症候性の内頚動脈あるいは中大脳動脈閉塞に対するEC-ICバイパスの有効性は示されず:中国におけるRCT(CMOSS試験)

公開日:

2023年9月11日  

最終更新日:

2023年9月11日

Extracranial-Intracranial Bypass and Risk of Stroke and Death in Patients With Symptomatic Artery Occlusion: The CMOSS Randomized Clinical Trial

Author:

Ma Y  et al.

Affiliation:

Department of Neurosurgery, Xuanwu Hospital, China International Neuroscience Institute, Capital Medical University, National Center for Neurological Disorders, Beijing, China

⇒ PubMedで読む[PMID:37606672]

ジャーナル名:JAMA.
発行年月:2023 Aug
巻数:330(8)
開始ページ:704

【背景】

理論上は血行力学的脳虚血を示す内頚動脈閉塞に対するEC-ICバイパスは脳梗塞再発予防に有用な筈であるが(文献1),過去のRCTはその有効性を示していない(文献2,3).本稿は中国の13施設で実施されたRCT(CMOSS研究)である.対象は軽症虚血性脳卒中(mRS:0-2の転帰)を来した動脈硬化性の内頚動脈閉塞か中大脳動脈閉塞で,血行力学的脳虚血を示す65歳以下の成人324例.163例が薬物療法単独に,161例が薬物療法+EC-ICバイパス手術に無作為割り付けされた.対象例のうち内頚動脈閉塞は57%.複合主要アウトカムは割り付け後30日までの脳卒中か死亡あるいは30日-2年間の同側の虚血性脳卒中と設定した.

【結論】

複合主要アウトカムの発生頻度には両群間で差がなかった(手術群8.6 vs 薬物療法群12.3%,発生頻度差−3.6%;ハザード比 0.71[95% CI,0.33-1.54],p =.39).30日までの脳卒中か死亡のリスクは手術群で6.2%,薬物療法群で1.8%,30日-2年間の同側の虚血性脳卒中のリスクはそれぞれ2.0%と10.3%であった.2年間のすべての脳卒中か死亡の頻度は手術群9.9%,薬物療法群15.3%,2年間の致死的脳卒中の頻度は手術群2.0%,薬物療法群0%で,いずれも統計学的な有意差はなかった(p =.30とp =.08).

【評価】

1985年に発表された日本を含む国際的なEC-ICバイパス手術のRCTは,手術の有効性を示すことに失敗している(文献2).また,2011年に発表された北米でのRCT(COSS)も,同バイパス手術の有効性を示すことなく早期終了している(文献3).COSSの報告を反映してか,米国における症候性頭蓋内動脈閉塞に対するEC-ICバイパス手術は減少した(文献4).
これらの試験の問題点としては,前者では,内頚動脈閉塞のみならず狭窄症例も含まれていたことや血行力学的脳虚血を証明する方法が確立していなかったこと(文献5),後者では手術後の脳卒中発生率が15%と高いことが指摘されている(文献6).日本におけるRCT(JETスタディー)は,2002年の中間解析では複合主要エンドポイントが薬物療法群(14.3%)に比較して手術療法群(5.1%)で有意に低い(Kaplan-Meier 解析, Log-rank p =.046)ことを明らかにしたが(文献7),最終追跡の結果は報告されていない.
2013年から開始されたこのCarotid and Middle Cerebral Artery Occlusion Surgery(CMOSS)試験の対象は動脈硬化性の内頚動脈閉塞か中大脳動脈閉塞で,血行力学的脳虚血を示す患者が対象となっている.血行力学的脳虚血は,CT灌流画像での平均通過時間(MTT)が4秒以上,健側との血流量比(rCBF)が0.95以下と定義している.
その結果,複合主要アウトカムの発生頻度は手術群8.6%,薬物療法群12.3%,2年間のすべての脳卒中か死亡の頻度は手術群9.9%,薬物療法群15.3%と手術群で低かったが,統計学的有意差はなかった(p =.39とp =.30).しかし,30日-2年間の同側の虚血性脳卒中のリスクはそれぞれ2.0%と10.3%と数値上は大きな差があり,追跡期間を長くすれば有意差が出る可能性は残されている.
過去の報告に比較すれば,本試験の手術群での30日までの脳卒中か死亡のリスクは大きく減少している.このことは手術手技の向上,術者の選択,周術期管理の向上を反映しているのかも知れない.かたや薬物療法群での虚血性脳卒中リスクも過去の報告に比較して減少しており,高血圧,糖尿病,脂質代謝異常などの脳卒中リスク因子の管理の向上が反映されているものと思われる.
一方,複合主要アウトカムの発生頻度は,MTTが6秒以上の患者では手術群9.2%,薬物療法群17.4%,rCBF ≤0.8の患者では手術群6.4%,薬物療法群14.0%,中大脳動脈閉塞患者では手術群5.8%,薬物療法群13.3%といずれの場合も全症例を対象とした解析に比較すれば数値上は2群間の差は大きいが,統計学的には有意ではなかった.これは統計パワー(症例数や追跡期間)の問題かも知れない.
著者らは,今後,再びEC-ICバイパスのRCTを行うのであれば,血行力学的脳虚血がより重症の症例や中大脳動脈閉塞症例を対象として,より多数でより長期の追跡期間が推奨されると示唆している.将来,Cを除いたMOSS試験が始まるのかも知れない.

執筆者: 

有田和徳