H3K27M変異陽性びまん性正中神経膠腫に対する経口ONC201の効果:2つの第1相試験の結果と薬効メカニズムの解析

公開日:

2024年2月2日  

最終更新日:

2024年2月6日

Clinical Efficacy of ONC201 in H3K27M-Mutant Diffuse Midline Gliomas Is Driven by Disruption of Integrated Metabolic and Epigenetic Pathways

Author:

Venneti S  et al.

Affiliation:

University of Michigan, Ann Arbor, Michigan, USA

⇒ PubMedで読む[PMID:37584601]

ジャーナル名:Cancer Discov.
発行年月:2023 Nov
巻数:13(11)
開始ページ:2370

【背景】

びまん性正中神経膠腫(DMG)の大部分でヒストンH3遺伝子にK27M変異が認められる.DMGにはテモゾロミドは無効で放射線治療以外の有効な治療は確立しておらず,予後は極めて不良である(文献1,2,3).DMGではドパミン受容体DRD2が過剰発現しているが,ONC201はD2受容体拮抗薬で,腫瘍細胞をアポトーシスへ導く低分子化合物である(文献4,5).本研究は既に終了した2つのDMGに対する経口ONC201投与の第1相試験のデータを用いてその有効性を明らかにし,さらに腫瘍組織のRNAシーケンシングや培養細胞系を用いた解析を行い,同薬剤の抗腫瘍メカニズムを明らかにすることを目的とした.

【結論】

放射線終了後の腫瘍再発前にONC201投与が開始された患者35例のOS中央値は初診後21.7ヵ月で,30%以上は24ヵ月以上生存中である.PFS中央値はONC201投与開始後7.3ヵ月であった.
腫瘍再発後にONC201投与が開始された患者36例のOS中央値は再発後9.3ヵ月で,PFS中央値は再発後3.4ヵ月であった.
ONC201投与群では歴史的対照(非投与)の274例に比較して,初診後OS中央値は有意に延長していた(21.7ヵ月 vs 12ヵ月,p <.0001).培養細胞系では,ONC201投与は,H3K27M変異細胞の腫瘍化に関与する転写抑制的なトリメチル化H3K27(H3K27me3)の減少を回復させた.

【評価】

本研究では先ず,終了した2つのDMGに対するONC201投与の第1相試験(ONC201-014とNC201-018)から,放射線終了後で再発前のDMG35例と再発後のDMG36例を抽出し,全生存期間(OS)を解析した.その結果,OSは再発前の患者では初診後21.7ヵ月,再発後の患者では再発後9.3ヵ月であった.過去のONC201非投与のDMG274例を歴史的対照として,交絡因子を調整後,多変量Cox解析,逆確率重み付け解析の手法を用いて比較したところ,いずれの方法でも再発前のDMGにONC201を投与した症例ではOSが歴史的対照に比較して有意に延長していることが明らかになった.
さらに,試験参加1施設(ミシガン大学)のデータを用いて,ONC201に対する画像上の反応と初発腫瘍組織の遺伝子発現を解析したところ,腫瘍縮小の程度はTCAサイクル関連の遺伝子の高発現と相関していた.また,ONC201投与はH3K27M変異DMG培養細胞と患者髄液中の2-ヒドロオキシグルタル酸(2-HG)レベルを上昇させた.これは転写抑制的なH3K27のトリメチル化(H3K27me3)の上昇と対応していた.
著者らはONC201投与によるミトコンドリア内TCAサイクルの抑制→グルタミン代謝の亢進→α-KGの上昇→2-HGの上昇→H3K27me3の上昇という連鎖,ならびに細胞周期調節遺伝子とグリア細胞分化遺伝子のエピジェネティックな抑制を効果発現メカニズムとして想定しているようである.
このように,本稿はDMGに対するONC201投与の有用性を示唆し,効果発現のメカニズムにまで迫った価値の高い論文である.現在,H3K27M変異陽性DMGに対するONC201投与に関する世界的初の二重盲・偽薬対照第3相試験が,2023年1月から開始されており,2026年8月終了予定で進行中である(ACTION試験,NCT05580562)(文献6).目標症例数450例という大規模なものである.アジアではソウルの2施設が参加しているが,日本の施設の参加は予定されていない(2024年1月現在).なお,DIPG(びまん性橋膠腫)や脳軟膜播種を有する症例は試験の対象から除外されている.一方,日本では,再発又は増悪したDMGに対するONC201の第I/II相臨床試験(OP-10-001試験)が進行中である(目標40症例,参加症例の募集は終了,試験終了2025年6月予定)(文献7).
ONC201は副作用の少ない経口剤であり(文献8),DMGに対する治療の今後の発展に期待したい.

<コメント>
びまん性橋グリオーマ(diffuse intrinsic pontine glioma:DIPG)は組織型による分類ではなく,腫瘍の発生部位と画像所見に基づく名称である.
2016年,世界保健機関(WHO)は,脳幹や視床等の正中近傍に発生する悪性度の高い星状膠腫で,H3F3AもしくはHIST1H3B/Cをコードする遺伝子にK27M変異を有する腫瘍を,“diffuse midline glioma, H3 K27M-mutant”と定義している.このような腫瘍に対して,ドパミン受容体D2(dopamine receptor D2:DRD2)拮抗作用を有する低分子化合物ONC201が開発されている.ONC201はDRD2拮抗薬であると同時にmitochondrial caseinolytic protease P(ClpP)作動薬でもあり,腫瘍細胞をアポトーシスへ導く.現在,国際的な第三相臨床試験が進行中である.本邦では2020年より小児の再発DIPGを対象とした臨床試験が実施され,終了しているが,ONC201の効果は乏しかった.その原因として,患者背景の違い,人種差,遺伝子異常の違いなど様々な要因が関与していると考えられる.DMGに対しては今後も更なる治療法の開発が求められている.(佐賀大学 阿部竜也)

執筆者: 

有田和徳