肥満は髄膜腫発生のリスク因子か:米国外科医療品質向上プログラム(NSQIP)登録の脳腫瘍摘出患者6万例の解析

公開日:

2024年2月26日  

最終更新日:

2024年3月11日

Obesity and meningioma: a US population-based study paired with analysis of a multi-institutional cohort

Author:

Khazanchi R  et al.

Affiliation:

Department of Neurological Surgery, Northwestern University Feinberg School of Medicine, Chicago, Illinois, USA

⇒ PubMedで読む[PMID:38241687]

ジャーナル名:J Neurosurg.
発行年月:2024 Jan
巻数:Online ahead of print.
開始ページ:

【背景】

肥満は髄膜腫発生のリスク因子か? シカゴ・ノースウェスタン大学脳外科などのチームは,米国外科医療品質向上プログラム(NSQIP)の前向き登録データを用いて,この問題を検討した.2005年以降の16年間に開頭手術を受けた頭蓋内腫瘍患者のうち,髄膜腫は13,545例で,非髄膜腫は45,804例であった.
肥満度はBMIに基づき,クラスI:30–34.99,クラスII:35–39.99,クラスIII:≥40と分類した.
各肥満クラス毎の頻度は,男女とも髄膜腫患者の方が高かった(いずれもp <.0001).例えば,女性でクラスIII肥満の割合は髄膜腫患者10%に対して非髄膜腫患者6%であった.

【結論】

肥満(BMI ≥30)は術後30日間における肺塞栓と深部静脈血栓症のリスク因子であった(多変量p =.0043と多変量p =.0283).
ノースウェスタン大学とオレゴン大学の2施設の髄膜腫症例813例の解析では,男性の髄膜腫患者のうち肥満患者では,非肥満患者と比較して頭蓋底腫瘍の割合が有意に高かった(52 vs 37%,p =.0123).一方、女性では有意差に届かなかった(49 vs 44%,p =.1246).無増悪生存(PFS)に関しては男女とも肥満患者群と非肥満患者群で差はなかった(p =.4104とp =.5504).

【評価】

髄膜腫は,女性では男性よりも2倍くらい高い頻度で発生することが知られている(文献1).また,髄膜腫は妊娠中に増大しやすい(文献2).これは髄膜腫の大部分でプロゲステロン受容体が発現しており,エストロゲンやアンドロゲン受容体の発現が少ないことが関与していると示唆されている.
一方,従来から肥満と髄膜腫の有病率の相関に関しては,女性において相関している(文献3),男性において相関している(文献4),男女とも相関している(文献5)など様々な報告がある.
また,髄膜腫の発生部位に関しては,肥満患者では頭蓋底部発生が多いとの報告がある(文献6).
本研究は,米国における前向き登録データベース(NSQIP)に登録された約6万人という膨大な数の脳腫瘍開頭手術症例を基に,髄膜腫と非髄膜腫症例における肥満患者の頻度を明らかにしたものである.本稿で明らかになったことは,髄膜腫患者では非髄膜腫患者に対して男女とも肥満患者(BMI ≥30)の割合が高いこと,各肥満クラス(I-III)で分けても髄膜腫患者の割合が高いことである.
これは何か.肥満男性では非肥満男性と比較して(文献7),また閉経後の肥満女性では非肥満女性と比較して(文献8),血中エストロゲンレベルが高いことが知られている.さらにエストラジオールが,髄膜腫の大部分で発現しているプロゲステロン受容体をアップレギュレートすることも知られている(文献9).こうした事実や,エストロゲンやプロゲステロンレベルが高い妊娠中に,髄膜腫が増大しやすいことを考慮すれば,肥満患者においては,高いエストロゲンレベルが髄膜腫の発生や増殖の背景にあると考えることは不自然ではない.
一方,肥満患者やプロゲスチン(合成黄体ホルモン)内服中の患者では頭蓋底部髄膜腫の割合が高いことが知られている(文献6,10).本研究参加の2施設における髄膜腫症例の解析では,肥満の男性髄膜腫患者では頭蓋底部腫瘍の割合が高かった(p =.0123).肥満や薬剤によるプロゲステロン受容体のアップレギュレーションを背景としたPIK3CA遺伝子変異(文献6)が,髄膜腫の頭蓋底部発生と関係することが推測されている.
本稿では,肥満が髄膜腫術後における肺塞栓と深部静脈血栓症のリスク因子であることも示しているが,これは非髄膜腫患者でも認められており,目新しい事実ではない.
本稿はあくまでも,開頭手術を受けた脳腫瘍患者が解析対象であり,その集団の中で,肥満というキーワードで髄膜腫患者と非髄膜腫患者とを比較している.すなわち結果から原因を類推せざるを得ないという大きな限界を有している.この問題を正当に扱うならば,やはり,解析対象は全人口であるべきで,その中で肥満と髄膜腫を含めた脳腫瘍の発生との関係が解析されるべきである.そのような意味では,日本が有している脳ドックのデータは極めて重要な意義を有していると思われる.

<コメント>
本論文は,米国における外科手術の臨床データベースであるNSQIPを用いて,髄膜腫に対する開頭手術を受けた患者でBMIの違いを調査し,非髄膜腫群と比較している.結果,全てのBMI高値群で非髄膜腫患者に比して髄膜腫患者との間に有意な関連づけが示されたが,性差はみられなかった.髄膜腫あるいは非髄膜腫で開頭術を受けた6万人規模の患者を対象にした大規模コホート研究である点は,希少なものであり高く評価できる.開頭術を受けた髄膜腫患者の疫学を明らかにした点は大きい.一方で,対象が開頭術患者に限定されていることは,選択バイアスを生むリスクがある.また,すでに髄膜腫に罹患している患者を対象とした症例対照研究である点にも注意を払う必要がある.すなわち,髄膜腫に罹患していない状態で肥満が髄膜腫発生のリスク因子になるかを明らかにしたわけではない.
我々は,国立がん研究センターが中心となって行っている10万人規模の多目的コホート研究(Japan Public Health Center-based Prospective Study: JPHC study)を用いて,日本人における体格(BMIと身長)と脳腫瘍の発生との関連について疫学研究を行い,2020年に報告した(文献11).我々の研究においても,BMI高値により髄膜腫の罹患リスクが上昇する可能性が示唆された.また,BMIが増加すると,特に男性においてのみ脳腫瘍の罹患リスクに有意な上昇がみられ,性差が認められなかったという本論文の結果とは異なった.
肥満と髄膜腫の発生における性差の関連は,エビデンスが確立されておらず,今後明らかにされるべき課題である.肥満に関連する慢性炎症や脂肪細胞から産生されるエストロゲンが髄膜腫発生のリスク上昇と関係していることがすでに報告されていたが,我々は,とりわけ慢性炎症が関係しているのではないかと考察した.本論文では,肥満男性ではアロマターゼ発現の増加により循環エストロゲンが続発性に増加し,プロゲステロン受容体をアップレギュレートすることが,髄膜腫の発生に寄与している可能性があると考察しており興味深い.
肥満が髄膜腫の罹患率を増加させるメカニズムは未だ不明であり,今後の更なる研究により明らかにされることを期待している.(京都府立医科大学 脳神経外科 小川隆弘)

執筆者: 

有田和徳

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