公開日:
2023年5月1日Endoscopic odontoidectomy for brainstem compression in association with posterior fossa decompression and occipitocervical fusion
Author:
Tosi U et al.Affiliation:
Departments of Neurological Surgery and Otorhinolaryngology, Weill Cornell Medicine, New York, New York, USAジャーナル名: | J Neurosurg. |
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発行年月: | 2023 Mar |
巻数: | Online ahead of print. |
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【背景】
前方から延髄・頚髄を圧迫している頭蓋頚椎移行部病変に対しては,従来経口的手術が行われてきた.本稿は症候性の頭蓋頚椎移行部病変に対する経鼻内視鏡的な歯突起切除術(EEO)の意義について検討したものである.対象はコーネル大学(NY)で2011年からの10年間にEEOを受けた42例(平均33.6歳,小児11例)で,78.6%は頭蓋底嵌入症,76.2%はキアリ1型異常,69.0%は歯突起後屈,31.0%はエーラス・ダンロス症候群を伴っていた.症状は,頚部/後頭部痛88.1%,脳幹症状76.2%,感覚障害59.5%,嚥下障害54.8%,口蓋帆咽頭機能不全35.7%,頚随症28.6%などであった.
【結論】
95.2%の患者では,EEOの直前に後方除圧と後方固定(後頭-頚椎)が行われた.髄液漏は術中に7例で,術後には起こらなかった.歯突起の切除範囲は高さで11.98±0.45 mm,割合で74.18±2.56%であった.術後追跡期間は32.3±4.0ヵ月であった.手術直後の髄液腔の拡大は1.68±0.17 mmであったが,最終追跡時は2.75±0.23 mmと拡大していた.入院期間は中央値5日(IQR 2-33).挿管チューブ抜管までは中央値0(0–3)日,経口摂取開始までは中央値1(0–3)日であった.97.6%で症状改善が認められた.合併症は稀で,大部分は後頭-頚椎固定に関連していた.
【評価】
前方からの圧迫要素が大きい頭蓋頚椎移行部病変に対する歯突起切除においては,以前は,主として経口-経咽頭的アプローチが用いられ,加えて下顎切開,舌切開,口蓋切開,上顎切開による術野展開が行われてきた(文献1,2).この手術方法では,手術後の気管切開,長期の挿管管理,経管栄養を余儀なくされ,髄液漏や感染症の可能性も高かった.これに対して,比較的最近導入された経鼻内視鏡的な歯突起切除術(EEO)では,非侵襲的であり,咽頭切開を必要としないため,早期の抜管や経口摂取が可能となった(文献3,4).
本稿は,単一施設として過去最大となる42件のEEOをフォローした報告である.95%でEEO当日か直前数日以内に後方からの頭蓋頚椎固定術も実施されている.
その結果,抜管や食事再開は全例3日以内(中央値は0日と1日)で,MRI上での長期にわたる減圧効果が得られ,ほぼ全例で臨床症状改善が認められることが明らかになった.
EEOの適応を考慮する際には,術前に歯突起切除の下限を予測することが重要で,いくつかの予測法が提案されている(文献5,6,7).本研究では,切除された歯突起の下限が,nasoaxial line(NAxL;鼻骨下極-前鼻棘線の中点と後鼻棘を結んだ線)の延長上とrhinopalatine line(RPL;鼻骨下極-前鼻棘線の2/3点と後鼻棘を結んだ線)の延長上の間に位置することが明らかになった.ここを下限とする歯突起切除によって,歯突起の切除範囲は高さで平均12 mm,割合で平均74%となり,これによって十分な臨床効果が得られた.この事実は,今後のEEO適応判断にあたって重要な指標になると思われる.
また,上位頚髄前面の髄液腔は手術直後よりも最終追跡時では増大していた.これは後方固定術による環軸関節(正中)可動域の制限が,局所の炎症を抑制した結果と推測されている.
残念ながら,本研究では,平均追跡期間が32.3ヵ月にとどまっており,今後,追跡期間をさらに延長して,5年,10年の経過でのEEOの長期効果が明らかになることを期待したい.
<コメント>
経鼻内視鏡手術で世界的に有名なCornell大学のグループからのEEOの有用性の報告である.従来の口蓋咽頭を経由する顕微鏡的経口手術に比較して感染のリスクも低く低侵襲な術式であることが容易に想像されるが,それが本研究のデータで示されている.経口摂取は中央値で術後1日から開始されているが,5例で嚥下障害(うち4例は一過性,1例は手技によらない理由で気管切開を要した)を生じていることには術後管理の上で注意を要する.技術的な観点では42.9%の症例で術中CTで術中骨削除範囲を確認していることや,咽頭の切開は研究期間初期では逆U字だったが,現在は閉鎖のしやすさを考慮して正中線状切開にしているという点も興味深い.注目すべき点として,95.2%の症例で後方除圧固定がEEOの直前数日前(70%)か同日(27.5%)に行われている.EEOと後方除圧固定をどの順番で行うかは議論の分かれるところだが,本稿の筆者のグループは後方除圧固定後にEEOを行う方が安全と判断していると思われる.考察にあるように,後方除圧固定のみで症状改善が得られないと予想される症例にEEOを適応するという症例選択がkey issueであることも含め,本疾患の治療には熟練した脊椎外科医との連携が必須である.それにしても11年間で42例もEEOを行う症例があるのには驚嘆する.本邦でEEOをこのようなペースで行う施設は無いと思われるが,そもそも脊椎疾患を扱う脳神経外科医や整形外科医にEEOが知られていないことが原因かもしれず,そのことは今後の課題である.ちなみに,本研究でのEEOでの歯突起切除の下方限界はnasoaxial lineとrhinopalatine lineの間であったとの事であるが,我々は,それより下方の病変への到達には経口内視鏡手術が有用なことを報告している(文献8).(獨協医科大学 森永裕介,阿久津博義)
執筆者:
有田和徳関連文献
- 1) Perrini P, et al. Transoral approach and its superior extensions to the craniovertebral junction malformations: surgical strategies and results. Neurosurgery. 64(5 suppl 2): 331-342, 2009
- 2) Vishteh AG, et al. Bilateral sagittal split mandibular osteotomies as an adjunct to the transoral approach to the anterior craniovertebral junction. J Neurosurg. 90(2 suppl): 267-270, 1999
- 3) Halderman AA, et al. Endoscopic endonasal approach to the craniovertebral junction. World J Otorhinolaryngol Head Neck Surg. 8(1): 16-24, 2022
- 4) Goldschlager T, et al. The endoscopic endonasal approach to the odontoid and its impact on early extubation and feeding. J Neurosurg. 122(3): 511-518, 2015
- 5) La Corte E, et al. The rhinopalatine line as a reliable predictor of the inferior extent of endonasal odontoidectomies. Neurosurg Focus. 38(4): E16, 2015
- 6) de Almeida JR, et al. Defining the nasopalatine line: the limit for endonasal surgery of the spine. Laryngoscope. 119(2): 239-244, 2009
- 7) Aldana PR, et al. The naso-axial line: a new method of accurately predicting the inferior limit of the endoscopic endonasal approach to the craniovertebral junction. Neurosurgery. 71(2 Suppl Operative): ons308-ons314, 2012
- 8) Morinaga Y, et al. Endoscopic transoral resection for an upper cervical chordoma in a pediatric patient. Acta Neurochir (Wien). 2023 Mar 14. Epub ahead of print.