エロクエント皮質領域のグリオーマには,本当に覚醒下腫瘍摘出手術が良いのか:15論文2,032例のシステマティック・レビュー

公開日:

2024年1月16日  

最終更新日:

2024年1月16日

Awake Versus Asleep Craniotomy for Patients With Eloquent Glioma: A Systematic Review and Meta-Analysis

Author:

Sattari SA  et al.

Affiliation:

Department of Neurosurgery, Johns Hopkins University School of Medicine, Baltimore, Maryland, USA

⇒ PubMedで読む[PMID:37489887]

ジャーナル名:Neurosurgery.
発行年月:2024 Jan
巻数:94(1)
開始ページ:38

【背景】

覚醒下腫瘍摘出術が全身麻酔下摘出に比べて,エロクエント皮質のグリオーマの安全かつ最大の摘出の可能性を高める事が多数報告されているが(文献1-4),これを否定する報告もある(文献5-7).ジョンズホプキンズ大学のSattariらは,覚醒下腫瘍摘出術の有用性を明らかにするために,両手術法を比較した過去の15報告2,032例を対象にメタアナリシスを行った.この中で,低悪性度グリオーマ(グレードI,II)は26.8%で,高悪性度グリオーマ(グレードIII,IV)は69.8%であった.
800例(39.4%)が覚醒下手術を,1,232例(60.6%)が全麻下手術を受けていた.

【結論】

覚醒下手術の方が,全麻下手術よりも摘出率は高く(平均差8.52%,p <.00001),OSは長く(平均差2.86ヵ月,p =.0002),PFSは長く(平均差5.69ヵ月,p =.02),術後3ヵ月目のKPSは高く(平均差13.59,p <.00001),術後3ヵ月間けいれん無しの割合は高く(オッズ比8.72,p <.00001),術後3ヵ月間の神経脱落症状出現は少なく(オッズ比0.47,p =.004),在院日数は短かった(平均差-2.99日,p =.005).
一方,手術時間は覚醒下手術の方が少し長かったが,有意差はなかった(平均差37.88分,p =.30).

【評価】

エロクエント皮質のグリオーマに対する覚醒下腫瘍摘出術に関する従来の評価が分かれていたのは,過去の報告の中にはグリオーマ以外の腫瘍やエロクエント皮質以外の腫瘍も含まれていたことに起因するのかも知れない.本メタアナリシスは,エロクエント皮質のグリオーマのみを対象とした研究15報告を塊集して解析したものである.
その結果,腫瘍摘出度,OS,PFS,KPS,術後3ヵ月間けいれん無しの頻度,術後3ヵ月間神経脱落症状の頻度の少なさ,在院日数,いずれの指標でも,覚醒下摘出術が全麻下摘出術より優れていることを示していた.一方,手術時間(3報告)に関しては,1報告で覚醒下摘出術の方が長かった(280 vs 182分)が他の2報告では差がなく,3報告全体の評価では有意差はなかった.
本稿の考察では,各評価項目について詳細な分析を行っており,覚醒下手術を実施している施設あるいはこれから開始する施設にとって,必読のレビューとなっている."
本メタアナリシスの限界は,先ず第一に解析の対象とした報告が非ランダム化比較試験であったことである.著者らはRobins-I(非ランダム化介入研究におけるバイアスのリスク評価)(文献8)を用いてメタアナリシスの対象とした報告を評価しているが,いずれの報告も交絡因子バイアス,患者選択の偏りのバイアス,介入群(覚醒下摘出術)と対照群(全麻下摘出術)の分け方におけるバイアスが,中等度以上のリスクであった.その他,介入群と対照群の症例数の違い,IDH変異やMGMTプロモーター・メチル化の有無など腫瘍の分子学的分類の欠如が本研究の限界として挙げられている.
現在進行中の多施設RCTであるSAFE試験(NCT03861299)(文献9)や多施設前向き3アームコホート研究(覚醒下マッピング,全麻下マッピング,非マッピング)PROGRAM試験(NCT04708171)(文献10)が,上記の欠落を補完して,エロクエント皮質のグリオーマに対する覚醒下手術の意義を正確に評価することを期待したい.

<コメント>
神経膠腫における皮質下マッピングによって機能予後が改善することは過去のメタアナリシスでも証明されている(De Witt Hamer PC, et al. J Clin Oncol. 30:2559, 2012).しかし,覚醒下手術によって摘出率は向上するのか,また全生存率(OS)は改善するのかに関しては議論があった.本論文で解析対象となった我々の論文(文献4)では,2000年から2013年に術中MRIを用いて摘出した新規のWHOグレードII以上の神経膠腫335例を対象とした.覚醒下手術群と全身麻酔手術群での摘出率と予後を比較するため,術前KPS,年齢,病理組織,腫瘍の主要存在部位を共変量とした傾向スコアマッチング法により91組182例を抽出した.覚醒下手術群と全身麻酔手術群の平均摘出率はそれぞれ86.4±21.1%,89.0±17.6%であった(p =0.359).また,OS中央値は131±8.6ヵ月,123±8.8ヵ月であった(p =0.651).すなわち,術中MRIの環境下では,機能(エロクエント)領域近傍腫瘍の覚醒下手術と非機能領域近傍腫瘍の全身麻酔手術では,摘出率は同等であった.それに伴いOSに関しても有意な差を認めなかった.この結果をもって,我々は機能領域近傍腫瘍の覚醒下手術は非機能領域近傍腫瘍の全身麻酔手術と同等の治療成績であったと結論付けた.
覚醒下手術の有効性の証明の困難さとして,腫瘍局在による摘出難易度やエロクエント領域にあるかどうかを客観的に分類するすべがないことがあげられる.そのため,覚醒下手術の対照群を適切に設定することが難しい.多くの研究がこの課題に直面していると考えられ,本メタアナリシスで解析された論文にはいずれも中等度以上のバイアスがある.しかし適切な統計手法によって,機能野近傍腫瘍摘出に関して,摘出度,OS,PFS,KPS,術後3ヵ月後のけいれん無しの頻度が,いずれも覚醒下手術で有意に高かったという結果には多くの脳外科医も同意することと思われる.総論的に,覚醒下手術の有効性に疑問をもっている脳外科医は少ないように思われるが,各論で議論となった時,例えば運動野近傍での腫瘍,高次機能マッピングに対しての覚醒下手術が必要か等,本邦でも意見が分かれると考えられる.今後のRCTの結果やさらなる研究の進展によって,議論が成熟していくことが期待される.(国立国際医療研究センター病院 福井敦)

執筆者: 

有田和徳

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