抗血小板剤内服が床レベルでの転倒による頭部打撲に与える影響:救急外来受診者1,938例の検討

公開日:

2023年5月22日  

Antiplatelet therapy contributes to a higher risk of traumatic intracranial hemorrhage compared to anticoagulation therapy in ground-level falls: a single-center retrospective study

Author:

Vedin T  et al.

Affiliation:

Clinical Sciences, Lund University, Svartbrödragränden Helsingborg, Sweden

⇒ PubMedで読む[PMID:35732809]

ジャーナル名:Eur J Trauma Emerg Surg.
発行年月:2022 Dec
巻数:48(6)
開始ページ:4909

【背景】

抗血栓剤の内服が,転倒による頭部打撲後の頭蓋内出血発生を増加させるか否かに関しては議論の余地がある(文献1,2,3).スウェーデン・ヘルシンボリ総合病院のチームは,床レベルでの転倒による頭部打撲で,2017年の1年間と2020年の1年間に救急外来を受診した1,938例(年齢中央値77歳)を対象にこの問題を検討した.98%がGCS14-15であった.抗血栓剤内服のない患者は1,080例,抗血栓剤内服中の患者は830例.抗血栓剤の内訳は抗凝固剤483例,抗血小板剤347例であった.
抗血小板剤服用者のうち73%はアスピリンを,抗凝固剤服用者のうち61%はDOAC,33%はワーファリンを服用していた.

【結論】

全体の75.2%でCTスキャンが実施された.CT上の外傷性頭蓋内出血は全症例で120例(6.2%),抗血栓剤内服中の患者で60例(7.2%)であった.抗凝固剤内服中の患者では5.8%,抗血小板剤内服中の患者では9.2%で認められた.抗血栓剤非服用者と比較した外傷性頭蓋内出血のリスク比は,抗血小板剤内服患者で1.72(p =.01),抗凝固剤内服患者で1.08(p =.73)であった.
ロジスティック回帰解析では,抗血小板剤の服用は外傷性頭蓋内出血と独立して相関していた(オッズ比1.59,p =.041).

【評価】

転倒による頭部打撲後に,どのくらいの頻度で頭蓋内血腫が生じるのかというデータはない.一方,転倒による頭部打撲後,救急外来を受診した患者における頭蓋内出血の頻度に関する報告はいくつかあるが,その頻度は3.9%,4.6%,21%など様々で(文献1,2,3),おそらく救急施設のレベルや性質によって異なっているものと思われる.本研究は,275,000人の背景人口を有し,年間の救急外来患者数70,000人という高次の救急外来を訪れた,転倒による頭部打撲患者を解析したものである.その結果,転倒による外傷性頭蓋内出血の発見頻度が6.2%であったことを明らかにしている.
さらに,抗血栓剤の内服が,転倒による頭部打撲後の頭蓋内出血の発生頻度に影響を与えるかという点についても一定の見解はなく,増加させないという報告もある(文献1,2).抗血栓剤の内訳では,抗凝固剤内服が抗血小板剤内服よりもそのリスクが高いとする報告(文献4,5)と,抗血小板剤の方がそのリスクが高いとする報告(文献6,7)がある.どちらかと言えば,最近のガイドラインでは,抗凝固剤内服のリスクを重視する傾向である(文献4,5,8).
本研究では,抗凝固剤ではなく抗血小板剤の内服が転倒による頭部打撲後の頭蓋内出血のリスク因子であることを明らかにした.著者らはこの結果を基に,抗血小板剤のリスクを重視するようガイドラインが改訂される必要性があると提言している.
本研究のように,転倒による頭部打撲後に救急外来を受診した患者の解析も大切であるが,介護現場にとって重要なのは,転倒やベッドからの転落などの比較的軽微な頭部打撲によって,高齢者ではどのくらいの頻度で頭蓋内出血が生じるのか,そのリスク因子が何かである.急速に高齢化する先進国の現状を考えれば,今後,大規模な前向き研究で明らかにされることを望みたい.

執筆者: 

有田和徳