腫瘍細胞内でのみ増殖する腫瘍溶解性ヘルペスウィルスCAN-3110による再発膠芽腫の治療:Nature

公開日:

2023年11月6日  

Clinical trial links oncolytic immunoactivation to survival in glioblastoma

Author:

Ling AL  et al.

Affiliation:

Harvey Cushing Neuro-oncology Laboratories, Department of Neurosurgery, Brigham and Women's Hospital, Boston, MA, USA

⇒ PubMedで読む[PMID:37853118]

ジャーナル名:Nature.
発行年月:2023 Nov
巻数:623(7985)
開始ページ:157

【背景】

膠芽腫に対する免疫療法の効果が低いのは,腫瘍微小環境における抗腫瘍免疫の強い抑制に起因する.腫瘍溶解性ウィルス療法はウィルス増殖による癌細胞溶解によって生じた癌抗原に対する免疫反応を利用して癌を抑制しようとするものである.
本稿は新規の腫瘍溶解性ヘルペスウィルス(oHSV)のCAN-3110を,膠芽腫を含む41例の再発悪性神経膠腫に定位的に1回注入する第1相試験の結果である.従来のoHSVでは,ウイルスが正常細胞で増殖することがないようにICP34.5遺伝子が除去されているが,CAN-3110では膠芽腫細胞で高発現しているネスチン・プロモーターによってのみ同遺伝子が転写され,腫瘍細胞内でのウィルス増殖能を高めている.

【結論】

けいれんなどの重篤な有害事象は2例のみで,用量制限毒性や脳炎/髄膜炎はなかった.全41症例におけるOS中央値は11.6ヵ月(95%CI:7.8–14.9)と,従来報告(6-9ヵ月)の約2倍に伸びていた.特に,本治療前に単純ヘルペスウィルス1(HSV1)の抗体を有していた22例ではOS中央値は14.2ヵ月に達していた.本来,予後不良の多巣/多中心性,深部,または両側性の腫瘍を有する9例でもOS中央値は12ヵ月であった.OSの延長は腫瘍組織と末梢血中のT細胞数の大幅な増加及びその多様性と相関していた.特に腫瘍組織内ではCD8+とCD4+リンパ球の増加が認められた.

【評価】

従来,腫瘍溶解性ヘルペスウィルス(oHSV)では,ウイルスの無秩序な増殖を防止し神経毒性を抑制するためにICP34.5遺伝子を欠失させていた(文献1,2,3).ハーバード大学などのチームが行った本試験のキーポイントは,このICP34.5遺伝子がネスチン・プロモーターによって別個に転写・発現するように遺伝子改変したCAN-3110(rQNestin34.5v.2)を用いたことである(文献4,5).ネスチンは細胞骨格蛋白の一つでⅣ型中間径フィラメントに属し,神経幹細胞に高発現する.ネスチンは癌細胞でも高発現し,癌細胞の遊走や,浸潤,増殖に関わっている.癌細胞ではネスチン・プロモーターも高発現しているので,ネスチン・プロモーターによってICP34.5が転写するように遺伝子操作されているCAN-3110ウィルスは,もっぱら癌細胞でのみ増殖することとなる.増殖したoHSVは癌細胞を溶解し,癌抗原をばらまきながら新たな癌細胞に感染する.ユニークな発想である.
本研究対象は再発膠芽腫(86.7%)が大部分を占める再発悪性神経膠腫41例である.全生存期間中央値11.6ヵ月で,特にHSV1感染の既往がある66%の患者では14.2ヵ月に達していた.ただし,IDH1/2ワイルドの再発膠芽腫(33例)に限れば全生存期間中央値は10.9ヵ月とやや短かったが,既報の再発悪性神経膠腫OS中央値を超えている.一方,脳炎/髄膜炎は認められておらず,このウィルスが目論見通り,腫瘍細胞の中でのみ増殖していることを示唆している.
著者らは現在,複数回のCAN-3110の局所注入によって,さらに抗腫瘍免疫が高まり生存延長が得られるかの1相試験を行っており(NCT03152318,文献6),その成果が期待される.また,CAN-3110投与に続く免疫チェックポイント阻害剤の投与による効果増強も興味深いテーマである.

執筆者: 

有田和徳