前頭開頭時の頭皮切開は冠状切開よりもジグザグ切開が良い:ミュンヘンLMUにおけるRCT

公開日:

2024年3月11日  

最終更新日:

2024年3月21日

A prospective randomized comparison of functional and cosmetic outcomes of a coronal zigzag incision versus a conventional straight incision pattern for craniotomy

Author:

Ueberschae M  et al.

Affiliation:

Departments of Neurosurgery and Hand, Plastic, and Aesthetic Surgery, LMU University Hospital, LMU Munich, Germany

⇒ PubMedで読む[PMID:38157520]

ジャーナル名:J Neurosurg.
発行年月:2023 
巻数:Online ahead of print.
開始ページ:

【背景】

頭皮の切開では,円弧状切開よりもジグザグ切開の方が審美的に良好な結果をもたらす可能性があることは以前から主張されてきたが(文献1,2,3),脳外科医の日常臨床では,線状あるいは円弧状の皮膚切開が圧倒的に多い.ミュンヘンLMU大学の美容外科や脳外科のチームは前頭開頭を必要とする59例の患者を対象に本件に関するRCTを行った.手術の目的は脳血管病変16例,脳腫瘍41例であった.
29例で,112°のαアングルを有する7個のエッジで構成されたジグザグ皮膚切開を毛髪線後方に加え,28例で毛髪線後方の通常の冠状あるいは円弧状の皮膚切開が行われた.各群1例ずつで術後放射線照射が行われた.

【結論】

ジグザグ皮膚切開では,耳介上部で浅側頭動脈を避けるように切開線を後方に屈曲させた.手術後3ヵ月目に機能的,自覚的,他覚的な評価を行った.
ジグザグ切開の1例では,患者が創部に食用油を塗り込む癖があったため,創部再手術が行われた.
通常切開群に比較して,ジグザグ切開群では切開痕の幅は小さく(p =.001),切開部周囲の2点識別覚は良好であった(p =.005).VSS(バンクーバー瘢痕スケール)やPOSAS(患者と観察者による瘢痕アセスメントスケール)による評価でも,ジグザグ切開群の方が有意にポイントが低く(p =.003とp =.005),優越であった.

【評価】

既に美容外科や頭頚部外科の領域では種々のジグザグ皮膚切開が審美的に良好な結果をもたらすことが報告されている(文献4,5,6) . 脳外科領域では , 前頭側頭開頭におけるジグザグ皮膚切開の優位性について ,本邦のMinami, Moritaらが , 10年も前に後方視研究の結果を報告している(文献3) .彼らの研究によれば , 過去の円弧状皮膚切開群13例と比較して14例で実施されたジグザグ皮膚切開ではSF-36スコアのうちRCS (役割/社会的側面のスコア)が有意に高く , 患者のQOLに良好な影響を与えていた.
本研究は,前頭開頭においては,通常の冠状皮膚切開と比較してジグザグ皮膚切開の方が,皮膚感覚(2点識別覚)の点でも,観察者の評価あるいは患者の評価でも優越性があることをRCTで示したことに大きな意義がある.ただし,患者への7項目のアンケート調査のうち,「頭皮の傷がとても目立つか?(Scar is very discreet?)」の問いに対して肯定する評価が多かったことには注意が必要である(p =.008).この理由について本稿では触れられていない.
今後,大規模な前向き研究で,ジグザグ切開の意義が明らかになることを期待したい.ただし,多くの開頭手術が皮膚小切開,小開頭で行われるようになった現在,円弧状切開に対するジグザグ切開の優越性がどれだけの臨床的な意義を有しているかは多少気になるところである.

<コメント>
今回ドイツから脳神経外科領域でのZIGZAG皮膚切開法の有用性を証明する論文が発表された.本方法は形成外科領域では頭蓋縫合早期癒合症などに対してかなり普及しているが,脳神経外科領域では一般的ではなかった.我々も2014年にテクニカルノートで本方法の利点などを報告しているが(文献3),その後,本方法は用いていない.それはこのようなシステマティックに評価した報告が無かったことと,通常のLinearな皮膚切開の方が通常の施設では普及していて迅速に行え,大きなトラブルがなかったためである.但し通常のlinearなfrontotemporalの皮膚切開は耳の前にかかる部分が目立つ場合があるので,我々は耳の前は耳朶に向けて凸な小さなジグザグを作るようにしている.本報告をきっかけに通常の皮膚切開の問題を再検討して,形成外科医とも連携しつつ,より整容に気遣った開頭手術が普及することが望ましいと考える.(日本医科大学名誉教授 森田明夫)

執筆者: 

有田和徳