R75P変異陽性CADASIL症候群には側頭極病変は少なく,視床のマイクロブリーズ・クラスターが多い:32例の解析

公開日:

2024年2月2日  

最終更新日:

2024年2月3日

Microbleed clustering in thalamus sign in CADASIL patients with NOTCH3 R75P mutation

Author:

Takei J  et al.

Affiliation:

Department of Neurology and Geriatrics, Kagoshima University Graduate School of Medical and Dental Sciences, Kagoshima, Japan

⇒ PubMedで読む[PMID:37681004]

ジャーナル名:Front Neurol.
発行年月:2023 Aug
巻数:14
開始ページ:1241678

【背景】

CADASIL症候群は若年期に片頭痛で発症し,中年期から多発性ラクナ梗塞,大脳白質病変を呈し,やがて脳血管性認知症や抑うつに至る,NOTCH3遺伝子変異による常染色体優性遺伝性の脳小血管病である.CADASIL症候群ではMRIにおける側頭極白質のT2高信号が特徴とされるが,認められないものもある(文献1,2).鹿児島大学脳神経内科のチームは,32例のCADASIL症候群患者を対象にNOTCH3遺伝子変異の種類と臨床像やMRI所見の関係を解析した.24例はR75P変異を有し,他の8例の変異はR75Q,R110C,C134F,R607Cが各1例,C144FとR169Cが各2例であった.

【結論】

R75P変異症例はすべて九州南部〜沖縄地域在住であり,ハプロタイプ解析の結果から創始者効果が認められた.R75P群は非R75P群に比較して発症時年齢,診断時年齢とも高かった.側頭極病変は非R75P群の100%で認められたが,R75P群では16.7%であった.脳微小出血痕はR75P群で100%,非R75P群で62.5%に認められ,微小出血痕の中央値は24個と3個であった.視床の微小出血痕もR75P群で100%,非R75P群で62.5%に認められ,視床微小出血痕の中央値は6.5個と1個であった.R75P群のうち15例(62.5%)では視床の微小出血痕はクラスター(MCTサイン)を形成していた.

【評価】

本研究は,CADASIL症候群患者のうちR75P変異陽性例は他の変異群と比較して,発症がやや高年齢であり(平均年齢:55.1 vs 50.9歳),側頭極病変は少なく,両側視床に微小出血痕クラスター(Microbleed clustering in thalamus:MCTサイン)が62.5%で認められることを明らかにした.著者らはMCTサインはR75P変異陽性CADASIL症候群のMRI上の特徴かも知れないと結論している.脳内に微小出血痕が多発する病態としては脳アミロイド血管症が知られているが,こちらの微小出血痕は主として皮質領域に分布する(文献3).一方,高血圧脳内出血の患者では視床や基底核を含む脳深部の微小出血痕を呈する者が多いが(文献4),R75P変異陽性CADASIL症候群では高血圧の合併の有無と関係無く,脳深部の微小出血が多かった.ただし,R75P変異陽性CADASIL症候群における脳微小出血痕の数は,過去に報告された高血圧性の脳微小出血痕の数(文献4,5,6)を圧倒的に凌駕していた(平均個数39.3個 vs 1.77-2.4個).
著者らは本研究の結果を基に,脳微小出血痕が非常に多い患者やMCTサインが認められる患者ではNOTCH3遺伝子の検査を考慮すべきであろうとまとめている.
疫学的に興味深いのは,R75P変異患者のすべてが九州南部〜沖縄地域在住であり,ハプロタイプ解析の結果からR75P変異患者群では創始者効果が認められたとのことである.すなわち,これらの患者群には共通の先祖がいたか,少なくとも遺伝学的背景が共有されていることを示唆している.創始者効果はCADASIL症候群の他の遺伝子変異型でも認められ,台湾におけるR544C,フィンランドにおけるR133C,中部イタリアにおけるR607Cが知られている(文献7,8,9).
今後,R75P変異を含む各種NOTCH3遺伝子変異と臨床像,画像所見の関係は,全国規模,東アジア規模で行われるべきであろう.その際は,脳微小出血痕の検出率に大きな影響を与えるMRI磁場強度や撮像シーケンスの統一は必要であろう.そうした研究を通じて,臨床的新規発見のみならず,もしかすると,遺伝的ボトルネック効果などの人類史的な発見につながることも夢想したい.古代南九州・琉球人にはどこかの段階で,急激な人口激減とその後の急速な人口増加があったのかも知れない.

<著者コメント>
本研究は,CADASILのNOTCH3遺伝子R75P変異に焦点を当て,その臨床的な特徴を明らかにした.特に強調すべきは,R75P変異におけるMCTサインの特徴が明らかになり,視床に微小出血が多いことを新たな判断基準として提案した事である.これにより,側頭極病変以外にCADASILを疑う切り口が提供されることを意味する.
全人口におけるNOTCH3遺伝子変異陽性者の頻度は従来の報告より100倍多い(3.4人/1,000人)ことが近年報告されており(文献10),未診断例が多く存在するはずである.R75P変異は日本人に多く,側頭極病変が少ないことが知られている.このため,臨床的には高血圧に起因する脳血管障害と診断され,見逃されている可能性が指摘されている(文献11).高血圧に起因する脳血管障害について,過去の報告では基底核・視床の微小出血が多いとされているが,これは単なる分布の指摘に留まっている.本研究では,R75P変異と非R75P変異,そして先行研究における高血圧に起因する微小出血の個数を比較したところ,R75P変異群において圧倒的に微小出血の個数が多いことが明らかになった.この点が鑑別上有用である可能性を示した.
このことから本研究は,臨床現場においてCADASILの未診断例に対する診断や治療方針の決定に寄与するものと期待される.(鹿児島大学脳神経内科・老年病学 武井潤)

執筆者: 

有田和徳

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