軽症脳梗塞と高リスクTIAに対する発症3日以内のDAPT開始は再発リスクを減少するが出血イベントを増やす: 中国INSPIRES試験

公開日:

2024年2月2日  

最終更新日:

2024年2月3日

Dual Antiplatelet Treatment up to 72 Hours after Ischemic Stroke

Author:

Gao Y  et al.

Affiliation:

The Department of Neurology, Beijing Tiantan Hospital, Beijing, China

⇒ PubMedで読む[PMID:38157499]

ジャーナル名:N Engl J Med.
発行年月:2023 Dec
巻数:389(26)
開始ページ:2413

【背景】

米国脳卒中協会は,軽症(NIHSS≤3)の虚血性脳卒中患者に対する発症1日以内のDAPT開始を推奨している(文献1).ただ,この1日以内そしてNIHSS≤3という枠は狭すぎる可能性がある(文献2,3).本研究は中国の222の病院で,発症後72時間以内の軽症(NIHSS≤5)虚血性脳卒中か高リスクTIAの患者6,100人を対象に行われた偽薬対照RCTである.半数がクロピドグレル(初日300 mg,その後90日まで75 mg/日)+アスピリン(初日100-300 mg,2-21日100 mg/日,その後は偽薬)に,半数がクロピドグレルの偽薬+アスピリン(初日100-300 mg,その後90日まで100 mg/日)に分けられた.

【結論】

全対象症例の13%が24時間以内に,87%が24時間を超えて,各治療群に割り当てられた.90日間の全脳卒中の再発はクロピドグレル+アスピリン群で222例(7.3%,虚血性脳卒中は208例),偽薬+アスピリン群で279例(9.2%,虚血性脳卒中は274例)であった(HR:0.79;95% CI:0.66-0.94;p =.008).
安全性アウトカムである90日間の中等症-重症の出血イベントの発症はクロピドグレル+アスピリン群で27例(0.9%),偽薬+アスピリン群で13例(0.4%)であった(HR:2.08;95% CI:1.07-4.04,p =.03).

【評価】

軽症の急性虚血性脳卒中あるいはTIAの発症90日以内の再発率は5-10%と報告されている(文献4).このため米国脳卒中協会/米国心臓協会のガイドラインでは,軽症の虚血性脳梗塞では発症1日以内の抗血小板剤2剤(DAPT)投与が推奨されている(文献1).一方最近,DAPT投与開始が発症1日以降であっても,3日以内なら脳梗塞再発予防には有効であるとのRCTの結果やメタアナリシスが報告されている(文献2,3,5).
本INSPIRES試験は中国で実施された,動脈硬化に起因すると想定される軽症(NIHSS≤5)虚血性脳卒中か高リスクTIA(ABCD2スコア≥4)患者を対象とした,発症3日以内のDAPT開始についての偽薬対照RCTである.全6,100症例のうち13.1%がTIA症例であった.DAPT群における実際のDAPT(クロピドグレル+アスピリン)の期間は発症から21日間で,その後はクロピドグレル75 mg単剤投与となっている.このRCTの結果,一次アウトカムとして設定された発症90日間の脳卒中再発は偽薬+アスピリン群よりも,DAPT群で有意に低かった(HR:0.79;p =.008).発症90日間の虚血性脳卒中再発に限っても,やはりDAPT群で有意に低かった(6.8 vs 9.0%,HR:0.75;95% CI:0.63–0.90).また,発症90日目のmRSは,DAPT群の方が良好な側にシフトしていた(共通オッズ比0.76;95% CI:0.64-0.91).
この結果,動脈硬化に起因する軽症(NIHSS≤5)虚血性脳卒中か高リスクTIA(ABCD2スコア≥4)患者に対する,発症から3日以内から21日までのDAPTは,90日間の脳卒中再発(その9割以上は虚血性脳卒中)を約2%低減出来ることが明らかになった.ただし,先行して発表された中国における発症1日以内のDAPT開始に関するCHANCE試験では,DAPTが90日間の脳卒中再発を約3.5%低減している(文献6).この発症抑制率の差は,虚血性脳卒中発症早期(0-72時間)における高い再発率と,これに対するDAPTの再発抑制効果を反映しているのかも知れない.これらの結果からは,3日以内のDAPT開始でも有効ではあるが,出来れば1日以内に開始した方が効果は高いという推論が成り立つかも知れない.
一方,安全性アウトカムとして設定されていた90日間の中等症-重症の出血イベントはDAPT群で有意に高かった(0.9 vs 0.4%,HR:2.08;p =.03).出血性イベントの評価は,1993年出版のGUSTO試験(心筋梗塞に対する血栓溶解療法に関するRCT)の分類に従っている.これによれば,中等症出血とは輸血を要するもの,重症出血とは致死的出血・頭蓋内出血・血圧低下を伴う出血で輸液・輸血・昇圧剤投与や外科的処置等を要するものとなっている(文献7).
その頻度は90日間で1%前後と稀ではあるが,急性期DAPT実施例では中等症-重症の出血イベントが起こり得ることに細心の注意が必要である.ただし,本文中の累積罹患率曲線を見ると,出血イベントの発症率は,DAPT期間(21日間)を超えてクロピドグレル75 mg単剤投与期間になってもアスピリン100 mg単剤投与と比較して少し高いようである.この点は今後解析の必要性がある.
また本稿のサブグループ解析では,発症がTIAや単一梗塞の例ではその後の再発は少なく(約3と5%),DAPTによる有意な再発抑制効果はない.逆に発症が複数の急性梗塞であったものでは再発率は高く,DAPTによる再発抑制効果は明らかである(8.5 vs 11.4%).このデータを見る限りは,TIA症例では出血リスクを冒してDAPTを行う意義は少ないのかも知れない.より多数例での検討が必要である.

<コメント1>
2013年にNEJMに発表された中国のCHANCE試験は,発症24時間以内のDAPT開始に関する研究である(文献6).発症90日後までの脳卒中イベントはアスピリン単剤群で11.7%,クロピドグレル+アスピリン併用群では8.2%であり,DAPT群で脳卒中再発が有意に抑制された.一方,90日間での出血イベントは両群とも0.2%と差がなかった.この論文を契機に,虚血性心疾患に続いて脳卒中領域でも短期間DAPTが標準的治療になった.
今回のINSPIRES試験は発症から24時間ではなく72時間まで延長したことに意義がある.軽症脳梗塞あるいはTIA患者は発症から24時間以後に受診する例も多く,発症翌日以後に受診した症例にもDAPTの効果があると判明したのは大変意義深い.
一方で,CHANCE試験との大きな違いは,DAPT群で出血性イベントが有意に多かったことである.やはり長期間あるいは安易なDAPT施行は出血イベントにつながることを常に頭に置いておかなくてはならない.(今村総合病院 脳神経内科 神田直昭)

<コメント2>
発症早期の脳梗塞(概ね7日以内)に対するDAPTの有効性,安全性の報告はこれまでもRCT,システマティックレビューが複数あるが,DAPT期間1ヵ月以内が出血リスクを増やさず脳梗塞再発抑制効果を上昇させるとの報告が多い.ABCD2スコア≥4以上の高リスクTIA症例についてもDAPTが推奨されているが,やはりPOINTやCHANCEの統合解析やその他のメタ解析でも長期的には出血合併症の増加が認められるため,21日以内に留めるべきであろう.
より長期間のDAPTについては,本邦で実施されたCSPS.COMが,シロスタゾールにアスピリンもしくはクロピドグレルを併用することの有用性を示している(文献8).これに基づけば,発症3週間まではアスピリンおよびクロピドグレルのDAPTを実施し,3週以降は高リスク群(頚部または頭蓋内の動脈に50%以上の狭窄を認めるか,2つ以上の動脈硬化危険因子を有する)に対してはアスピリンもしくはクロピドグレルのいずれかを終了し,シロスタゾールを併用することを積極的に検討しても良い.(今村総合病院 脳神経内科 有水琢朗)

執筆者: 

有田和徳

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