抗血小板剤内服は慢性硬膜下血腫の治療経過や再発率に影響を与えない:傾向スコアマッチングによる解析

公開日:

2023年4月12日  

Outcome of Chronic Subdural Hematoma Intervention in Patients on Long-Term Antiplatelet Therapy-A Propensity Score Matched Analysis

Author:

Salih M  et al.

Affiliation:

Neurosurgical Service, Beth Israel Deaconess Medical Center Brain Aneurysm Institute, Harvard Medical School, Boston, MA, USA

⇒ PubMedで読む[PMID:36921243]

ジャーナル名:Neurosurgery.
発行年月:2023 Mar
巻数:Online ahead of print.
開始ページ:

【背景】

慢性硬膜下血腫患者における抗血小板剤の服用と周術期合併症や再発との関係が危惧されているが(文献1-4),因果関係は明らかではない.ハーバード医科大学附属病院(BIDMC)のチームは,過去15年間に手術を行った慢性硬膜下血腫患者を解析し,この事を検討した.手術前の抗血小板剤服用者は178例で,非服用者は298例であった.服用者群が有意に高齢で,高血圧や糖尿病の有病率が高かった(いずれもp <.001).
手術前のこの2群の中から60組の患者を傾向スコア法でマッチさせた.手術前のマッチング項目は,年齢,性,mRS,GCS,血腫の厚み,中心線偏位距離,手術の種類,手術前の抗凝固剤の使用とした.

【結論】

手術後は,88例が手術後5-10日目に抗血小板剤(アスピリン)を再開し,388例は非服用であった.手術後のこの2群の中から55組の患者を傾向スコア法でマッチさせた.手術後のマッチング項目は,年齢,性,mRS,GCS,血腫の厚み,中心線偏位距離,手術の種類,手術後の抗凝固剤の使用,画像による経過観察期間とした.
術前マッチングの2群間では,入院期間,手術合併症率,同一入院期間の再手術率に差はなかった(p =0.25,p =0.68,p =1).術後マッチングの2群間では,再発率,退院後の再手術率に差はなかった(p =1,p =1).

【評価】

本研究は,抗血小板剤の術前服用あるいは術後早期再開が,慢性硬膜下血腫患者の入院期間,手術合併症率,入院中再手術率,再発率,退院後再手術率に影響を与えない事を,傾向スコアマッチング解析で明らかにした.
ちなみに抗血小板剤服用群178例中で,服用していた抗血小板剤はアスピリン81 mg単剤121例,アスピリン325 mg単剤19例,クロピドグレル75 mg単剤9例,アスピリン81 mg+クロピドグレル75 mg併用6例などであった.また,抗血小板剤服用群の23%,非服用群の21%で抗凝固剤を服用していた.手術療法の内訳は抗血小板剤服用者178例中では開頭(穿頭)術65.7%,中硬膜動脈塞栓術20.2%,開頭術+中硬膜動脈塞栓術14.1%であり,非服用者298例では開頭術76.5%,中硬膜動脈塞栓術14.8%,開頭術+中硬膜動脈塞栓術8.7%であった.
明らかな症状を呈している慢性硬膜下血腫に対しては,抗血小板剤服用の有無にかかわらず,早急な手術を行わざるを得ない.したがって,本研究の結果は,年々高齢化し,抗血小板剤を使用している割合が増加している慢性硬膜下血腫患者を扱わざるを得ない第一線の脳外科医にとっては安心を与えるものとなっている.しかし,傾向スコアマッチング解析を行っているとは言え,未知の交絡を排除出来ない.したがってやはり,抗血小板剤を服用していた患者では,手術後早期にCTを撮るなどの経験主義的な対応は採らざるを得ないように思う.
一方,手術後にいつ抗血小板剤を開始すべきかに関しては,選択の余地がある.本研究では手術後5-10日目に抗血小板剤が開始された患者群でも,手術後抗血小板剤非服用群と比較して,再発率,退院後の再手術率に差はなかった.既に,術後の抗血小板剤再開のタイミングと再発率には関係がなかったという報告があるが(文献5),今後,RCTで確認すべきであろう.
さらに,手術前の抗凝固剤服用患者でも同様に,再発との関係を指摘する報告と否定する報告があり,まだ結論は得られていない(文献6,7).こちらも,大規模研究でその影響を解析して欲しいところである.

執筆者: 

有田和徳