未破裂動脈瘤の破裂後の形態の不整化は,破裂の予測因子となり得ない−−−かも

公開日:

2024年2月26日  

最終更新日:

2024年2月27日

Three-Dimensional Morphological Change of Intracranial Aneurysms Before and Around Rupture

Author:

Kamphuis MJ  et al.

Affiliation:

Department of Radiology, University Medical Center Utrecht, Utrecht University, Utrecht, The Netherlands

⇒ PubMedで読む[PMID:38169305]

ジャーナル名:Neurosurgery.
発行年月:2024 Jan
巻数:Online ahead of print.
開始ページ:

【背景】

未破裂動脈瘤の増大は破裂のリスク因子であることが知られているが(文献1,2,3),形態の変化はどうなのか.ユトレヒト大学放射線科などのチームは,経過観察中に破裂した未破裂動脈瘤を有する27例のうち,成人で,破裂前にTOF-MRA,CTA,3D-ローテーション血管撮影のいずれかが2回以上実施された16例を対象に,その3次元的形態変化を数値化して後方視的に解析した.動脈瘤径中央値は3.9(3.2–6.8)mm.追跡期間は前破裂期(最初の画像検査から破裂前の最終画像検査まで)が中央値1,200日で,周破裂期(破裂前の最終画像検査から破裂後最初の画像検査まで)が中央値407日であった.

【結論】

前破裂期では,サイズに関する3つのパラメーター,すなわち動脈瘤径(頚部中心からドームまでの距離かこれに直行する動脈瘤径のうち大きい方),体積,表面積が有意に増大した.しかし,形態に関する5つのパラメーター,すなわち2つのコンパクトさ指標(著者らが考案した計算式による指標1と2),球形性指標,細長さ指標,扁平さ指標は変わらなかった.
一方,その後の周破裂期では,サイズに関する3パラメーターはさらに増大した.加えて,形態に関する5つのパラメーターは低下した.すなわち,動脈瘤の形態がより不整になっていた.

【評価】

本研究は,破裂に至った未破裂動脈瘤は,前破裂期-周破裂期を通じて動脈瘤径,体積,表面積が増大すること,周破裂期にはこれらに加えて,動脈瘤の形態はコンパクトさを失い,球形性を失い,細長くかつ扁平になること(本稿では細長さ指標と扁平さ指標の低下として表現されている)を明らかにした.著者らはこの結果を受けて,従来から報告されている動脈瘤径の増大に加えて,動脈瘤体積と表面積の増大は,3次元的画像解析時代における,動脈瘤破裂の新たなリスク因子であると結論している.一方,形態の変化(形の不規則化,延長化,扁平化)は前破裂期ではなく,周破裂期にのみ観察されており,こうした形態の変化(不整化)は動脈瘤破裂に向かう過程とは別のプロセスを反映していると捉えるべきであると述べている.
従来から,未破裂動脈瘤が破裂した場合,破裂後の動脈瘤には分葉化,娘瘤やブレブの発生などの形態変化が起こっていることが知られている(文献4,5,6).本研究では,そのような形態の変化(不整化)は前破裂期には起こっていないことが明らかになった.破裂動脈瘤に新たに加わった形態の変化は,血腫による圧迫など動脈瘤破裂という病態そのものが産み出したプロセスを反映している可能性が高いというのが著者らの主張である.したがって,破裂後に認められる動脈瘤の不整な形状への変化(不整化)を動脈瘤破裂の予測に使用することは出来ないというのである.
シンプルな言説ではあるが,本当にそうなのだろうか.著者らのシリーズでは周破裂期の画像検査の間隔は400日である.この期間の後半に,動脈瘤の形態が急速に不整化,すなわち不安定化して破裂し,破裂後にその不整な形態を残している可能性はないのであろうか.
本稿の著者らも考察で述べているように,より短い間隔で画像検査を行えば,動脈瘤の形状の不整化が破裂前に捉えられる可能性がある.全ての未破裂動脈瘤患者に,3ヵ月おきのMRAを行うなどというのは現実的ではないが,未破裂動脈瘤のうち1-2年おきの経過観察中に増大したものを対象に,その後は半年おきにMRAを行うというような前向き研究を行えば,動脈瘤の形状の不整化が破裂の予測因子であるかどうかが判明すると思われる.
ちなみに,van der Kampらは2021年に,経過観察中に増大した動脈瘤339例を対象に,その後の破裂リスクを解析し,報告している(文献1).これによれば,中大脳動脈瘤,7 mm以上の径,不整な形(経過観察中の不整化ではないが)は増大瘤の破裂の予測因子であった(いずれもハザード比 >2.8).

執筆者: 

有田和徳