特発性頭蓋内圧亢進症に対する静脈洞ステント術はどのくらい有効か:694例のシステマティック・レビュー

公開日:

2023年11月27日  

最終更新日:

2023年11月27日

Stenting for Venous Sinus Stenosis in Patients With Idiopathic Intracranial Hypertension: An Updated Systematic Review and Meta-Analysis of the Literature

Author:

Lim J  et al.

Affiliation:

Department of Neurosurgery, Jacobs School of Medicine and Biomedical Sciences, University at Buffalo, Buffalo, New York, USA

⇒ PubMedで読む[PMID:37830801]

ジャーナル名:Neurosurgery.
発行年月:2023 Oct
巻数:Online ahead of print.
開始ページ:

【背景】

特発性頭蓋内圧亢進では高率に静脈洞狭窄が認められ(文献1),狭窄部の前後で静脈洞内圧の格差があることが報告されている(文献2).さらに,静脈洞狭窄症に対するステント術の有効性が示唆されてはいるが(文献3,4,5),その長期効果については未だ明らかになっていない.本稿は,過去に出版された特発性頭蓋内圧亢進に対する静脈洞ステント術の24報告694例(女性89.2%)のシステマティック・レビューである.平均年齢は33.9歳(95% CI:31.5-36.2),平均BMI 35.3%(32.9-37.7)であった.症状は頭痛98.8%,視力低下87.7%,うっ血乳頭78.7%,耳鳴58.3%であった.

【結論】

上記諸症状のうち98.8%は先行する治療に対して抵抗性であった.
静脈洞ステント術の合併症は頚部の穿刺部血腫を含む7例(0.9%)で認められた.ステント術後の平均追跡期間は画像で10.4ヵ月,臨床症状で20.2ヵ月であった.ステント術後,77.7%(CI:71.1-84.95%)の患者で何らかの症状が改善し,22.3%(CI:15.1-29.0%)では症状は不変か悪化した.術前の症状のうち,ステント術後に当該症状が残ったのは,頭痛95.0%,強い頭痛72.9%,視力低下84.7%,うっ血乳頭75.8%,耳鳴57.5%であった.
再狭窄率は17.7%であった.

【評価】

2021年のMiahらの報告によれば,2017年の英ウェールズにおける特発性頭蓋内圧亢進症(ICP >250 mmH2O)の有病率は76/10万人,発生率は7.8/10万/年で,2003年のそれ(12/10万人と2.3/10万人/年)より急速に増加していた(p <.001)(文献6).この増加は肥満ならびに貧困(WIMD重複剥奪指数)と相関していた.このように特発性頭蓋内圧亢進症の患者の多くに体幹肥満が認められることは良く知られているところである(文献7).
本システマティック・レビューでも,特発性頭蓋内圧亢進症の患者の大部分がBMI30%以上の肥満で半数以上が高度肥満(BMI ≥35%)であった.肥満と特発性頭蓋内圧亢進症の関係については,肥満→腹腔内圧の上昇→上大静脈圧の上昇→静脈洞圧の上昇→髄液/静脈洞内圧格差の減少→くも膜顆粒における髄液吸収の減少→頭蓋内髄液の貯留→頭蓋内圧亢進→静脈洞の外圧に弱い部分(多くは横静脈洞)での圧縮・狭窄→狭窄部より上流での静脈洞内圧のさらなる上昇→さらなる頭蓋内圧亢進→さらなる狭窄の進行という悪性サイクルが示唆されている(文献8).狭窄部位に対するステント術は,この悪性サイクルを断ち切る効果が期待されている.実際に本システマティック・レビューで取り上げられた報告の多くで横静脈洞がステント術の対象となっているようである.
しかし,元々の肥満による静脈洞内圧亢進→髄液の吸収障害という根本的な原因が除去されない限り,複数部位での静脈洞の狭窄の可能性や,新たに静脈洞狭窄が発生する可能性もあり,ステント留置による長期効果が維持出来るのか否かは未だ判っていない.
本システマティック・レビューでは,ステント術後に77.7%で何らかの症状改善が認められたとのことであるが,22.3%では症状は不変か悪化であった.また,術前にあった諸症状の残存率は頭痛95.0%,強い頭痛72.9%などと高く,ステントの効果があった例でも,決して症状消失ではなかったことが示されている.
さらにステント部自体の再狭窄や隣接部の狭窄を含む全再発率は17.7%と高い.本システマティック・レビューの対象症例の平均追跡期間は画像で10.4ヵ月,臨床症状で20.2ヵ月と短い事を考慮すれば,長期の追跡では再発率がさらに上昇する可能性がある.
このシステマティック・レビューの結果は,特発性頭蓋内圧亢進症に対する(横)静脈洞ステント留置が,決して原因に対する根治的な治療でないことを反映している.特発性頭蓋内圧亢進症の原因の多くが高度肥満であるとすれば,根治治療は徹底的な体重コントロールか減量手術ということになろう.それが出来ない場合は,本稿で取り上げた静脈洞ステント留置と併せて髄液シャント術やうっ血乳頭改善のための視神経鞘開窓術(文献9)を組み合わせていくしかないようである.
日本では現在,特発性頭蓋内圧亢進症の有病率は欧米ほど高くはないが,今後肥満者の増加とともにありふれた疾患になる可能性がある.そろそろ日本でも,特発性頭蓋内圧亢進症に対する静脈洞ステント術の功罪に関して前向きに検討を始める時期かも知れない.

執筆者: 

有田和徳

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