脳超音波刺激による血液脳関門の開放がアデュカヌマブ投与によるアルツハイマー病患者の脳内アミロイドβの除去を促進させる

公開日:

2024年1月16日  

最終更新日:

2024年1月16日

Ultrasound Blood-Brain Barrier Opening and Aducanumab in Alzheimer's Disease

Author:

Rezai AR  et al.

Affiliation:

Departments of Neurosurgery, West Virginia University, Morgantown, WV, USA

⇒ PubMedで読む[PMID:38169490]

ジャーナル名:N Engl J Med.
発行年月:2024 390(1)
巻数:55
開始ページ:

【背景】

MRIガイド下の低出力経頭蓋超音波刺激が一過性に血液脳関門を開くことが明らかになり,アルツハイマー病,パーキンソン病,脳腫瘍,筋萎縮性側索硬化症などの治療に応用されている(文献1-5).
アルツハイマー病動物モデルでは,経頭蓋集束超音波刺激が行われた脳部分では経静脈的に投与された抗アミロイドβ(Aβ)抗体の濃度が数倍に高まることが明らかとなった(文献6).
ウエストバージニア大学の機能脳神経外科医Rezaiらは,3名の軽症アルツハイマー病患者の4週毎6回のアデュカヌマブ経静脈投与の2時間後に,脳のAβ高蓄積部位を標的に集束超音波刺激を加え,Aβ蓄積量の低下を非標的脳部位と比較した.

【結論】

治療開始から3,11,19,26週目に実施した18F-florbetaben-PET(Aβ-PET)では,非標的脳のAβ集積は試験開始時と比較して殆ど変化していなかったのに対して,標的脳部位のAβ蓄積量は徐々に低下し,その差は次第に広がった.非標的脳部位に対する標的脳部位でのAβ蓄積量の減少率は48-63%に達した.
この治療終了後30〜180日に行った認知・行動検査では,症例1と2では治療前と変化はなく,症例3では30日目のRBANSスコアが76から61に低下(認知機能が軽度低下)した.
アミロイド関連画像異常(ARIA)は認められず,治療関連有害事象は頭痛など軽度のものに限られた.

【評価】

アルツハイマー病に対する集束超音波単独での治療に関する過去の報告では,Aβ減少効果(SUVR)は微小であり,せいぜい1.6-6.6%に留まっている.
一方,本稿の経静脈的アデュカヌマブの投与に併せた集束超音波刺激では,刺激部位のAβ蓄積量が大幅に低下することが明らかになった.併用治療開始後26週(6回目終了後3週)の平均SUVRは32%であり,過去の報告と比較してその差は大きかった.また,非標的脳に対する標的脳での減少率も48-63%と大きかった.
安全性確認目的で行われた認知機能評価では,大きな悪化や改善はなく,1例でRBANSスコアで軽度の低下(認知機能の低下)が認められたが,対照例(自然経過)との比較がないので,本治療の影響であったか否かは不明である.
抗アミロイドβ(Aβ)抗体治療で高頻度に認められる,微小出血や浮腫といったアミロイド関連画像異常(ARIA)は認められなかった.ただし本研究では,ARIAのリスク因子であるAPOE-ε4ヘテロ接合型やホモ接合型の患者(文献7)は研究対象から予め除外されていたことに注意が必要である.
元来,抗Aβ抗体の静脈内投与ではその約0.1%しか血液脳関門を通過しないことが知られている.本研究で認められた高いAβ除去効果は,集束超音波刺激による血液脳関門の一時的な開放が,アデュカヌマブの血管内から脳への移動を可能にした結果と推測出来る.
今後,この概念実証研究から前進して,多数例での第2相試験に進むものと思われる.その際は,対照群を設定して,認知機能低下抑制作用を解析することも必要であろう.
抗Aβ抗体治療薬としては,本研究で用いられたアデュカヌマブは日本では2021年に承認見送りになっているが,作用機序がやや異なる抗Aβ抗体治療薬のレカネマブ(商品名レケンビ)は2023年9月に製造販売承認となっている(文献8).アデュカヌマブは不溶性Aβ線維(フィブリル)に親和性があり,レカネマブはフィブリルとともに短い可溶性Aβ線維(プロトフィブリル)にも親和性があるとされる.
今後,このレカネマブ,さらにAβ除去効果がより高いとされるドナネマブ(文献9)でも,経静脈投与後早期の集束超音波刺激が行われるようになるかも知れない.

<コメント>
アミロイドβ(Aβ)除去はアルツハイマー病治療における重要なプロセスだが,必ずしも臨床症状の改善につながるとは言い切れない.すでに臨床応用が始まったレカネマブの治験で,Aβプロトフィブリルの除去がアルツハイマー病の進行抑制をもたらしたが,CDR-SBによる評価において,18ヵ月で約27%の進行抑制という結果は評価が分かれるところである.NEJMに掲載の本研究においても,2例においては最後の追跡調査受診時に認知機能の変化はなく,1例は認知機能の低下を認めており,少なくとも改善はしていない.脳超音波刺激によるAβ除去の促進がアルツハイマー病の治療においてどれほどの臨床的意義があるかは今後の検討課題である.Aβに対する抗体薬を用いた治療において,問題となる副作用はアミロイド関連画像異常(ARIA)である.この発生メカニズムには血管透過性の亢進が想定されている.脳超音波刺激でBBBを開放すれば血管透過性に影響を及ぼし,ARIA発生を助長することが懸念される.しかし本研究ではARIAの発生は認めず,一過性の頭痛を認めたのみであった.いずれにしろ3例と少数例の検討であり,臨床応用を想定すると,さらなる安全性の検討が必要と思われる.
(南風病院高齢者・健康長寿医療センター 横山俊一)

執筆者: 

有田和徳