慢性硬膜下血腫術後の安静臥床は不要:ポルトガル・サンアントニオ大学のGET-UP試験(208例)

公開日:

2023年5月1日  

Impact of an early mobilization protocol on the reduction of medical complications after surgery for chronic subdural hematoma: the GET-UP Trial

Author:

Sousa S  et al.

Affiliation:

Department of Neurosurgery, Centro Hospitalar Universitário de Santo António, Porto, Portugal

⇒ PubMedで読む[PMID:36933251]

ジャーナル名:J Neurosurg.
発行年月:2023 Mar
巻数:Online ahead of print.
開始ページ:

【背景】

慢性硬膜下血腫は,ありふれた疾患であるが,手術後の合併症は稀ではない.本稿は慢性硬膜下血腫術後の早期離床が術後合併症の発生に与える影響に関するRCTである.対象はポルトガル・サンアントニオ大学で穿頭洗浄+硬膜下ドレーン留置が予定された208例で,無作為に早期離床群と安静臥床群に一対一で割り付けされた.早期離床群では,手術後12時間以内に30度以上の頭部挙上,そして座位,立位,歩行と進んだ.移動時中はドレーンを閉鎖し,主として睡眠時に最低8時間ドレーンを開放した.安静臥床群では,手術後48時間は頭部挙上を30度以内に制限し,その間はドレーンを開放した.平均年齢は77.4歳で2群間で差はなかった.

【結論】

いずれの群も術後48時間でドレーンを抜去した.結果はITTで解析した.主要アウトカムである手術後退院までの合併症(感染,痙攣,血栓性イベント)の発生は,早期離床群では安静臥床群に比較して有意に低かった(19.2 vs 34.6%,p =.012).手術後1ヵ月目の比較的好ましい機能予後(GOSE ≥5)は早期離床群で多い傾向であった(81.7 vs 72.1%,p =.100).良好な機能予後(GOSE ≥7)は早期離床群で有意に多かった(75.0 vs 60.6%,p =.026).再手術の頻度は2群間で差はなかった(早期離床群7.7 vs 安静臥床群4.8%,p =.390).

【評価】

人口の高齢化とともに増加する慢性硬膜下血腫であるが(文献1),手術後の感染症などの合併症や再発は稀ではない.早期離床が慢性硬膜下血腫術後の合併症の発生に与える影響に関しては,既に本邦から歴史的対照と比較した前向き登録研究(192例)の結果が報告されている(文献2).これによれば,手術後合併症の発生は早期離床群で有意に少なかった(12.1 vs 26.4%,p <.05).UKからの多施設前向き登録研究(1,205例)も同様の結果である(文献3).
一方,早期離床に対する安静臥床の意図は再発予防にあるが(文献4),実際には,従来の研究では早期離床によって再発は増えないというものが多い(文献2,5,6,7).
このGET-UP試験はポルトガルで行われたRCTであるが,早期離床が,48時間の安静臥床に比較して,再発率を増やすことなく,合併症の発生を抑制することを示した.合併症の内訳を見ると,けいれんや血栓性イベントの発生に差はなかったが,早期離床群では呼吸器感染症と尿路感染症の発生率が大幅に低く(16.3 vs 30.8%,p =.014と7.7 vs 14.4%,p =.122).このことが合併症総体の発生率の有意差を生み出していた(19.2 vs 34.6%,p =.012).なお,手術後の平均在院日数は早期離床群で有意に短かった(5.3 vs 6.5日,p =.012).
さらに,手術後1ヵ月目の良好な機能予後良好(GOSE ≥7)の頻度も早期離床群で高かった.リハビリテーションの早期開始も機能予後に好影響を与えているものと思われる.
これらの解析結果に関しては,患者の術前の状態が影響を与えている可能性を否定できないため,著者らは,術前mRS ≤3の患者のみ(早期離床94例,安静臥床95例)を対象に同じ解析を行ったが,やはり同様の結果であった.
もし仮に,早期離床によって再発率が少々増えても,日本の脳外科のように穿頭洗浄術を脳外科管理の局所麻酔で出来るチームであれば,再度の穿頭洗浄術もあまりストレスにならない.むしろ肺炎や尿路感染症の方が医療提供者ならびに患者側に大きな負担となってくるので,出来るだけ避けたいところである.
そのような意味で,本稿の研究は過去最大のRCTで,早期離床の合併症抑制効果を示したという点で意義深い.さらに,入院期間の短縮にも役だっているということなので,今後,各施設で実行されるべき術後管理の方法であろう.
ただし,日本のように,80台後半-90歳台の患者が稀ではないという状況下では,早期離床にあたっては,十分な監視とケアが必要なことは言うまでもない.

執筆者: 

有田和徳