難治性てんかんに対する再手術3年後のEngelクラス1が71%:ミュンヘン大学の38例

公開日:

2023年4月12日  

最終更新日:

2023年4月13日

Seizure-free outcome and safety of repeated epilepsy surgery for persistent or recurrent seizures

Author:

Kunz M  et al.

Affiliation:

Department of Neurosurgery, University Hospital of the Ludwig-Maximilians-University of Munich, Munich, Germany

⇒ PubMedで読む[PMID:35901761]

ジャーナル名:J Neurosurg.
発行年月:2022 Jun
巻数:138(1)
開始ページ:9

【背景】

難治性てんかんに対する外科手術は2/3の症例で発作の消失をもたらす(文献1).では,発作が残った症例に対する再手術の効果はどうか.本稿はミュンヘン大学における後方視研究である.2010年以降の10年間に初回手術を受けた337例(切除術329例,離断術8例)中,術後発作消失例,PNESと診断された4例,DBSを受けた4例を除いた48例が再手術を視野に術前再評価を受けた.このうち40例が再手術を受け,観察期間が12ヵ月以下の2例を除いた38例(離断術5例を含む)を解析対象とした.年齢中央値34歳.初回手術から再手術までの中央値74ヵ月(5-324).再手術後の追跡期間中央値38ヵ月.

【結論】

66%が侵襲的なビデオ-脳波モニタリングを受け,71%でマルチモーダル3Dマップが作成された.MRIでは63%にてんかん原性の器質的病変の残存が認められた.再手術の脳葉は側頭葉47%,側頭葉外24%,多脳葉29%であった.再手術の部位は左半球63%,エロクエントエリア近傍50%,初回手術から離れた部位21%であった.組織像は皮質形成異常45%,低悪性度グリオーマ21%,海馬硬化11%,グリオーシス11%,血管奇形8%などであった.
再手術後に71%がEngelクラス1となった.側頭葉てんかんに対する手術や初回手術部位に隣接する手術ではEngelクラス1となる可能性が高い傾向であった.

【評価】

本研究の著者らは,難治性てんかんに対する再手術の結果,追跡期間中央値38ヵ月(13–142)でのEngelクラス1が71%という優れた成績を示している.周術期合併症は4例(11%)に生じた.内訳は術後出血2例,視野障害1例,シャント依存1例であった.手術死亡例はなかった.
著者らはこの38例における初回手術の失敗の原因を解析し,その63%がてんかん原性領域の不完全切除,23%が初回手術時に非活動性であった新たなてんかん原性領域の出現,11%が離断手術手技の不十分と分類している.63%を占めるてんかん原性領域不完全切除の理由はエロクエントエリア近傍のてんかん原性21%,初回手術前の侵襲的評価(頭蓋内脳波モニタリング)の非使用26%,初回手術前の侵襲的評価領域がてんかん原性領域をカバーしていなかったこと8%,切除範囲の見誤りなどの手術手技上の問題8%であった.
本研究のシリーズでは,再手術の術前評価として全例で非侵襲的ビデオ-脳波モニタリングを,66%で侵襲的なビデオ-脳波モニタリングを実施している.さらに71%で,FDG-PET,ictal SPECT,あるいはその両者といった核医学的検査は実施している(初回手術前は34%).またルーチンとして、T1強調MRI画像をベースとした3D脳イメージに,PET,SPECT,fMRI,DTI,MRA,頭蓋内電極イメージを重乗させ,これに発作波や脳機能マッピングデータを組み合わせて作成したマルチモーダル3Dマップで,精緻なサージカルプランニングを行っている.
従来の報告では,薬剤抵抗性てんかんに対する再手術後のけいれん消失率は高くなく(文献2),2013年のメタアナリシスで37%(文献3),2017年のメタアナリシスでは47%とされている(文献4).
著者らは,従来の報告よりも良好な彼らの手術成績の理由について,1)核医学的検査の多用(71%),2)硬膜下電極やステレオ脳内電極などの侵襲的脳波モニタリングの多用(66%),3)術中電気刺激やMEGによる脳機能モニタリングの多用(50%),4)マルチモーダル3Dマッピングの多用(71%),によっててんかん原性領域の正確な同定と安全かつ積極的なてんかん原性領域の切除が可能になったことを挙げている.
初回手術後のけいれん再発で苦労する患者・家族やてんかん外科医にとって勇気づけられるデータである.より多数例,より長期の追跡での検証に期待したい.

<コメント>
てんかん外科手術において,特にMRI病変を有する症例では,病変の完全切除が術後の発作消失のためには最も重要である.また,半球離断術や多脳葉離断術においては,完全な離断が重要である.著者らは,てんかんの根治手術後にてんかん発作が残存し,再手術を行い,その後最低1年以上追跡された多様な48例についてまとめた.71%の症例で再手術後に発作の消失を得たという.しかし,著者らの初回手術前の評価,および再手術のタイミングについては検討の余地があると考える.
初回手術前,FDG-PETは24%,発作時SPECTは34%のみで行われていた.一方,再手術前にはFDG-PETは53%,発作時SPECTは45%で施行されている.初回手術前から核医学検査を積極的に行うべきであったと考える.特にFDG-PETは最初から全例で行うべきである.
著者らは再手術時の頭蓋内脳波の有用性を示唆しているが,頭蓋内脳波が有効性を発揮するのは非侵襲的検索が十分になされているからであり,再評価時の核医学検査の多用が貢献したのではないかとも思われる.
機能野近傍の症例が50%を占めていたことが初回手術後の発作転帰不良要因と考察しているが,対象症例の病理はlow grade glioma,皮質形成異常,血管奇形などであった.タイプIの限局性皮質異形成を除き,これらの病因については,基本的には病変部位には機能はなく,病変切除術が奏功することが多いので,機能野近傍であっても初回手術時から完全切除をためらう理由はなかったのではないだろうか.著者らの見解とは異なるが,頭蓋内電極を用いたマッピングやモニタリングも必須ではないと評者は考える.
対象の63%ではてんかん原性病変の残存がMRIで認められ,また離断手術を行った4例では,4例とも離断が不十分であったという.再手術までの期間は平均74ヵ月(5-324ヵ月)であった.これは,初回手術後にいったん発作が消失し,年余を経て発作が再発する症例も多いためと考えられる.しかし,初回手術後発作が消失せず,MRI病変の残存が明らかであれば早い段階で再手術を考慮すべきであり,離断が不十分な場合も,早期の再手術が妥当と考える.早期に行った方が癒着も少なく合併症も少ないと思われる.
結語では,徹底した術前再評価が重要と述べているが,本来は初回手術前から核医学検査を含む徹底した術前評価を行うべきである.(静岡てんかん・神経医療センター脳神経外科 臼井直敬)

執筆者: 

有田和徳