超難治性てんかん重積(SRSE)の病態と治療:1,200例のメタアナリシス

公開日:

2023年9月11日  

Outcomes and Treatment Approaches for Super-Refractory Status Epilepticus: A Systematic Review and Meta-Analysis

Author:

Cornwall CD  et al.

Affiliation:

Department of Neurology, Odense University Hospital, Odense, Denmark

⇒ PubMedで読む[PMID:37523161]

ジャーナル名:JAMA Neurol.
発行年月:2023 Jul
巻数:Online ahead of print.
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【背景】

全身麻酔の使用にもかかわらず,てんかん重積状態が24時間以上継続するか,麻酔薬の減量・中止に伴って再発するものを超難治性てんかん重積(SRSE)と言うが(文献1),病態の詳細は不明である.本メタアナリシスは過去の論文,学会報告に含まれる成人SRSEの1,200例(平均年齢40.9歳,IQR:23.0-56.5)が対象となっている.SRSEの持続期間は平均36.3日(IQR:10.5-50.5).けいれん性のてんかん重積は53.1%で,非けいれん性のてんかん重積は34.5%であった.SRSEの原因は急性脳イベント(脳卒中など)41.2%,不明22.3%,既知のてんかん15.0%などであった.

【結論】

全例で全身麻酔薬が使用され,そのうち最多はプロポフォールで,ミダゾラム,チオペンタールが続いた.抗けいれん剤は平均5種類が使用されており,内訳はレベチラセタム,バルプロ酸,ホスフェニトイン,ラコサミドなどであった.最終追跡時,81.3%でけいれんは止まっていた.一方,在院中死亡率は24.1%であった.退院時mRS:0-2は26.8%と少なく,mRS:0は10%以下であった.28日以上治療された患者ではけいれん停止率は高まったが,退院時mRS:3-6の割合も高くなった.
過去に有効性が示唆されているフェノバルビタール,他のバルビツール酸,ケタミン,迷走神経刺激,ケトン食は治療転帰に影響しなかった.

【評価】

超重症てんかん重積(SRSE)は稀な病態であり,また予後不良であることが知られている.ドイツにおける医療保険データベースによればその発生頻度は人口10万人に対して3人である(文献2).フィンランドの後方視研究では,難治性てんかん重積の21%がSRSEとなり,その発生頻度は人口10万人に対して0.7人で,在院中死亡率は10%である(文献3).スイスにおける前向き研究では,てんかん重積患者の4.1%がSRSEとなりその在院中死亡率は43.7%と高い(文献1).
本メタアナリシスでは過去にてんかん重積があったのは4.8%のみであった.原因の約4割は脳卒中,感染症,自己免疫性脳炎などの急性脳イベントで,以下,原因不明22.3%,既知のてんかん15.0%,その他14.6%,以前の脳病変によるもの(remote symptomatic)6.9%が続いた.やはり,SRSEの多くが過去のてんかん診断やてんかん重積とは関係なく発生していることがわかる.
予後もやはり厳しく,在院中死亡率は24.1%で,退院時mRS:0-2は26.8%と少なく,mRS:0は10%以下であった.なお,てんかん重積重症度スコア(STESS:再軽症0-最重症6)(文献4)と在院中死亡率は相関しなかった.
本メタアナリシスでは,これまでにSRSEに対して有効性が示唆されているフェノバルビタール,他のバルビツール酸,ケタミン,迷走神経刺激,ケトン食の有効性は示されなかった(文献5).
なお,本メタアナリシスでは解析の対象とはなっていないが,これまでに吸入麻酔薬(イソフルラン,デスフルラン),脳外科的治療,脳低温療法,ステロイド・免疫療法の有効性も示唆されてはいるが,いずれも症例報告にとどまっておりエビデンスレベルは低い(推奨グレードC)(小児けいれん重積治療ガイドライン2017,文献6).
本稿を読むと,残念ながら,SRSEの発生は多くの場合予測不能で,かつ確立された有効な治療法がなく,予後が不良であることが判る.このように稀少かつ重篤な疾患に対する適切な治療法の確立のためには,関連学会が手を組んでの前向き登録事業から開始すべきであろう.

執筆者: 

有田和徳