小脳梗塞に対する減圧開頭手術は有効か:梗塞巣体積 >35 mL(小脳体積の半分以上)が良い適応

公開日:

2024年3月12日  

Functional Outcomes in Conservatively vs Surgically Treated Cerebellar Infarcts

Author:

Won S  et al.

Affiliation:

Department of Neurosurgery, Rostock University Medical Center, Rostock, Germany

⇒ PubMedで読む[PMID:38407889]

ジャーナル名:JAMA Neurol.
発行年月:2024 Feb
巻数:Online ahead of print.
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【背景】

米国心臓協会/脳卒中協会のガイドラインでは,小脳梗塞の中で占拠性効果を呈し,神経症状の悪化を示すものには減圧手術が推奨されている(文献1).しかし,天幕上の大梗塞に対する減圧術の有効性はRCTなどの複数の前向き試験で証明されているが(文献2,3),小脳梗塞についてはエビデンスは乏しい.
本研究は2008年から2021年に,ロストック大学病院などドイツ国内5ヵ所の第三次脳卒中センターで治療された小脳梗塞531例(男性57%,平均年齢68歳)の後方視的解析である.
このうち127例が減圧手術を受け,404例が保存的治療を受けた.受診から手術までは,中央値15時間(IQR:3-48)であった.

【結論】

減圧手術群は非手術群に比較して有意に年齢が低く(平均66.1 vs 69.5歳),GCSが低く(平均10.3 vs 14.3),梗塞巣の体積が大きかった(平均45.7 vs 8.1 mL)(いずれもp <.01).
傾向スコアマッチングで,手術群と非手術群それぞれ71例を抽出し,2群を比較した.
良好な機能予後(mRS:0-3)の頻度は,退院時でも発症90日目でも2群間に差はなかった(いずれもp >.99).梗塞巣の体積≧35 mLの症例では,手術は発症1年後の良好な機能予後と相関した(p =.03).梗塞巣の体積 <25 mLでは,保存的治療は発症1年後の良好な機能予後と相関した(p =.047).

【評価】

従来,小脳梗塞に対する減圧術が有効との報告はあるが,死亡率や機能予後の観点からは保存的治療との差を認めないとの報告もある(文献4).本研究は,ドイツ国内5ヵ所のセンターで治療された小脳梗塞531例の後方視的解析である.傾向スコアマッチングの手法で減圧手術群と保存的治療群71例ずつを比較したところ,梗塞巣の体積が大きい(≧35 mL)症例では減圧手術が,小さい(<25 mL)症例では保存的治療が良好な機能予後(mRS:0-3)と相関することが明らかになった.
小脳の体積は約66 mLであるので(文献5),35 mLという体積はちょうどその半分ということになり,判りやすい指標である.ただし,梗塞巣の体積が25-35 mLの症例でも,来院時の意識状態が悪い,あるいは急速な意識レベルの悪化が見られる症例では,手術適応を考慮すべきかも知れない.実際本研究では,手術群では非手術群と比較して受診時のGCSが低く(平均10.3 vs 14.3),また手術群では受診時に比較して手術直前のGCSが有意に悪化していた(平均9.1 vs 10.3,p <.001).こうした事実も考慮に入れた将来の前向き試験で,相対的に低体積(25-35 mL)の小脳梗塞に対する手術適応が明らかになることを期待したい.
また,単なる外減圧で終わるべきなのか,それとも炎症性サイトカイン放出の供給源(文献6)となり得る脳梗塞に陥った組織を積極的に除去すべきなのかも,今後の臨床研究の課題と思われる.

執筆者: 

有田和徳