慢性硬膜下血腫手術後のトラネキサム酸投与が再発を減少させる:静岡国保データベースから

公開日:

2023年12月22日  

最終更新日:

2023年12月28日

Administration of Tranexamic Acid After Burr Hole Craniotomy Reduced Postoperative Recurrence of Chronic Subdural Hematoma in a Japanese Regional Population

Author:

Miyakoshi A  et al.

Affiliation:

Shizuoka Graduate University of Public Health, Shizuoka, Japan

⇒ PubMedで読む[PMID:37288980]

ジャーナル名:Neurosurgery.
発行年月:2023 Jun
巻数:Online ahead of print.
開始ページ:

【背景】

慢性硬膜下血腫術後の再発率は5-30%と高い.中硬膜動脈塞栓術や漢方薬を含むいくつかの薬剤など,再発回避策が試行されているが,安全かつ有効性の高いものは少ない.
静岡県立総合病院のMiyakoshiらは,トラネキサム酸の効果を明らかにするために,静岡国保データベースから,2012年から2020年に初回穿頭術が行われた8,544例(60歳以上,平均年齢81歳,93病院)を抽出し解析した.中硬膜動脈塞栓術が施行された患者は除外した.このうち473例(34病院)が手術後に最低2週間以上トラネキサム酸(中央値750 mg/日)投与を受け,6,174例が非投与であった.追跡期間は6ヵ月.

【結論】

全対象症例における追跡期間中の再手術はトラネキサム酸群で6.3%,非投与群で14.8%であった(相対リスク0.43;95%CI,0.30-0.61).
傾向スコア法(PS)によりマッチさせたPSトラネキサム酸群465例,PS非投与群465例を抽出し,比較した.再手術はPSトラネキサム酸群で6.5%,PS非投与群で16.8%であった(相対リスク0.38;95%CI,0.26-0.56).観察期間中での死亡や血栓症の発生頻度に差はなかった.
感度解析でも術後トラネキサム酸投与は再手術の頻度を有意に減少させた(相対リスク0.43;95%CI,0.28-0.61;p <.001).

【評価】

慢性硬膜下血腫に対する血腫増大防止あるいは術後再発予防策としては,中硬膜動脈塞栓術,デキサメタゾン,トラネキサム酸,アトルバスタチン,五苓散などの漢方薬の投与が報告されている(文献1,2).
トラネキサム酸に関しては,既にいくつかの観察研究や介入研究によって,慢性硬膜下血腫の増大抑制や再発抑制効果が示唆されている.しかし,RCTでは十分な症例数の参加が得られなかったり,追跡脱落率の大きさによって,トラネキサム酸の再発抑制における有効性を統計学的に証明するところまでは至っていない(文献3,4).
本稿は慢性硬膜下血腫術後のトラネキサム酸投与が再発予防に有効なことを,いわゆるreal worldの膨大なデータで示し,かつ傾向スコアマッチングでも証明した.さらに,感度解析でもその有効性を再確認している.
こうなると,十分な症例数でのRCTが益々必要になってくる.また,既にRCTで有意差が示されている五苓散などの漢方薬との比較にも期待したい.

<著者コメント>
慢性硬膜下血腫は頻度の高い疾患であり,低侵襲な穿頭手術で治療することができるが,術後の再発が課題である.近年のDPCを用いたコホート研究においても,再発による再手術は13.1%と報告されており(文献5),高齢者のADL低下や医療コストを考慮すると,無視できない頻度である.
近年,中硬膜動脈塞栓術の再発抑制効果が多数報告されているが,塞栓術は,適切な治療対象集団を設定することが難しいという問題点を孕む(文献6).血腫量が多く症候性の症例は,速やかな減圧が早期の回復につながることから穿頭手術が優先されるべきであり,また症状が軽微または無症候性の病変は,保存的加療で軽快することが多いことを,私たちは実臨床を通して知っている.
その他の治療法として,デキサメタゾン(文献2)およびアトルバスタチン(文献7)の有効性がRCTで示されているが,副作用や薬剤相互作用および忍容性の問題がある.また五苓散や柴苓湯の再発抑制効果を検証した本邦のRCTも複数存在する(文献1,8)が,偽薬を用いた二重盲検試験ではないため,観察者バイアスの問題がある.また薬剤による利尿効果も,高齢者のQOLを下げる点でしばしば問題となる.
トラネキサム酸は1962年に本邦で開発され,歴史的に副作用の頻度が非常に低いことが知られており,また1錠あたり約10円(250 mg錠)と安価な薬である.あらゆる出血性疾患に対する出血抑制効果が報告されており,月経過多(文献9)や鼻出血後の再出血予防(文献10)など,内服薬における効果も示されている.今回リアルワールドデータを用い,トラネキサム酸の慢性硬膜下血腫に対する再発抑制効果を確認した.今後は二重盲検下での多施設RCTを通し,その有効性を検証していきたい.(静岡県立総合病院 宮腰明典)

執筆者: 

有田和徳

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