脳内マイクロブリーズ多発はINPH患者におけるシャント手術後の出血性脳卒中のリスク因子である:スウェーデン,ウメオ大学

公開日:

2023年5月1日  

最終更新日:

2023年5月4日

Cerebral Microbleeds-Long-Term Outcome After Cerebrospinal Fluid Shunting in Idiopathic Normal Pressure Hydrocephalus

Author:

Hansson W  et al.

Affiliation:

Department of Clinical Science, Neurosciences, Umea University, Umea, Sweden

⇒ PubMedで読む[PMID:36853021]

ジャーナル名:Neurosurgery.
発行年月:2023 Feb
巻数:Online ahead of print.
開始ページ:

【背景】

人口の高齢化とともに特発性正常圧水頭症(INPH)の頻度は高くなっている.一方,高齢化とともに脳内マイクロブリーズ(CMBs)の頻度も高くなっており(文献1,2),INPH患者ではその頻度がより高い(文献3).CMBsは脳内出血のリスク因子であることが知られているが(文献4),シャント手術後のINPH患者ではどうなのか.本研究はスウェーデン,ウメオ大学で2008年から8年間にINPHに対してVPシャント手術が実施され,術前に3T-MRIでのT2*かSWI像が得られていた149例(平均73歳)を平均6.5年間追跡したものである.手術前に74例(50%)がCMBsを1個以上有していた.

【結論】

シャント手術後中央値30.2ヵ月で,7例(5%)が出血性脳卒中(大脳出血3例,小脳出血,脳室内出血,くも膜下出血,出血性静脈洞血栓症が各1例)を起こし,43例(29%)が硬膜下血腫/水腫となった.VPシャント挿入手技に直接関連する脳内出血の発生はなかった.
CMBsの存在は高い死亡率と相関した(p =.02).一方,CMBsの存在は,歩行障害改善の有無,硬膜下血腫/水腫の発生とは相関しなかった.
しかし,50個以上のCMBsが存在する頻度は出血性脳卒中患者で29%,後膜下血腫/水腫患者で9%,頭蓋内出血性イベントのない患者で4%と,出血性脳卒中を起こした患者で有意に多かった(p =.03).

【評価】

脳微小出血痕=マイクロブリーズ(CMBs)の多くは原因不明であるが,脳アミロイド血管症,アルツハイマー病(アミロイド沈着が背景),脳動脈硬化,脳小血管病との関係が示唆されている(文献5).一般人口におけるCMBsの発見頻度は5-35%と報告されているが(文献1,2),スウェーデン,ウメオ大学におけるこの後方視研究では,INPH患者149例のうち半数にマイクロブリーズ(CMBs)が認められた.CMBsの数は中央値2.5個(IQR 1-15.5)で,50個以上の患者は10例であった.その分布は35%が脳葉限局,23%が深部灰白質か後頭蓋窩,42%が脳葉かつ深部灰白質/後頭蓋窩であった.
これらの事実は,INPHとCMBsとの関係を改めて示唆するものとなっている.
また,微小出血痕が多いという脳の状態が,シャント挿入手技それ自体,シャント挿入後の脳内微小循環や脳圧の変化にどう影響されるかは脳外科医の関心事項である.その結果,直接の機械的影響に関しては,本研究では半数の患者にCMBsがあったにもかかわらず,シャントチューブの挿入による脳内出血性合併症は1例も生じていない.
一方,50個以上のCMBsを有する患者では経過観察中に出血性脳卒中を来す割合が高いことを明らかにした.また,CMBsの存在(1個以上)は長期経過観察期間における高い死亡率と相関することがわかったが,本研究では死因の解析は行っておらず,CMBsとの直接の因果関係は不明である.
かたや,CMBsの存在の有無とシャント術後の歩行改善との関係はなかったが,これは,全例で手術前のタップ・テストにおける歩行を含む症状改善がシャント手術の前提条件とされたことが影響しているのかも知れない.
著者らも記載しているように,本研究にはいくつかの問題点がある.まず,手術後の認知機能が解析の対象となっていないので,もともと認知機能障害との関係が強く示唆されているCMBsの存在が(文献6,7),VPシャント後の認知機能にどのような変化を与えるかが不明である.また,同一年代の非INPH患者との比較がされていないので,INPHで50個以上のCMBsを有する患者では出血性脳卒中が多いと言っても,それがINPH患者に特有な病態であるのかは不明である.加えるに,出血性脳卒中の発生数がわずか7例と少ないので,50個以上のCMBsとの相関の信頼性は薄い可能性がある.さらに,CMBsの数がシャント手術後の長期経過でどのように変化するのかも知りたいところである.これらは今後,非INPH住民を対照とした,より大きなINPH患者集団で検討するべき課題であろう.
できれば,多数のCMBsを有するINPH患者を対象とした,シャント手術有りか無しかのランダム化試験も欲しいところである.

執筆者: 

有田和徳