脳腫瘍による閉塞水頭症に対する定位的な側脳室-橋前槽内シャント留置の安全性と効果

公開日:

2024年2月2日  

最終更新日:

2024年2月6日

Minimally invasive third ventriculostomy with stereotactic internal shunt placement for the treatment of tumor-associated noncommunicating hydrocephalus

Author:

Niedermeyer S  et al.

Affiliation:

Department of Neurosurgery, LMU Hospital, Ludwig-Maximilian-University Munich, Munich, Germany

⇒ PubMedで読む[PMID:37676505]

ジャーナル名:Acta Neurochir (Wien).
発行年月:2023 Dec
巻数:165(12)
開始ページ:4071

【背景】

現在,脳腫瘍による閉塞性水頭症に対しては,内視鏡下第三脳室底開窓術と生検術が主流となっている.しかし,斜台と脳底動脈間の距離(PPI)が狭く、灰白隆起の穿孔に際して脳底動脈の損傷が危惧されるケースや,腫瘍が脳室壁から離れており生検が困難な症例もある.ミュンヘン大学(LMU)脳外科では,そのような症例に対して定位的な生検術と同時に定位的な第三脳室底開窓+内シャント(側脳室-橋前槽シャント)留置(sTVIP)を行ってきた.本稿は過去10年間にsTVIPが実施された38例の解析である.平均PPIは3.2mm (1–5.5). 水頭症の原因は原発性脳腫瘍35例,転移性脳腫瘍3例.

【結論】

20例(52.6%)では定位的な腫瘍生検手術が行われた.
sTVIP術後74.2%の患者で,術前の諸症状(頭痛,嘔気・嘔吐,傾眠,複視,視力低下,痙攣など)の改善が認められた.手術前の頭痛の存在は手術後諸症状改善の予測因子であった(オッズ比26.25,p =.004).手術死亡はなく,定位手術ルートに沿った無症候性出血が2例に認められた.1例では髄液漏のためシャント再建術が必要になった.1例は髄液吸収障害のために,内シャントチューブを腹腔側に延伸して脳室-腹腔シャントとした.この1例を除く他の37例では術後中央値12ヵ月間(IQR:3-32),通常の髄液シャント手術は不要であった.

【評価】

閉塞性水頭症において,かつて行われていた脳室腹腔短絡手術に比べれば,第三脳室底開窓術(ETV)は感染などの周術期合併症が少なく,在院期間が短いので,今日,治療の第一選択はETVになっている(文献1,2).しかし,斜台と脳底動脈間の距離(prepontine interval: PPI)が狭い症例では,灰白隆起穿孔時の脳底動脈損傷が強く危惧されるところである(文献3).実際のETVに際しての脳底動脈損傷の頻度は0.3%と少ないものの(文献4),一旦損傷すれば重篤な転帰が予想される.また,ETVでは脳室壁から離れた腫瘍に対する安全な生検術は困難である.一方,定位的方法での脳腫瘍生検の成功率と安全性は高い(文献5,6).
こうした事実を背景に著者らは,PPIが狭い症例や経脳室鏡的な腫瘍生検が困難な症例を対象に,定位的生検+定位的な方法での側脳室-橋前槽シャント設置を行ってきている.本稿は,著者らの手技が安全でかつ良好な結果をもたらしていることを示している.こうした著者らの治療戦略に対して,内視鏡手術のエキスパートからは「いやいや,ETVはPPIが狭くても大丈夫デス」という声が聞こえてきそうである.また何も異物を置かない内視鏡下第三脳室底開窓術に比べた場合,シリコンチューブという異物を脳内に置くことの潜在的なリスクも気になるところである.
このテーマに関しては,より多数例の前向きコホートを対象とした,より長期のフォローアップに基づく比較研究が必要である.

<コメント1>
腫瘍による水頭症への‘定位的’第三脳室底開窓+脳室-脳槽ステント設置が,‘内視鏡的’開窓に対して‘efficient alternative’とする本論文の結論に,極めて懐疑的である.主な論点は以下の通り.1)著者らが述べる異常な解剖構築における内視鏡の不利性は,根拠に乏しく,本邦で頻用される軟性脳室鏡の曲線的な移動で問題になることは殆どない.2)脳底動脈は僅かでも透見できれば,直視下に観察してこれを損傷することは先ずない.3)脳底動脈と斜台間の狭小化例では,斜台側に鉗子を押し付ける手技で安全に開窓できる.一旦小孔を作れば,脳室-脳槽間圧格差が是正されて第三脳室底部は浮いてくるので,脚間槽にスペースが生まれる.4)腫瘍生検との同時手術は,昨今ではニューロナビゲーターを用いて, ETVと同一骨窓から脳実質を経由してマニュアルでも可能である.
正常解剖の理解に基づく術中ビジュアル・キューの把握,術前画像の詳細な検討,何よりも内視鏡操作のトレーニングによる技術の習得により,今や脳室鏡視下手術は標準化されている.‘定位的’手技の有用性を否定はしないが,その適応は限られたものであろう.
なお,脳室鏡視下でも脳室-脳槽ステント留置は施行されることがあり,開窓部の頻回閉塞例や閉塞しやすい病態で適応となる.ステント近位端に髄液リザーバーを設置して,薬物の髄注に使用できるなどの付加価値があることを付記しておく.(新潟医療センター 西山健一)

<コメント2>
定位的に第三脳室底を穿孔し,橋前槽に内シャントチューブを留置することは,内視鏡で実際の構造を確認しながら第三脳室底を開窓する操作と比べてリスクを伴う手技であるような気がする.しかし,本稿の結果は,我々が予想する以上に安全である事を示している.また予め,heavily T2強調MRIで橋前槽内の微細構造を観察しておけば,本手技の安全性より高まるように思われる.
一方,本稿で示された方法では,側脳室,第三脳室に位置するチューブの孔と橋前槽に位置するチューブの孔との間で,髄液のドレナージが行われることになるので,これらの孔の位置や大きさ,数を個々に調整しなくてはならないように思われる.原疾患の種類や脳脊髄液の性状に応じて,何らかの工夫をしているのかは知りたい点である.
さらに,内シャントチューブは,ガイドを抜くとき多少戻ってきたり,硬性のガイドが無くなると留置後たわむ可能性があるため,チューブ先端の深さにも注意が必要になる.鞍背の位置で良いのか,それとも少し深めに置くべきなのか,チューブの近傍に腫瘍がある場合など,腫瘤成長によるチューブの移動が生じることも予想され,本手技にはある程度の経験が必要かもしれない.(小原病院 平野宏文)

執筆者: 

有田和徳