脳腫瘍手術の術中MRIは創部感染のリスク因子か:ミュンヘン大学における隣室3T-MRIを用いた114例の経験

公開日:

2024年2月26日  

最終更新日:

2024年2月27日

The impact of intraoperative MRI on cranial surgical site infections-a single-center analysis

Author:

Joerger A  et al.

Affiliation:

Department of Neurosurgery, Technical University of Munich, Klinikum rechts der Isar, Munich, Germany

⇒ PubMedで読む[PMID:37971620]

ジャーナル名:Acta Neurochir (Wien).
発行年月:2023 Dec
巻数:165(12)
開始ページ:3593

【背景】

術中MRIは脳腫瘍手術における摘出度と安全性向上の目的で普及しつつあるが(文献1,2,3),撮像前後の磁性体の取り外しと再装着,ドレープの付け外し,患者移動,全手術時間の延長などによる感染のリスク上昇は気になるところである.本研究は,2018年6月以降の約1年間にミュンヘン大学脳外科において術中MRIを使用して脳腫瘍摘出手術が行われた114例(グループ1:グリオーマ91%,転移性腫瘍9%)と,同時期に術中MRIを使用せずに脳腫瘍摘出手術が行われた126例(グループ2:グリオーマ35%,転移性腫瘍65%)を比較したものである.

【結論】

さらに,同施設に術中MRIが設置される以前の約1年間で実施された脳腫瘍摘出手術206例(グループ3)も対照群として設定された.
同施設の術中MRIは3Tマシンで,脳外科手術室の隣室に設置され,外来患者用にも供されている.このため,術中MRI撮像40分前に清潔化されていた.皮膚切開前はセフロキシム1.5 gが投与され,手術時間が4時間を超える時は同量が再投与された.
術中MRI使用例のうち32例(28.8%)では,MRI撮像後に更なる摘出が続行された.
術後の創部感染は3グループで11.4%,9.5%,6.8%で,有意差は無かった(p =.352). 術中MRI撮像後の摘出続行例でも創部感染率は上昇しなかった.

【評価】

過去の報告では開頭手術後の創部感染の頻度は4.3-8.2%と報告されている(文献4,5,6).本研究では,その頻度は過去の報告よりやや高くなっている.これは,本研究で解析の対象となった創部感染症には,発症の期間を区切ることなく,表在性感染,深在性感染,硬膜外膿瘍,頭蓋内膿瘍,髄膜炎,脳室炎,感染性髄液瘻,シャント感染等を全て含んでいたためかも知れない.
いずれにしても統計学的には,術中MRI非使用群に比較して使用群で創部感染が増加するという事実はなかった.この結果を受けて著者らは,術中MRIの導入による利点は,危惧されたMRI使用による術野感染のリスクを上回るとまとめている.
ただし,創部感染の頻度は数値上は術中MRI使用群でやや高い(11.4 vs 9.5%,6.8%).もしかすると,症例数がさらに増えれば有意差が出るかも知れない.しかしおそらく,術中MRIの使用による摘出率の向上効果を上回るほどの差ではないであろう.
また本研究で,通常の外来診療に供しているMRIを直前に清潔化するだけで,術中MRIとして安全に使用出来ることを示したことは,費用対効果の面からも歓迎すべきである.
ただし,術中MRI撮像直前のMRIの清潔化は“The scanner room is cleaned 40 min before each intraoperative MRI scan”と記載されているだけで,詳細は不明である.おそらくはMRI室のクリーンルーム化や詳細な清潔化プロトコールが設定されていると思われるので,それを開示して欲しかった.

執筆者: 

有田和徳