術中ICG蛍光による下垂体茎血流評価は術後下垂体機能を予測する:頭蓋咽頭腫10例における初期経験

公開日:

2024年1月16日  

Indocyanine green endoscopic evaluation of pituitary stalk and gland blood flow in craniopharyngiomas

Author:

Makino R  et al.

Affiliation:

Department of Neurosurgery, Graduate School of Medical and Dental Sciences, Kagoshima University, Kagoshima, Japan

⇒ PubMedで読む[PMID:37996551]

ジャーナル名:Neurosurg Rev.
発行年月:2023 Nov
巻数:46(1)
開始ページ:312

【背景】

頭蓋咽頭腫では視床下部機能や視機能を温存しながらの可及的な摘出が治療の第一選択である.
一方,腫瘍の下垂体茎浸潤が高度であれば根治性を上げるために下垂体茎を切断することはやむを得ない.浸潤が無いか軽度の場合には,下垂体茎を形態的に温存することが多いが,その場合でも術後下垂体機能が必ずしも保たれる訳ではない.本稿は,インドシアニン・グリーン(ICG)蛍光観察による腫瘍摘出後の下垂体茎血流残存程度の評価が術後下垂体機能を予測し得るかを検討したものである.
対象は過去約1年間に経鼻内視鏡的に摘出した頭蓋咽頭腫連続10例(平均年齢56.6歳).腫瘍摘出後にICG 10 mgを経静脈投与した.

【結論】

腫瘍摘出率は6例が肉眼的全摘出(2例では下垂体茎を切断),残りの4例は,視床下部または視交叉への癒着が高度であり,亜全摘に終わった(全例下垂体茎を温存).
腫瘍摘出後の下垂体茎のICG蛍光は,陽性2例,陰性4例,弱陽性4例であった.陽性2例は下垂体茎を温存して全摘した腫瘍で,術後慢性期の下垂体機能障害はなかった.
陰性4例のうち2例は下垂体茎を切断して全摘した腫瘍,残り2例は下垂体茎を温存して亜全摘に終わった腫瘍であったが,これら4例は全て術後汎下垂体機能障害となった.
弱陽性4例はいずれも下垂体茎を形態的に温存したが,このうち2例は汎下垂体機能障害,1例は部分障害,1例は機能温存となった.

【評価】

本稿は,腫瘍摘出後の下垂体茎ICG信号の程度が,頭蓋咽頭腫術後の内分泌予後の指標になる可能性を示した初めての報告である.
腫瘍の根治性を考慮した最大限の摘出と,内分泌予後に配慮した下垂体茎温存はしばしば背反する.肉眼的全摘出を達成した場合に,さらに下垂体茎を切除すれば内分泌機能低下を伴うことは自明だが(文献1),下垂体茎を温存した場合よりも再発率を低く抑えることが出来る(22.6 vs. 4.9%,OR 5.69)ことも報告されている(文献2).また,形態的に下垂体茎を温存したにも関わらず術後汎下垂体機能低下症となる症例は少なくない.本研究では,腫瘍摘出後の下垂体茎ICG信号が陰性であれば,その温存・切断に関わらず術後慢性期(追跡期間中央値は410.5日)には汎下垂体機能低下症を来した.また,下垂体茎ICG信号が陽性(>50%)であった2例はいずれも内分泌障害をきたさなかった.
この結果は,下垂体茎の門脈血流の残存の程度が,手術後慢性期の下垂体機能の良い指標になることを示唆している.これが事実とすれば,あらかた腫瘍を取り終えた後にICG蛍光観察を行い,下垂体茎を形態的に温存してあったとしても,下垂体茎ICG信号が陰性であれば,術後汎下垂体機能低下は避けられないと考えて,下垂体茎に浸潤している微小な残存腫瘍を下垂体茎ごと摘出するという手術戦略が成立するのかも知れない.
本研究では,下垂体前葉のICG蛍光信号と術後下垂体機能の関連も検討しているが,相関は乏しかった.これは下垂体前葉が門脈血流のみではなく,内頚動脈(下下垂体動脈)からも灌流される事を反映しているのかも知れない.
本研究の問題はいくつか挙げられる.下垂体茎ICG蛍光の程度は,ICG陽性部分の面積率 >50%,10-50%,<10%をそれぞれ陽性,弱陽性,陰性として評価しているが,客観的な評価法ではない.また,ICGを投与してから何秒後に下垂体茎ICG蛍光を評価するのかという観察のタイミングも厳密には設定されていない.さらに,内頚動脈や上下垂体動脈を観察するため腫瘍摘出前に初回のICGが投与されている例では,ICGが血管内や組織内に残存している可能性があり,それらをどのように評価するかというのも大切なポイントである.
経鼻内視鏡下腫瘍摘出術ではICG蛍光観察をルーチンとして使用している施設も増えているので(文献3,4,5),本稿で示された知見が,より客観的な評価法を用いた多数例の前向き試験で検証されれば,臨床的に有用な術中評価法となり得る.

執筆者: 

牧野隆太郎