ノルアドレナリン阻害薬で脳のグリンパティック機能を回復させれば頭部外傷後脳浮腫を抑制出来る:Nature

公開日:

2023年11月27日  

Potentiating glymphatic drainage minimizes post-traumatic cerebral oedema

Author:

Hussain R  et al.

Affiliation:

Center for Translational Neuromedicine, University of Rochester, Rochester, NY, USA

⇒ PubMedで読む[PMID:37968397]

ジャーナル名:Nature.
発行年月:2023 Nov
巻数:Online ahead of print.
開始ページ:

【背景】

従来,脳内にはリンパシステムは無いというのが常識であった.しかし近年,脳内にも中枢神経の活動によって生じた不要な代謝産物を除去するグリア・リンパ系(グリンパティックシステム)が存在すること(文献1-4),さらには髄膜リンパ管が存在することが示唆されている(文献5,6).近年,血管性認知症,くも膜下出血後の認知機能障害,脳梗塞後の急性期脳機能障害,頭部外傷後の脳機能障害にもグリンパティックシステムの障害が関わっていることが示唆されてきた.
本稿は,軽麻酔下でのマウス頭部外傷モデルを用いて,頭部外傷後のグリンパティックシステムの障害と,これを回復させる方策について研究した結果である.

【結論】

頭部外傷モデルでは受傷後30分では受傷と同側,180分では受傷反対側の脳内水含量が有意に上昇した.この頭部外傷モデルでは,全身性のノルアドレナリンの放出が,グリンパティックシステム内での脳組織間液の移動と頚部リンパ管への還流減少をもたらしていた.
受傷直後にマウス腹腔内にノルアドレナリン受容体阻害PPAカクテル(プラゾシン,プロプラノロール,アチパメゾール)を投与すると,受傷後の脳浮腫はほぼ完全に抑制された.受傷24時間後のPPA投与でも脳浮腫は有意に抑制された.受傷後3日間PPAカクテルが投与されたマウスでは生食液投与群に比較して神経重症度やビーム歩行試験などの運動機能スコアが良好であった.

【評価】

著者らは,頭部外傷後の脳浮腫の原因は,従来信じられていたような,脳血管からの浸出液や脳への髄液の流入ではなく,グリンパティックシステム内での脳組織間液(髄液)の移動障害と頚部リンパ管への排出障害であると主張している.これらの障害の原因は,頭部外傷をトリガーとする全身的なノルアドレナリンの放出であり,ノルアドレナリン受容体阻害カクテル(PPA)の投与によって,この障害は回復する.その結果,グリンパティックシステム内での脳組織間液や高分子蛋白の移動と頚部リンパ系への排出が促進される.これによって,脳浮腫,神経炎症,タウ蛋白の蓄積が抑制され,運動機能障害や認知機能障害を減少させるという.
興味深いのは,PPAの投与を受けたマウスでは,非投与マウスと比較して受傷後12週目の不安様行動が少なかったという事実である.頭部外傷に対するPPAの投与は神経機能(運動・感覚)の急性障害のみならず長期の高次脳機能障害を防止する可能性を示唆している.
今後,他の研究機関で検証されるべき重要な発見と思われる.一方,ノルアドレナリン受容体阻害カクテル投与が全身循環動態,頭蓋内圧,脳灌流圧に与える影響は気になるところであるが,著者らの実験結果では問題はなさそうである.今後の臨床応用に期待したい.

執筆者: 

有田和徳