運動皮質電気刺激(CMS)は有痛性三叉神経ニューロパチーに効く:バルセロナ自由大学の19症例

公開日:

2024年1月10日  

最終更新日:

2024年1月15日

Long-Term Results of Cortical Motor Stimulation for Neuropathic Peripheral and Central Pain: Real-World Evidence From Two Independent Centers

Author:

Aibar-Durán JÁ  et al.

Affiliation:

Neurosurgery Department, Functional Neurosurgery Section, Hospital de la Santa Creu i Sant Pau, Universitat Autònoma de Barcelona (AUB), Barcelona, Spain

⇒ PubMedで読む[PMID:37638720]

ジャーナル名:Neurosurgery.
発行年月:2024 Jan
巻数:94(1)
開始ページ:147

【背景】

中枢性あるいは末梢性の神経因性疼痛に対する運動皮質電気刺激(CMS)の有効性が報告されているが(文献1,2,3),その効果を否定するものもある(文献4, 5).これには患者選択,手術手技,刺激プロトコール,症状評価の不均質性などが背景にあると思われる.報告あたりの症例数も10症例前後と少ない.
本稿はバルセロナ自治大学傘下の2つの病院で実施されたCMS31例の長期追跡の結果である.慢性疼痛の内訳は有痛性三叉神経ニューロパチー(PTN)19例,脳卒中後中枢性疼痛(CPSP)7例,外傷性神経叢損傷2例などであった.手術までの病悩期間は平均69(±64)ヵ月で,術後追跡期間は平均51(±23)ヵ月.

【結論】

ニューロナビゲーターと筋電図を用いて,痛み部位に一致する中心溝に対して直行あるいは平行に,2本の硬膜外刺激電極を留置した.パルスジェネレーターは鎖骨下皮下に留置し,刺激条件は通常30–60 Hz,3–5 mA,パルス幅200–250 μsであった.
全症例での痛みの数値評価スケール(NRS)は,CMS前8.33(±1.35)で,最終追跡時には34%減少した(p <.0001).NRSが50%を超えて低下したレスポンダーは,刺激開始後6ヵ月で42%(13/31)で,全てPTN症例であった.最終追跡時のレスポンダーは35%(11/31)でPTN症例の58%(11/19)であった.

【評価】

大脳運動皮質電気刺激療法(CMS)は1991年に坪川らにより開発された神経因性疼痛に対する治療法である(文献1).刺激時には同側視床,島,前帯状回−眼窩前頭回,上部脳幹の血流が増加することから,運動野から視床,脳幹の運動系神経核を介して下行性抑制経路の賦活および前帯状回の賦活による鎮痛メカニズムが想定されている(文献6).欧州神経学会議(EFNS)のガイドラインによれば脳卒中後の中枢性疼痛(CPSP)に対する有効率は約50%で,有痛性三叉神経ニューロパチー(PTN)に対する有効率は約60%とされている(文献2).
本稿はバルセロナ自治大学傘下の2つの病院で実施されたCMSの前向き登録の後ろ向き研究で,いわゆるreal worldでの治療経験である.その結果,全31症例では,平均51ヵ月の最終追跡時のNRSは刺激開始前より34%低下していたが,NRSが50%を超えて低下したレスポンダーはPTN症例(NRSで平均3.6ポイント低下)に限られていた.このようにPTNの方がCPSPよりもCMSの有効率が高いというのは過去の報告と同様である(文献3,7,8).なお,CPSP群でもNRSで平均1.8ポイントの低下は認められている.
本研究ではCMS開始後早期(3ヵ月)に認められていた効果が,治療継続とともに減弱する傾向を示した.この傾向も過去に報告されており,刺激に対する耐性現象(tolerance)で説明されている(文献4,9).
また著者らは,ノンレスポンダーの40%では治療開始超早期(1-2ヵ月)にNRSが0に近くなるなどのプラシーボ効果が疑われたという.CMSに伴うプラシーボ効果は過去の報告で35%と報告されている(文献3,8).このようなプラシーボ効果の消失も慢性期の効果減弱の要因かも知れない.こうした慢性期の効果減弱を反映して,患者満足度調査CGI-Cスケール(1が最良,7が最悪)は,CMS開始後3ヵ月目の2.39(±0.94)から最終追跡時の2.95(±1.32)へと有意に悪化していた(p =.0079).
ちなみにPTNの19症例では,CMSの前に神経血管減圧手術が8例で,ガッセル神経節ブロックが9例で実施され,効果がないことが明らかになっている.このように種々の治療に対して難治の顔面痛をターゲットとしてCMSを実施する意義はありそうである.ただし,この治療法はプラシーボ効果が大きく,有効例でも耐性が生じやすいので,CMS装置埋め込み前のスクリーニング方法や耐性発生時の電極の再選択やリプログラミングの方法などに精通した施設に症例を集約するのが賢明そうである.

<コメント>
運動野刺激療法は本邦で開発された治療法だが,現在,基本的に日本国内では行われていない.添付文書上,脊髄刺激電極やパルスジェネレーターの使用用途が,除痛目的であれば脊髄硬膜外からの神経刺激に限定されるためである.かつて日本では運動野刺激用にMedtronic社製の四連電極が用いられていたが,現在は輸入されておらず,この治療を国内で患者に提供するにはかなり高いハードルを越えなくてはならない.代替手段として,経頭蓋磁気刺激や経頭蓋直流電気刺激のような非侵襲的脳刺激が実験的に行われることもあるが,治療持続性を持たせることは困難であるため,本稿の植込型デバイスを用いる治療法の必要性は高い.それにもかかわらず,この治療法を実施できないという事実は,本邦における機能外科領域の診療の幅を狭めているという点で非常に遺憾である.難治性疼痛に対する運動野刺激療法が本邦で再び保険診療としての承認を得るためにはランダム化比較試験が必要と思われるが,対象症例数が少ないために実施困難な状況である.新しい刺激部位をターゲットとした脳深部刺激療法の開発等,難治性疼痛に対するより効果的な治療法の開発が期待される.ただし,デバイスを用いる臨床試験では,常にそのコストに関する問題がつきまとい,多額の研究費が必要である.一方,研究費獲得には医療経済的な観点から期待される有用性についての説得力のある仮説や予備データが必要である.その点は運動野刺激療法に限らず,本邦発の新たなデバイス治療を開発する上での大きな課題である.(福岡大学病院診療教授 森下登史)

執筆者: 

有田和徳