,C5-6:11例,C6-7:9例であった.
先天性頚椎癒合が頚椎椎体C4-C5とC5-C6レベルに認められる症例では対照群,あるいは他の頚椎椎体レベルに癒合が認められる例に比較して隣接椎間可動域(頭側も尾側も)の変性の平均スコアが有意に高かった.例えば,C4-C5癒合症例では,そのすぐ頭側の隣接可動部(C3-C4)の変形性椎間板症スコアは2.73(±0.46,SEM)であったのに対して,対照群では0.95(±0.11)であった(p <.001).
【評価】
そうでしょうねという結果である.翻って,この事実は頚部脊柱管狭窄症に対する手術方法をめぐる議論,すなわち固定術か,椎間可動域を保った手術か,にも影響を与えそうである.
<コメント>
Klippel-Feil syndromeを含めた先天性,後天性(化膿性脊椎炎,骨折の自然癒合後など)脊椎椎間癒合の結果,隣接椎間変化を来しやすいというのは,脊椎臨床家は経験的に実感している共通認識であろう.それを客観的に評価し,エビデンスとして残した点にこの論文の価値がある.
では,その事実を踏まえて手術法の選択にどのような影響を与えるか,という臨床的疑問への回答は容易ではない.たとえば,C5-6の椎体が先天的に癒合している患者が隣接椎間変化によるC4-5の椎間板ヘルニアを来たし,それによる頚髄圧迫で重度の脊髄症状を持って来院したとしよう.手術適応があると仮定して,この時点では前方除圧,後方除圧いずれも考えられる.C4-5ヘルニアに骨棘を伴っていなければ前方除圧,人工椎間板を留置して将来のさらなる隣接椎間変化のリスクを低下させることもできるかもしれない.しかし,当該領域の脊椎不安定性が懸念される場合にはなんらかの固定を要する.C4-5に不安定性を来しているか,尾側隣接椎間のC6-7の変性程度,不安定性があるか,頚椎全体の脊柱管狭窄があるか,など様々な因子を勘案することになる.手術方法もC4-5前方固定,C3-6の一般的な頚椎椎弓形成術を始め,C6-7に不安定性があり,C4-5の前方固定によってその不安定性を悪化させる懸念があればC4-5の椎間板ヘルニアにも関わらず広範な頚椎後方固定も選択に入ってくる,さらにC7で頚椎後方固定を止めると頚椎胸椎移行部の変性を悪化させる懸念があるためC4から上位胸椎まで固定するという選択肢すら可能性がある.そもそも喫緊の問題(C4-5椎間板障害)のみを治療するのか,将来の症候性隣接椎間変化まで考えて総合的な手術を計画するのかは外科医個々の判断に依ることになる.つまり,術式選択のアルゴリズムは多岐多様にわたるため,本論文の著者も,本研究を踏まえての手術選択にまでは深く踏み込んでいないのであろう.(University of Iowa 脳神経外科 山口智)
関連文献
- 1) Levin DA, et al. Adjacent segment degeneration following spinal fusion for degenerative disc disease. Bull NYU Hosp Jt Dis. 65(1):29-36, 2007
- 2) van Eck CF, et al. The revision rate and occurrence of adjacent segment disease after anterior cervical discectomy and fusion: a study of 672 consecutive patients. Spine. 39(26):2143-2147, 2014
- 3) Xia XP, et al. Prevalence of adjacent segment degeneration after spine surgery: a systematic review and meta-analysis. Spine. 38(7):597-608, 2013
- 4) Kellgren JH, et al. Radiological assessment of osteo-arthrosis. Ann Rheum Dis. 16(4):494-502, 1957
- 5) Siemionow K, et al. Preliminary analysis of adjacent segment degeneration in patients treated with posterior cervical cages: 2-year follow-up. World Neurosurg. 89:730.e1-737.e1, 2016