鞍結節髄膜腫に対する拡大経鼻経蝶形骨手術は開頭術よりも全摘出率は劣るが視機能回復は率は高い:947例を対象とした解析

公開日:

2023年11月7日  

最終更新日:

2023年11月6日

International Tuberculum Sellae Meningioma Study: Preoperative Grading Scale to Predict Outcomes and Propensity-Matched Outcomes by Endonasal Versus Transcranial Approach

Author:

Magill ST  et al.

Affiliation:

Department of Neurological Surgery, Northwestern University, Chicago, IL, USA

⇒ PubMedで読む[PMID:37418417]

ジャーナル名:Neurosurgery.
発行年月:2023 Jul
巻数:Online ahead of print.
開始ページ:

【背景】

鞍結節髄膜腫に対して拡大経鼻経蝶形骨手術(EEA)が実施される頻度は世界的に増加しており,開頭法(TCA)に比較して,視機能改善率が高いことが報告されている(文献1,2,3,4).しかし,両アプローチの対象となった腫瘍の径や浸潤性は異なっており,単純に比較する事はできない.本稿は北米中心の40センターで1993年以降に摘出術が行われた947例(TCA629例,EEA318例)を対象に傾向スコア(PS)法によるマッチング解析を行い,EEAの優越性の有無を検討したものである.腫瘍の大きさや周囲構造への浸潤性の評価には著者らが開発した修正Magill–McDermott(MM)グレードを用いた.

【結論】

修正MMグレードは腫瘍径(<17 mm:1点,≥17 mm:2点),視神経管内浸潤距離(<3 mm:1点,≥3 mm:2点),内頚・前大脳動脈の取り囲み(0-180°:1点,>180°:2点)の3項目の合計3-6点である.高い修正MMグレードは術後視機能低下と低い肉眼的全摘出率を予測した(p =.0032とp =.0127).
PSでマッチングさせた症例群では,術後視機能低下と再発のリスクはEEAとTCAで差はなく,肉眼的全摘出の可能性はTCAの方が高かった(p =.0409).術前視機能障害がある症例群内のPSマッチング解析では,EEAはTCAより視機能回復の可能性が高かった(p =.0010).

【評価】

本稿のコンパニオン研究によれば,過去30年間に北米中心の40センターで実施された947例の鞍結節髄膜腫に対する手術では,最近20年間でEEAの割合は徐々に増加し,2019年ではTCAとほぼ同数となっている(文献4).また,EEAはTCAに比較して視機能改善率が高いことを示している.ただし,大きさ,浸潤性,術前視機能障害などの点で,EEAの対象となった腫瘍とTCAの対象となった腫瘍は大きく異なっていた.
本稿は,鞍結節髄膜腫に対するEEAの意義を統計学的により明瞭にするために,この947例の年齢,腫瘍径,術前視機能障害の有無,腫瘍周囲浮腫,予想される手術の難易度を傾向スコア法でマッチさせて解析を行ったものである.著者らは既に,鞍結節髄膜腫に対する手術の難易度を予測するために,腫瘍の大きさや周囲構造への浸潤性を基にMagill–McDermott(MM)グレードを作成しているが(文献1),本研究の傾向スコアマッチング解析ではMMグレードシステムをより簡素化した修正MMグレードシステムを用いた.
この結果,肉眼的全摘出達成の可能性はTCAの方が高く,術前視機能障害からの回復の可能性はEEAの方が高い事が明らかになった.一方,術後視機能の悪化のリスクについて手術アプローチ(EEAとTCA間)による差はなかった.再発率の高さと相関したのは相対的低年齢,非全摘(亜全摘/近全摘),経過観察期間の長さで,手術アプローチによる差はなかった.
要約すると,この大規模な多施設研究,その傾向スコアマッチング解析では,鞍結節髄膜腫に対する2つのアプローチにはそれぞれ得失があり,現段階での優劣は決めがたいということになる.
また,EEAでも髄液漏防止のための粘膜弁の採取,鞍結節部骨窓の拡大などの侵襲的操作は避けられないこと,時に腰椎ドレナージが必要なこと,現在でも約20%で術後髄液漏が起こり得ることを考慮すれば,EEAがTCAより非侵襲的であるという言説は,必ずしも正しくはないように思われる.個々の症例における腫瘍の大きさ,腫瘍進展(視神経や脳主幹動脈の取り込み,視神経を超えた外側への進展など)を考慮しながら,どちらのアプローチを選択すべきか,一例一例で熟慮しなければならないが,その際は術者の経験値も十分に考慮されなければならない.
私事であるが,本サマリー執筆者が1994年にUCSFに短期留学した時に,本稿のLast AuthorのMcDermott MW氏は脳外科のスタッフであった.物静かな語り口で正鵠を射るコメントとGolden Gate Parkを行者のような表情で黙々と走る姿は今でも忘れない.

執筆者: 

有田和徳