髄膜腫手術中のトラネキサム酸投与は静脈血栓塞栓症のリスクを高めることなく出血量を減らす:RCT6報告381例のメタアナリシス

公開日:

2023年12月22日  

最終更新日:

2023年12月23日

The association of thromboembolic complications and the use of tranexamic acid during resection of intracranial meningiomas: systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials

Author:

Nguyen A  et al.

Affiliation:

Department of Neurological Surgery, University of Florida School of Medicine, Gainesville, Florida, USA

⇒ PubMedで読む[PMID:37856372]

ジャーナル名:J Neurosurg.
発行年月:2023 Oct
巻数:Online ahead of print.
開始ページ:

【背景】

脳外科手術の術中出血量を減らす目的でトラネキサム酸などの抗線溶薬を用いることがあるが(文献1,2,3),一方で抗線溶薬投与による過凝固に基づく血栓塞栓性合併症の発生は気になるところである(文献4).
フロリダ大学脳外科などのチームは,2017年以降に発表されたRCT6報告381例のメタアナリシスを行い,髄膜腫手術中のトラネキサム酸投与の得失を解析した.対象症例のうち190例はトラネキサム酸群,191例は偽薬群に無作為に割り振られていた.トラネキサム酸の投与方法は,20 mg/kg/20分のローディングに続いて,1 mg/kg/時間の術中持続投与が多かった.

【結論】

両群とも,静脈血栓塞栓症の発生は無かった.トラネキサム酸投与を受けた群では,偽薬群に比較して輸血の頻度は少なく(21.5 vs 41.6%,p =.02),出血量推定値は少なかった(平均差 −282.48 mL,p <.001).さらに,新規神経症状の出現,けいれん,血腫形成,嘔気・嘔吐などの周術期合併症の頻度も少なかった(10.7 vs 19.9%,p =.04).
両群間で手術時間(273.8 vs 296.5 分,p =.97),術後ヘモグロビン値に差はなかった(標準化平均差0.40,p =.2471).

【評価】

悪性腫瘍や外傷などの静脈血栓塞栓症のリスクが高い患者では,抗線溶薬のトラネキサム酸投与によって,静脈血栓塞栓症のリスクが高くなる可能性が示唆されているが,本研究によって髄膜腫の手術に関する限りはそのリスクは認められないことが明らかになった.このことは,トラネキサム酸(合成リジンアナログ)による止血効果は,フィブリンクロット上のリジン残基とプラスミノーゲンの結合をトラネキサム酸が競合的に阻害することによって得られるという機序によって,部分的には説明可能であると著者らは述べている.かたや通常の静脈血栓塞栓症は,全身性の抗凝固因子の低下や凝固促進因子の上昇を背景にして引き起こされている.
本研究では,トラネキサム酸投与群では偽薬投与群に比較して出血量推定値 が約300 mL少なく,輸血の頻度は約半分(22 vs 42%)であったことも明らかにしている.輸血は,以前に考えられたほど安全無害な医療行為とは考えられなくなっており,そのような意味でも髄膜腫手術中のトラネキサム酸投与は有益そうである.
術中出血の減少は,摘出率の向上にも寄与しそうであるが,本研究では解析の対象とはなっていない.
少し気になるのは,解析の対象となった6論文中の4本が南アジア,1本がインドネシア,1本がアフリカ,すなわち低-中所得国家からのもので,欧米からのものはない.これらの国では,欧米に比較してBMI30以上の肥満人口が少ない事を考慮すれば,元々,静脈血栓塞栓症のリスクが低い患者集団を対象に行われた研究である可能性がある.実際に,低-中所得国家の国民は高所得国家の国民に比較して静脈血栓塞栓症のリスクが低いことが報告されている(文献5).
また,これら6個の論文では静脈血栓塞栓症の発生をどのようにスクリーニングしたかも不明である.
今後,静脈血栓塞栓症の高リスク患者も含めたより大きな患者集団で,またスクリーニングの方法を一定にして,RCTが行われる事を期待したい.

執筆者: 

有田和徳