内頚動脈狭窄症への血流再建手術が認知機能とデフォルトモードネットワークに及ぼす影響:神戸大学の27例

公開日:

2023年4月12日  

Effects of carotid revascularization on cognitive function and brain functional connectivity in carotid stenosis patients with cognitive impairment: a pilot study

Author:

Kohta M  et al.

Affiliation:

Departments of Neurosurgery and Anesthesiology, Kobe University Graduate School of Medicine, Kobe, Japan

⇒ PubMedで読む[PMID:36905664]

ジャーナル名:J Neurosurg.
発行年月:2023 Mar
巻数:Online ahead of print.
開始ページ:

【背景】

内頚動脈狭窄は虚血性脳卒中とともに認知機能低下をもたらす(文献1).内頚動脈血流再建術(CEA,CAS)が,虚血性脳卒中予防に有用なことは周知であるが,認知機能への影響については議論の余地がある(文献2-4).神戸大学脳外科のチームは,内頚動脈血流再建術が認知機能に及ぼす影響を明らかにするため,内頚動脈狭窄症27例を対象に,手術前後で,認知機能検査(MMSE,FAB,MoCA)を行い,さらにデフォルトモードネットワーク(DMN)に焦点を当てた脳機能結合(FC)を安静時機能的MRI(rs-fMRI)で解析した.術前,11例が認知機能正常,16例が認知機能障害(MoCA <26)と判定された.

【結論】

rs-fMRでは,DMNに関連する脳領域にシードを置いて解析した.認知機能障害群では認知機能正常群と比較して,手術前の前頭前野と楔前部のFCならびに左外側頭頂皮質と右小脳のFCが有意に低かった.
認知機能障害群では,手術前と比較して手術後3ヵ月目では,MMSE,FAB,MoCAのいずれも有意の改善が認められた(p =0.02,0.01,0.0001).認知機能障害群では,手術後に左外側頭頂皮質と右鳥距溝内皮質,右舌状回,楔前部のFCの有意の上昇が認められた.また左外側頭頂皮質と楔前部のFCの上昇とMoCAスコアの上昇は有意に相関していた(r =0.585,p =0.0173).

【評価】

本稿は,手術前に認知機能障害が認められる内頚動脈狭窄症患者では,血流再建手術後3ヵ月目で,3種類の認知機能検査(MMSE,FAB,MoCA)において,手術前と比較して有意のスコア改善が得られることを明らかにした.さらに,認知機能障害群では,rs-fMRIで解析した脳機能結合は手術前には低下していたが,手術後に改善し,特に左外側頭頂皮質と楔前部の脳機能結合の改善は,手術後のMoCAスコアの上昇と相関していた.著者らは,この結果をまとめて,認知機能障害を有する内頚動脈狭窄症患者では,手術後にデフォルトモードにおける安静時脳機能結合の上昇を介して認知機能の改善が得られる可能性が示唆されると述べている.
内頚動脈狭窄症患者における前頭前野と楔前部の機能結合の低下はこれまでにも報告があったが(文献5),本研究ではさらに,認知機能低下を伴わない群と比較して認知機能低下を示す群では左外側頭頂皮質と右小脳の機能結合の低下が認められることも明らかにした.左外側頭頂皮質と右小脳の機能結合が知能指数と関係すること(文献6),小脳が神経認知ネットワークのハブとして重要な役割を担っていることが既に報告されている(文献7).本研究結果は内頚動脈狭窄症患者における認知機能の低下が,これらの安静時脳機能結合の低下と関係していることを推定させる.
本研究では,認知機能障害群では,手術後に左外側頭頂皮質と右鳥距溝内皮質,右舌状回,楔前部の脳機能結合の有意の上昇が認められた.外側頭頂皮質は注意,ワーキングメモリ,空間的認知,社会的認知とリンクしている(文献8).楔前部もデフォルトモードネットワークの機能的コアの一つであり,視空間機能,自伝的記憶,外部駆動情報と内部駆動情報の統合に関わっている(文献9).血流再建手術がこれらの機能的コアあるいはハブの他部位との脳機能結合を促進することが想像される.
本稿は,従来から存在する内頚動脈血流再建手術の新たな臨床的意義を示唆する重要な発見を提示している.今後,より症例数を増やし,また追跡期間を延長して,この事実を再検証する必要性がある.また,実際の血流増加部位や血流増加量さらには微小塞栓の減少が,安静時脳機能結合の改善とどのように関係するのかが明らかになることを期待したい.

<コメント>
今回の検討は,頚動脈狭窄症に対する血流再建術(CEA/CAS)が認知機能障害を改善させる可能性を示した.頚動脈狭窄症に起因する脳循環動態の悪化は認知機能障害の原因になるとされているが,これまでの報告では,CEA/CASによって認知機能が改善し得るか否かについて一定の結論が得られていなかった.その原因の一つとして,認知機能評価として使用される神経心理学的検査には,反復による学習効果があることが挙げられていた.そのため,本研究では,客観的な評価法として,安静時functional MRIの手法を利用し,神経ネットワークの解析を行った.今回は少数例での検討であったが,今後は十分な症例数による解析を行い,CEAとCASの手技による効果の違いや病変側や狭窄度による改善度の違いについて検討することが必要と考えている.さらに,CEA/CASによって改善し得る認知機能障害の特徴が判別できれば,臨床的意義がより大きなものになると考えている.
(神戸大学脳神経外科 甲田将章)

執筆者: 

有田和徳