小型の前庭神経鞘腫にはアップフロント・ガンマナイフか経過観察か:ノルウェイのRCT(V-REX試験)

公開日:

2023年9月12日  

最終更新日:

2023年9月11日

Upfront Radiosurgery vs a Wait-and-Scan Approach for Small- or Medium-Sized Vestibular Schwannoma: The V-REX Randomized Clinical Trial

Author:

Dhayalan D  et al.

Affiliation:

Department of Neurosurgery, Haukeland University Hospital, Bergen, Norway

⇒ PubMedで読む[PMID:37526718]

ジャーナル名:JAMA.
発行年月:2023 Aug
巻数:330(5)
開始ページ:421

【背景】

小型の前庭神経鞘腫に対してはアップフロントRS(手術的照射)が良いのか,まずは経過観察するのが良いのか.本V-REX試験はノルウェイで行われたRCTである.対象は2014年からの約3年間に新規に発見された腫瘍径2 cm以下の一側性前庭神経鞘腫100例.50例がアップフロントRSに,50例が経過観察に無作為割り付けされた.RSにはガンマナイフが使用され,辺縁線量12 Gyであった.経過観察期間は4年間で,その間に年に1回のMRIが実施された.経過観察中,アップフロントRS群では2%で再度のRSが,4%で摘出術が必要になり,経過観察群では42%で腫瘍増大に対するRSが,2%で摘出術が必要になった.

【結論】

経過観察群では4年後には軽度の腫瘍増大が,アップフロントRS群では照射1年後に軽度増大した後は経年的腫瘍縮小が観察された.主要エンドポイントである4年後の腫瘍体積/割り付け時腫瘍体積比はアップフロントRS群で0.87,経過観察群で1.51であり,経過観察群ではアップフロントRS群に比較して有意の腫瘍増大を示した(比=1.73,p =.002).RSに伴う合併症は認められなかった.
最終観察時の自覚症状,検査所見,QOLスコアなど事前設定された26項目の2次エンドポイントのうち25項目は2群間で差がなかった.唯一,顔面感覚の非対称は,アップフロントRS群で有意に多かった(6対0).

【評価】

本V-REX(Vestibular Schwannoma,Radiosurgery or Expectation)試験は,比較的小型の前庭神経鞘腫に対して,先ずは経過観察して腫瘍増大の際に手術的照射(RS)や摘出手術を行う(wait-and-scan approach)という治療戦略よりも,アップフロントでRSを行った方が,4年後の腫瘍コントロールが良いことを明らかにした.またアップフロントRS群の12%の症例で顔面感覚の非対称が残ったことを除けば,追跡終了時の自覚症状,他覚検査所見,QOLスコア等25項目の2次エンドポイントは2群間で差はなかった.
気になるのは聴力障害であるが,割り付け時は両群とも約8-9割の症例で同程度の聴力障害が認められ,追跡期間を通じて,純音聴力,語音聴力スコアとも同様の傾きで徐々に低下した.
RS(ガンマナイフ)が前庭神経鞘腫の良好なコントロールをもたらすことは従来から報告されている(文献1,2,3).しかし,比較的小型の前庭神経鞘腫では,未治療のままでも長期にわたって成長を示さない症例が多いことも知られている(文献4,5).また,アップフロントRSが聴力温存に有効かどうかについても意見の一致を見ていなかった(文献6,7,8).
したがって,前庭神経鞘腫に対するアップフロントRSの効果を評価するためのRCTが強く望まれていたのであるが,本V-REX試験によって,腫瘍制御という点におけるアップフロントRSの効果が初めてRCTで証明されたことになる.一方,聴力に関しては両群間で差は認められていない.
とは言え,前庭神経鞘腫が極めて良性の腫瘍であることを考慮すれば,4年間の経過観察期間は十分ではなく,より長期のフォローアップが必要である.本V-REX試験も10年間の経過観察が予定されており,現在進行中である.その結果に期待したい.

執筆者: 

有田和徳