慢性硬膜下血腫の再発予防に白朮五苓散と白朮柴苓湯が効く:114例のRCT

公開日:

2023年11月6日  

The Effect of Japanese Herbal Medicines (Kampo) Goreisan and Saireito on the Prevention of Recurrent Chronic Subdural Hematoma: A Prospective Randomized Study

Author:

Matsumoto H  et al.

Affiliation:

Department of Neurosurgery, Cerebrovascular Research Institute, Eisyokai Yoshida Hospital, Kobe, Hyogo, Japan

⇒ PubMedで読む[PMID:37638721]

ジャーナル名:Neurosurgery.
発行年月:2023 Aug
巻数:Online ahead of print.
開始ページ:

【背景】

慢性硬膜下血腫に対する穿頭手術後の再発は稀ではない.日本では漢方薬の五苓散が再発予防目的で用いられることが多いが(文献1,2,3,4),質の高いエビデンスに乏しい.本研究は,慢性硬膜下血腫に対する穿頭手術後の114例を対象としたRCTである.対象症例を(従来の研究で用いられた蒼朮五苓散ではなく)白朮五苓散6 g/日を3ヵ月間服用(G群39例),白朮柴苓湯8.1 g/日を3ヵ月間服用(S群37例),漢方薬非服用(N群38例)の3群に無作為に割り付けた.
3群間で,年齢,性,原因,抗血栓薬服用状況,併存疾患,CT上の血腫タイプ,血腫体積,術前mRSといった背景因子に差はなかった.

【結論】

主要エンドポイントとして設定された穿頭手術後3ヵ月以内の症候性再発は全体で13例(11.4%)で,G群2例,S群1例,N群10例であった.
G群の再発率はN群に比較して有意に低かった(5.4 vs 25.6%;p =.043).
S群の再発率もN群に比較して有意に低かった(2.6 vs 25.6%;p =.02).
漢方薬投与による合併症はなかった.
多変量解析では慢性血腫に新規出血が加わったタイプの血腫は再発しやすさと相関し(オッズ比8.6,p =.028),漢方薬の内服(G群+S群)は再発しにくさと相関していた(オッズ比0.074,p =.002).

【評価】

慢性硬膜下血腫の発達には,浸透圧差による髄液の血腫被膜内への引き込みが関与していると考えられている(文献5).日本では,その駆水効果に期待して,以前から漢方薬の五苓散が経験的に用いられてきた(文献2).また最近の研究では,慢性硬膜下血腫の被膜に存在するアクアポリン4(AQP4)が水透過性を亢進させており,五苓散はAQP4の発現と機能を抑制することも報告されている(文献6).
2015年のYasunagaらの報告によれば,DPCデータベースから抽出した手術後五苓散投与症例3,879例と傾向スコアマッチングで選んだ対照患者3,879例の比較では,数値上の差は少ないが五苓散投与が再手術率を有意に減少させている(五苓散群4.8% vs 対照群6.2%,p =.001)(文献2).
2018年に出版されたKatayamaらの180例を対象としたRCTでは,全症例ではないが,相対的に若年の60–74歳群における有効性が示されている(五苓散群3.0% vs 対照群17.4%,p =.04)(文献3).
2021年に発表されたFujisawaらの224例のRCTでは,穿頭手術を行った対象の全例では五苓散の再発抑制効果は有意には届かなかったが(五苓散群5.8% vs 対照群12.5%,p =.09),初回手術前のCT所見で再発しやすいとされているタイプ(均一型と上下分離型)では有意の再発抑制を示した(五苓散群5.6% vs 対照群17.6%,p =.04)(文献4).
本研究の特筆すべき意義は,年齢や血腫のタイプに関わらず,慢性硬膜下血腫の患者全体で,使用した漢方薬(白朮五苓散と白朮柴苓湯)が再発を強く抑制することをRCTで明らかにしたことである.著者らは,従来用いられていた蒼朮(そうじゅつ)五苓散に比べて,白朮(びゃくじゅつ)五苓散と白朮柴苓湯の抗炎症作用が強いことが,この強い再発抑制をもたらしていると示唆している.有意差はないが,白朮五苓散と比較して白朮柴苓湯の再発抑制効果がやや強い(2.6 vs 5.4%;p =.61).これも白朮柴苓湯の方が抗炎症作用が強いことを反映していると著者らは推測している.
漢方薬は副作用の少ない薬剤であり,著者らが報告した慢性硬膜下血腫に対する再発抑制効果が事実とすれば日常臨床に与える影響は非常に大きい.今後大規模な多施設RCTで検証されるべきである.その際,偽薬を対照とすること,評価者に対する盲検性の確保,血腫体積や脳中心線の偏位の経時的な変化などの客観的指標の採用が重要なキーポイントとなりそうである.
もし,それによって白朮五苓散や白朮柴苓湯の再発予防効果が証明されれば,予防的なステロイド投与や現在欧米で普及しつつある中硬膜動脈塞栓術との前向き比較研究も興味深い(文献7,8).

執筆者: 

有田和徳

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