公開日:
2024年2月26日Low and Borderline Ankle-Brachial Index Is Associated With Intracranial Aneurysms: A Retrospective Cohort Study
Author:
Laukka D et al.Affiliation:
Department of Neurosurgery, Neurocenter, Turku University Hospital, Turku, Finlandジャーナル名: | Neurosurgery. |
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発行年月: | 2024 Jan |
巻数: | Online ahead of print. |
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【背景】
足関節上腕血圧比(ABI)は全身性の炎症,動脈硬化を反映し,心血管イベントのリスク指標として広く用いられているが,ABIと脳動脈瘤発生リスクの相関について報告はない.フィンランド・トゥルク大学脳外科などのチームは,2011年1月から3年間に,同大学の臨床生理科でABIが測定された2,757例のうち脳血管画像検査(CTA/MRA)が行われた776例を対象に,ABIと動脈瘤有病率(発見率)の関係を解析した.
対象患者のABI分類は低ABI(≤0.9)464例,境界域ABI(0.91-0.99)47例,高ABI(>1.4)57例,正常ABI(1.00-1.40)208例であった.
【結論】
脳血管画像検査で発見された脳動脈瘤は110例で,このうち13例が破裂動脈瘤であった.各ABI群毎の動脈瘤有病率は,正常ABI群では2.4%(未破裂1.9%)と従来報告されている発生率と差はなかったが(文献4),低ABI群では20.3%(未破裂18.1%),境界域ABI群では14.9%(未破裂12.8%),高ABI群では7.0%(未破裂5.3%)と高かった.各ABI群と破裂動脈瘤有病率に相関はなかった(p =.277).
性・年齢を調整後の回帰解析では,未破裂動脈瘤の有病率と相関したのは,低ABI(OR:13.02),境界域ABI(OR:8.68),喫煙歴(OR:2.01)であった.
【評価】
これまで,未破裂動脈瘤発生のリスクに関しては,女性,高血圧,喫煙などが報告されてきた(文献1,2,3).本研究は,性・年齢調整後の多項回帰解析によって,喫煙と並んで,ABIが低いこと(<0.99)が未破裂動脈瘤発生の独立したリスク因子であることを明らかにした.正常ABI群(1.00-1.40)と比較した未破裂動脈瘤の発生頻度は,低ABI群(≤0.9)では9倍,境界域ABI群(0.91-0.99)では7倍に達した.
ABIの低値は全身性の炎症,血管内皮機能障害,動脈硬化を反映し,心血管イベントのリスクと相関することが知られている.今回の解析結果は,従来から動脈瘤発生因子として報告されている全身性の血管機能障害の重要性を改めて示したことになる(文献5).
これが事実とすれば,頭部MRAによる脳動脈瘤のスクリーニングを行うべき患者選択のための強力な判断基準としてABIが新たに登場したことになる.
一方,高ABI群では動脈瘤検出率は7.0%(未破裂5.3%)であり,有意差は無かった.高ABIも下肢動脈の動脈硬化(動脈壁の石灰化)を反映しているとされる.症例数が増加すれば,正常ABIに比した有意差が出る可能性がある.
一方,破裂した動脈瘤の頻度は正常ABI群での0.5%に対して,他の3群では,低ABI群2.2%,境界域ABI群2.1%,高ABI群1.7%と数値上はやや高い.有意差はなかったが(p =.277),こちらも症例数が増加すれば有意差となる可能性を否定出来ない.単純に動脈瘤の発生頻度の差を反映しているのか,ABI低値そのものが破裂のリスク因子であるのかも興味深い.
本研究の問題点としては,ABIが測定された患者がどのような患者集団であったのか,またその中で脳血管画像検査(CTA/MRA)を受けた患者が約30%であったとのことであるが,それらの患者に脳血管画像検査を行った理由が全く記載されていないことである.さらに,なぜ対象を2011年1月から3年間のケースに限ったのかも不明である.このように,本研究報告には大きな選択バイアスが存在するリスクが否定出来ない.
日本では,ABI測定が “人間ドック” 健診にルーチンで組み入れられているので,脳ドックデータと併せれば,本研究結果を直ぐに追試することが可能なはずである.日本での多数例での前向き研究を待ちたい.特に,既知の脳動脈瘤発生リスク因子(女性,高血圧,喫煙)を有する患者において,ABI低値が動脈瘤検出率をどこまで押し上げるのかは興味深い.
執筆者:
有田和徳関連文献
- 1) Vlak MH, et al. Independent risk factors for intracranial aneurysms and their joint effect: a case-control study. Stroke. 44:984–987, 2013
- 2) Juvela S, et al. Factors affecting formation and growth of intracranial aneurysms: a long-term follow-up study. Stroke. 32:485–491, 2001
- 3) Cras TY, et al. Determinants of the Presence and Size of Intracranial Aneurysms in the General Population: The Rotterdam Study. Stroke. 51(7):2103-2110, 2020
- 4) Vlak MH, et al. Prevalence of unruptured intracranial aneurysms, with emphasis on sex, age, comorbidity, country, and time period: a systematic review and meta-analysis. Lancet Neurol. 10(7):626-636, 2011
- 5) Frösen J, et al. Saccular intracranial aneurysm: pathology and mechanisms. Acta Neuropathol. 123(6):773-786, 2012
参考サマリー
- 1) 一般人口における脳動脈瘤発生の危険因子:ロッテルダム研究から
- 2) 腸内微生物叢は脳動脈瘤の発生に関与するか
- 3) 多発脳動脈瘤の危険因子:単発例との違い
- 4) 亜鉛投与による実験動脈瘤の成長抑制
- 5) 日本のくも膜下出血の発生率は本当に増えているのか
- 6) 未破裂脳動脈瘤治療の費用対効果:質調整生存年(QALY)と増分費用効果比(ICER)を用いた解析
- 7) 治療された未破裂動脈瘤のサイズの変遷:1987-2021年の35,150例
- 8) 未破裂動脈瘤が経過観察中に増大したらどのくらい危ないのか:トリプルSモデルの提案
- 9) MRAだけでは未破裂動脈瘤の形状の不整の4割は見逃される
- 10) 未破裂動脈瘤の破裂リスクは低く見積もられていないか:破裂動脈瘤に破裂予測スコア(PHASES, UIATS)をあてはめて判ったこと