経鼻的な翼口蓋神経節浸潤麻酔が開頭手術後疼痛を軽減する

公開日:

2023年12月25日  

Effects of a sphenopalatine ganglion block on postcraniotomy pain management: a randomized, double-blind, clinical trial

Author:

Mantovani G  et al.

Affiliation:

Deparment of Translational Medicine, Neurosurgery Unit, University of Ferrara, Ferrara, Italy

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ジャーナル名:J Neurosurg.
発行年月:2023 Dec
巻数:55
開始ページ:E13

【背景】

開頭手術後疼痛(PCP)の発生は70%前後と高率で,5-10%の患者で持続性となり,日常生活を障害することも多い(文献1,2,3,4).伊フェラーラ大学脳外科などのチームは蝶形(翼)口蓋神経節ブロック(SPGB)のPCP抑制効果を検討した.手技は,全身麻酔導入と頭皮ブロック注射後に,0.5%レボブピバカインに浸した綿棒を翼口蓋神経節上の粘膜上に10分間留置するというものである.その後に3点ピンでの頭部固定を行った.対象は開頭術83例で,41例がSPGB群,42例がコントロール群に無作為に割り当てられた.両群とも手術後48時間の鎮痛剤全身投与が行われた.
SPGBに伴う合併症は認められなかった.

【結論】

VAS(ビジュアル・アナログ・スケール)はSPGB群で有意に低かった(p値は術後0日で0.05,2日で0.03,3日で0.03).PAINAD(認知症患者用の疼痛に関する行動評価)スケールもSPGB群で有意に低かった(p値は術後1日で0.006,2日で0.001,3日で0.03,4日で0.05).手術後第1日のVAS ≥3の割合はSPGB群で有意に少なかった(71.9 vs 89.5%,p =0.05).
手術後180日では,全83症例のうち5例がNRS(数字評価)スコア ≥3で慢性PCPと診断された(SPGB群3例,コントロール群2例).

【評価】

確かに,開頭手術後に長く創部の痛み(開頭手術後疼痛:PCP)を訴える患者がおられる.時には数年あるいはそれ以上続くこともある.脳外科医は,大きな神経脱落症状がなければ良しとしがちであるが,PCPは患者さんにとってはQOLを大きく損なう重大事であろう.
蝶形(翼)口蓋神経節(SPG)は,副交感神経の神経節であり,多くの求心性あるいは遠心性神経線維と豊富な連絡を有し,PCPの発生に深く関わっていると推測されている.特に三叉神経第二枝(上顎神経)とは直接に連絡しており,これが種々の頭痛に対して翼口蓋神経節ブロック(SPGB)が有用な理由とされている(文献5).
実際,SPGBは片頭痛,三叉神経性頭痛,叢生頭痛,腰椎穿刺後頭痛,経鼻内視鏡手術後の疼痛に対して有効であることが報告されている(文献5).また,開頭手術前のSPGBが頭部ピン固定時の循環変動を抑制することも知られている(文献6).
本稿は,PCPに対するSPGBの効果を,ダブル・ブラインドRCTで初めて証明したことになる.例えば,手術後2日目のVAS中央値はSPGB群で13.9,コントロール群で23.3で(p =0.03),3日目はSPGB群で9.4,コントロール群で19.6であった(p =0.03).
本稿で紹介されたSPGBは,局所麻酔薬(0.5%レボブピバカイン,商品名:ポプスカイン)に浸した綿棒を翼口蓋神経節上の粘膜上に10分間留置するだけという簡単な手技であり,安全性も高い.明日からの診療に導入出来そうである.
しかし,本稿のSPGB手技は,基本的にはブラインドでの操作で,局所麻酔剤を浸した綿球を,鼻孔から,硬口蓋と25度の角度で挿入するというものであるから,綿球がSPG上粘膜に正確に留置されたかの確証はない.少なくとも初心者にとっては,C-アームでのモニターか簡易な経鼻内視鏡での観察下にこの手技が行えれば,有効性はより高くなる可能性がある.
一方,手術後180日目の慢性の開頭術後疼痛(PCP)の発生はいずれも少数であり,SPGBの優位性は示されなかった.これは何故か.著者らが全例で行っている頭皮ブロック注射の効果であろうか(文献7).より多数例で,頭皮ブロックの有無も含めた比較検討が必要である.

執筆者: 

有田和徳