分子標的治療時代における乳癌脳転移患者のOSは25ヵ月に達している:NYUランゴン・ヘルスにおける190例

公開日:

2023年11月27日  

最終更新日:

2023年11月27日

Long-term Survival From Breast Cancer Brain Metastases in the Era of Modern Systemic Therapies

Author:

Mashiach E  et al.

Affiliation:

Department of Neurological Surgery, NYU Langone Health, New York University, New York, NY, USA

⇒ PubMedで読む[PMID:37581437]

ジャーナル名:Neurosurgery.
発行年月:2023 Aug
巻数:Online ahead of print.
開始ページ:

【背景】

乳癌患者では20%前後で脳転移が起こる(文献1,2).乳癌脳転移患者の予後は他の癌腫に比して良好であるが,それでもOS中央値は8-17ヵ月で,3-6割の患者では脳転移巣が死因となっている(文献3,4).しかし最近,乳癌に対しては分子標的薬による治療が普及し,脳転移に対しても定位手術的照射(SRS)が一般的になっているので,その臨床像が変化している可能性がある.本稿はニューヨーク大学ランゴン・ヘルスにおいて,2012年以降に脳転移に対してSRSが実施された乳癌患者190例(平均56歳,脳転移巣数の中央値3個)の後方視的解析である.SRS実施時のKPS ≥80は89%.経過観察期間中央値16ヵ月.

【結論】

全生存期間中央値は初回SRS後で25ヵ月,乳癌診断後で130ヵ月であった.
2012年からの5年間にSRSが実施された94例では長期生存(SRS後5年以上)は16例(17%)で,9例は本解析時の2022年にはまだ生存していた.長期生存の予測因子はHR2+と分子標的薬の使用であった(p =.041とp =.046).
中枢神経死は11%のみで,その予測因子はSRS後の軟髄膜病変の出現であった(p =.025).非中枢神経死の予測因子はSRS時の頭蓋外転移の存在,トリプルネガティブ癌,KPS <80,最終追跡時の活動性の非中枢神経病変であった.
最終的に全脳照射が必要となったのは13%のみであった.

【評価】

2017年に発表された米国における住民ベース研究によれば,米国癌研究所(NCI,SEER)に2010〜2013年に登録された231,684例の乳癌患者では,初診時の脳転移は,全症例の0.41%に認められている.脳転移症例の生存期間中央値は10ヵ月で,HR+/HER2+群で最も長く(21ヵ月),トリプルネガティブ群で最も短かった(6ヵ月)(文献5).本稿の研究では対象全員がSRSを受けた患者であり,住民ベース研究とは異なるが,全生存期間中央値は初回SRS後で25ヵ月となっており2倍以上に延びている.なお,脳転移巣数の中央値は3個でIQR:1-7個であったということは,8個以上の脳転移巣数を有する患者が25%を占め,それらに対してもSRSを実施していることになる.著者らによれば,最高25個までは,照射後の認知機能障害を来すことなく,ワンセッションのSRSで治療できるという.
本症例シリーズの患者背景をもう少し詳しくみると,乳癌サブタイプはHR+/HER2+:25%,HR+/HER2-:37%,HR-/HER2+:16%,HR-/HER2-(トリプルネガティブ):22%で,SRS前に52%がホルモン治療を,41%がHER2標的治療を,12%がCDK4/6阻害薬の投与を受けていた.またSRS後に60%で新規の全身的治療が開始され,最終追跡段階で86%の患者で全身的治療が続けられており,その内訳は,化学療法50%,HER2標的治療34%,CDK4/6阻害薬19%,ホルモン治療12%であった.
すなわち,最近10年間の著者らの施設のシリーズでは,SRS,分子標的治療,ホルモン治療,免疫治療を含んだ積極的な治療によって,過去の報告に比較して,生命予後(OS)の顕著な延長が得られたということになる.特に全体の1/4を占めるHR+/HER2+癌ではOSが長く,41ヵ月に達しており,HR+/HER2+群におけるホルモン治療/分子標的治療の有効性を反映しているものと思われる.かたやホルモン治療/分子標的治療の対象とならないトリプルネガティブ癌ではOSが最短で,約14ヵ月であったが,過去の報告に比較すればかなり延長している.
本シリーズの対象患者には新規のCDK4/6阻害薬やHER2+標的治療薬(文献6),免疫治療の導入前の症例が含まれていることを考慮すれば,直近の症例(例えば2015年以降)では,さらに腫瘍コントロール率,生存率が向上している可能性がある.
今後,脳転移を伴う乳癌患者でも,SRSと最新の複数の治療法の組み合わせによって,数年以上の生命予後が得られる例も増えてくることが予想される.そのような患者に対しては,もはやエンドオブライフ・ケアという考え方ではなく,長期のQOLをいかにして維持していくかということを重視して医療とケアが組み立てられるべきであろう.

執筆者: 

有田和徳