脳腫瘍に対する日帰り開頭手術プログラムの成功率は90.6%:トロントウェスタン病院の630例

公開日:

2024年1月9日  

最終更新日:

2024年1月10日

Same-day discharge after craniotomy for tumor resection: a retrospective observational single-center study of 630 patients

Author:

Nijs K  et al.

Affiliation:

Department of Anesthesia and Pain Medicine, and Division of Neurosurgery, Toronto Western Hospital, University Health Network, Toronto, Ontario, Canada

⇒ PubMedで読む[PMID:38039523]

ジャーナル名:J Neurosurg.
発行年月:2023 Dec
巻数:Online ahead of print.
開始ページ:

【背景】

支払い側からの強いプレッシャーの結果,どこの国でも在院日数短縮の努力が強いられている.また早期離床・退院は,医療資源の有効利用と長期臥床による合併症予防のための戦略でもある.トロントウェスタン病院脳外科は,開頭手術後の患者でも一定の条件を満たせば,手術日退院(日帰り手術)プログラムに乗せてきた.その条件とは,天幕上腫瘍で手術時間4時間以内,手術後6時間の院内滞在(2時間の麻酔後観察室滞在を含む),車で1時間以内の家庭への退院,当日夜間の家庭での介護者の存在などである.本稿は過去25年間に日帰り開頭手術プログラムが実施された脳腫瘍630症例(女性311人,平均年齢50.9歳,術前神経症状あり34.4%)の解析である.

【結論】

日帰り開頭手術プログラムで,491例が覚醒下開頭手術,139例が全身麻酔下開頭手術を受けた.日帰り手術は571例(90.6%)で実現され,59例(覚醒下手術45例:9.2%,全身麻酔下手術14例:10.1%)で失敗した.日帰りプログラムが失敗した理由は,新規神経症状の出現10例,けいれん8例,嘔気・嘔吐12例,強い頭痛5例,社会的要因10例などであった.
9例(630症例の1.4%,全例が覚醒下手術例)は帰宅後24時間以内に再入院となった.再入院の理由は,頭痛2例,けいれん4例,新規神経症状の出現3例,嘔気・嘔吐1例であった.この9例もその後1日で退院となり,再手術を要した症例はなかった.

【評価】

脳外科医にとって,開頭手術後の患者をその日に家庭に帰すというのはなかなかハードルが高い.術後出血,術後脳浮腫,けいれんなどの予期し得るあるいは予期しえない合併症を畏れるからである(文献1).しかし通常,手術後出血は術後6時間以内に発生し,術後脳浮腫は24-48時間以降に発生することを考慮すれば(文献2,3,4),手術日に患者を病院に泊めておくメリットは少ないかも知れない.本稿の著者であるトロントウェスタン病院脳外科は20年以上前から日帰り開頭手術プログラム(覚醒下あるいは全身麻酔下)に取り組んでいる(文献1,5).既に著者らは2016年に,過去4年半の間に行った141回の全身麻酔下開頭術のうち,44例で日帰り手術プログラムが開始され,38例(86%)で成功したことを報告している(文献6).
本稿は,過去の報告中最大の630症例を対象に,日帰り開頭手術プログラムに乗せた患者のその後の流れを追ったものである.その結果は90.6%で初期の目標通り日帰り手術が実現され,24時間以内の不測の再入院は1.4%という高い成功率であった.
術後の痛みはオピオイドの積極的な導入によって家庭でもコントロール可能かもしれないが,けいれんや嘔気・嘔吐は予測不可能な部分が多い.本稿では詳細は述べていないが,著者らは術後の嘔気・嘔吐の軽減に向けたいくつかの予防策を導入しているという.
日帰り手術プログラムは,医療資源の有効利用,長期臥床に起因する合併症の予防のみならず,患者の満足度という観点からも重要である.実際に,彼らのプログラムで日帰り手術を受けた患者の手術後30日目における満足度は高かったという(文献7,8).
本稿によれば,日帰り開頭手術プログラムが失敗した理由は,新規神経症状の出現,けいれん,嘔気・嘔吐,強い頭痛であった.日帰り手術プログラムが成功した例と失敗した例の間には,患者年齢,性比,2回目手術の頻度,腫瘍体積,腫瘍周囲浮腫の頻度,術前の麻痺・感覚障害,けいれんの頻度の差はなく,日帰り手術プログラムの失敗を予測し得る背景因子は不明であった.
最近,手術後の疼痛や嘔気嘔吐の予防・管理に関する発展は著しく,今後,日帰り手術は増加するものと思われる.
しかし,手術時間4時間という制約では,時間がかかっても若い人たちに手術をさせ,経験を積ませるという実践教育がどのくらい可能なのか疑問が残る.また,日帰り手術プログラムでは,いわゆる準夜勤務帯に患者を退院させることになりそうであるが,医療職を含む病院の各種スタッフのストレスも気になるところである.さらには,看護スタッフのストレスが患者のケアに与える影響も無視は出来ない.
更に,本研究の対象となった症例はトロントウェスタン病院脳外科のチーフであるMark Bernstein医師担当の症例に限定されているようだが,これらの症例が施設全体の開頭手術のうちどのくらいを占めるのかも知りたいところである.一部の症例であれば,日帰り開頭手術プログラムが有効との説得力はないように思う.
今後,同様の背景因子を有する患者を対象としたRCTによって,日帰りプログラム群と通常の術後管理群で,患者の機能予後,患者満足度のみならず,医療スタッフのストレスや満足度にどのくらい差があるのかを明らかにすべきであろう.

<コメント>
日本では手術前日に入院,術後1週間で抜糸,その翌日に退院とすると最短で10日間の入院となるが,北米ではこのスケジュールが常識ではないことに気づかされる.この論文のような同日入退院はその最たるものであるが,米国メイヨークリニックでは同日入院,術後2日目に退院/転院というのが一般的であった.病院経営的に有効なだけでなく,日本と異なり入院費が非常に高価(例えばICU1泊30万円程度)という事情から患者としても早期退院への動機がある.短期間の入院が前提とされるため,physician assistant,nurse,social worker,患者,その家族もそれを想定して分業的に動くのでストレスはない.術後数日は病院近くのホテルに滞在し,合併症の場合は救急外来を受診する.日本より北米の方が家族のコミットメントが大きく,治療前後は患者の傍に常に家族がいるという印象を受ける.これに比して,日本では患者と家族が病院と医療スタッフに依存する程度が大きく,医療への出費も遥かに少なく,甘えの構造があるようにさえ感じる.本論文の1.4%の患者が再入院という事実についても,日本ではこれを大きな不利益と捉え,同日入退院は取り入れられないかも知れない.しかし,北米では局所よりも全体を俯瞰し,効率面からの合理性を考え,1.4%は十分に低いと考えるからこそ,このような挑戦的であり先進的な取り組みができるということも記載したい.(東京大学 髙見浩数)

執筆者: 

有田和徳