大きな急性期脳梗塞(ASPECTS 3~5)に対する血栓回収療法の有効性を再び証明:ヨーロッパにおけるRCT(TENSION試験)

公開日:

2023年11月6日  

最終更新日:

2023年11月7日

Endovascular thrombectomy for acute ischaemic stroke with established large infarct: multicentre, open-label, randomised trial

Author:

Bendszus M  et al.

Affiliation:

Neuroradiologie, Universitätsklinikum Heidelberg, Heidelberg, Germany

⇒ PubMedで読む[PMID:37837989]

ジャーナル名:Lancet.
発行年月:2023 Oct
巻数:S0140-6736(23)
開始ページ:02032

【背景】

ASPECTS <6の大きな虚血コアを有する急性期前方循環閉塞に対する血栓回収療法については,日本のRESCUE-Japan LIMIT,北米を中心としたSELECT2,中国のANGEL-ASPECTの3つのRCTでその有効性が報告されている(文献1,2,3).しかし,これらの研究ではかなりの割合でMRIやCT灌流画像などの単純CT以外の画像診断法で対象患者が選択されている.
2018年に開始されたこのTENSION試験は欧州39施設+カナダ1施設でのRCTで,ごく一般的な画像診断(単純CT:82%,DWI:18%)でASPECTS 3-5の急性期脳梗塞と診断された253例が対象である.

【結論】

対象の253例を薬物療法+血栓回収療法(125例)と薬物療法単独(128例)に無作為に割り当てた.
主要アウトカムは90日目のmRSとした.
ITT解析では,薬物療法単独群と比較して血栓回収療法群では発症90日目のmRSは機能予後良好の方向に有意にシフトしていた(調整共通オッズ比2.58[95% CI 1.60–4.15];p =.0001).また死亡率は有意に低かった(薬物療法単独群54.1% vs 血栓回収療法群37.1%,ハザード比0.67[95% CI 0.46–0.98];p =.038).
症候性頭蓋内出血の発生頻度に差はなかった(薬物療法単独群6% vs 血栓回収療法群5%).

【評価】

大きな虚血コアを示す急性期前方循環閉塞に対する血栓回収療法の有効性をRCTで初めて示したのは,2022年にNEJM上で発表された日本のRESCUE-Japan LIMIT研究である(文献1).これは発症6時間以内かMRI-FLAIRで早期変化がまだ出ていない最終健常確認後24時間以内のASPECTS 3-5の脳梗塞患者203例を対象としたRCTで,血管内治療群の方が標準的薬物治療群よりも発症後90日目のmRS 0~3(機能的自立)の頻度が有意に高いことを明らかにした(相対リスク2.43,p =.002).
続いて2023年に発表されたSELECT2試験は,北米,欧州,オーストラリア,ニュージーランドの31施設で実施されたRCTである.単純CTでASPECTS 3-5あるいはCT潅流画像(RAPIDソフトウェア使用)かDWI-MRIで虚血コアが50 mL以上と診断された急性期前方循環閉塞352例が対象である.血栓回収療法群では内科的治療群に比較して90日目の機能予後が良好(mRSがより低い方向にシフト)であることを示した(一般化オッズ比1.51,p <.001).
SELECT2試験と同時にNEJM上で発表された中国のANGEL-ASPECTは,ASPECTS 3-5かCT灌流画像(RAPIDソフトウェア使用)で虚血コア体積が70~100 mLの456症例が対象である.この試験でも,発症後24時間以内の血栓回収療法が,内科的治療と比較して,機能予後がより良好の方向へのmRSシフトをもたらすことが明らかになった(一般化オッズ比1.37,p =.004).
本稿のTENSION試験は欧州39施設+カナダ1施設(カルガリー大学)でのRCTであるが,その特徴は,対象患者の選択のために用いた画像診断法の約8割が単純CTで残りがDWI-MRIであり,世界の第一線脳卒中センターの臨床の実情を反映した形となっていることである.その結果,90日目のmRSが調整共通オッズ比2.58(p =.0001)という非常に強い統計学的な差で,薬物療法単独に対して血栓回収療法が機能予後良好(mRSがより低い)方向へのシフトをもたらしたという結果となっている.また機能予後良好(mRS 0-2)の頻度も,薬物療法単独群に対して血栓回収療法群で明らかに高かった(17 vs 2%,調整共通オッズ比7.16,p =.0016).さらに本研究では,90日目までの死亡率が血栓回収療法群で有意に低下していたことも示されている(37.1 vs 54.1%,p =.038).
対象の選択方法に若干の違いはあるものの,これで日本,北米,オセアニア,中国,欧州と,世界のほぼ全ての地域でASPECTS 3-5の大梗塞に対する発症24時間以内の血栓回収療法の有効性が示されたことになる.今後,既に多くのエビデンスが重なっている比較的小型の梗塞巣(ASPECTS ≥6)も含めて,急性期前方循環閉塞に対する血栓回収療法が標準治療としてより発展するであろう.
なお,本TENSION試験では,中央画像診断でASPECTS 0-2と判定された患者15%含まれていたが,それらの患者群では,血栓回収療法の優越性は認められなかった.同様の結果はRESCUE-Japan LIMITの2次解析でも示されているが(文献4),今後,超重症の急性期前方循環閉塞に対する血栓回収療法の限界がどのあたりにあるのかが明らかになる事を期待したい.

執筆者: 

有田和徳