公開日:
2024年4月1日最終更新日:
2024年4月2日Early Termination versus Standard Regimen Duration of Dual Antiplatelet Therapy in Intracranial Aneurysm Patients Treated With Pipeline Embolization Device Flex With Shield Technology: Preliminary Experience of 3 U.S. Centers
Author:
Lim J et al.Affiliation:
Department of Neurosurgery, Jacobs School of Medicine and Biomedical Sciences, University at Buffalo, Buffalo, New York, USAジャーナル名: | World Neurosurg. |
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発行年月: | 2023 Oct |
巻数: | 178 |
開始ページ: | e465 |
【背景】
第三世代のフローダイバーターステント・PED Shieldは第2世代Pipeline Flexの金属素線表面に親水性のポリマーを結合させており,血栓形成抑制効果が期待されている.このため,留置後長期間のDAPTを避けることが出来る可能性はあるが,短期DAPTの安全性が確立されているわけではない.ニューヨーク・バッファロー大学などの米国の3つの脳血管内治療センターは,2021年4月から2022年12月までにPED Shieldステントの留置が行われた61例を対象に,DAPT早期中止の安全性について後方視的に検討した.両群とも7-8割で,ステント留置7-10日前からDAPT投与が開始されていた.
【結論】
ステント留置後180日以下のDAPT投与期間を早期中止群(37例,投与期間中央値96日),それ以上を標準期間群と定義した(24例,中央値243日).DAPT中止後はアスピリン325 mg/日が継続投与された.
血栓塞栓性合併症は早期中止群ではDAPT中止後に1例で発生し(ステント内血栓),標準期間群では観察されなかった.出血性合併症は両群とも観察されなかった.
術後経過観察DSAは早期群で術後中央値343日に,標準期間群で術後中央値175日に行われた(p =.063).
2群間で,動脈瘤の完全閉塞率,ネック残存率,動脈瘤残存率に差は無かった(p =.857,p =.582,p =.352).
【評価】
脳動脈瘤に対するフローダイバーターステントの留置後は,母動脈の血栓塞栓症の発生を防ぐために,最低6ヵ月の長期間のDAPT(dual antiplatelet therapy)が必須となっている(文献1,2).しかし,長期間のDAPTは頭蓋内出血を含む出血性合併症の発生を招く可能性がある(文献3).第3世代のフローダイバーターステント・PED Shieldは金属素線表面に親水性のポリマーを結合させており,血栓形成抑制効果が期待されている(文献4,5,6).
本研究は,米国の3つのセンターで2021年4月からの21ヵ月で動脈瘤に対して使用されたPED Shieldステント留置後のDAPT投与期間が,その後の血栓塞栓性合併症,出血性合併症の頻度,動脈瘤の閉塞率に与える影響についての後方視的な解析である.DAPT使用期間は治療担当医の裁量に委ねられていた.その結果,DAPT早期中止群37例中1例(2.7%)でDAPT中止後にステント内血栓が生じた.このケースは血栓除去によって母動脈の再開通が得られた.標準的な投与期間群24例では,このような血栓塞栓性合併症は起こらなかった.
著者らはこの結果を受けて,PED Shieldステント留置後のDAPTの早期中止は安全であり,標準期間投与群と比較して動脈瘤閉塞率も変わらなかったと結論している.
しかしこの結果を,DAPT早期中止が可能というメッセージとして自動的に受け取ることは困難なように思われる.また,本研究シリーズにおけるDAPT中止後のアスピリン投与も,日本での常用量の100 mg/日ではなく,325 mg/日が持続されているので,やはりかなり慎重に抗血小板治療が維持されていると考えた方が良さそうである.
PED Shieldステント留置後のDAPTの中止時期については,今後,より多くの症例を対象とした前向き研究で検討されるべきであろう.現在日本では,フローダイバーター留置術周術期の抗血小板療法期間に関する多施設共同ランダム化比較試験(APT-ANswer study)が進行中で(文献7),DAPT期間はDAPT期間は90日以下か180日以上に設定されている.2028年に結果が公開される予定である.
一方,DAPT持続期間やその内容については,患者背景(動脈硬化性疾患や糖尿病の有無),治療手技(複数枚留置や主幹動脈のjailなど),治療直後のDWI-MRI所見,血小板凝集能などの様々な要素も考慮に入れる必要性がある.今後はこうした条件も組み入れて,フローダイバーター留置周術期には、いわば テイラーメイドでの抗血小板剤投与が行われるようになるものと思われる.
執筆者:
有田和徳関連文献
- 1) Saber H, et al. Antiplatelet therapy and the risk of ischemic and hemorrhagic complications associated with Pipeline embolization of cerebral aneurysms: a systematic review and pooled analysis. J Neurointerv Surg. II:362-366, 2019
- 2) Tonetti DA, et al. Antiplatelet therapy in flow diversion. Neurosurgery. 86: S47-S52, 2020
- 3) Hart RG, et al. Avoiding central nervous system bleeding during antithrombotic therapy: recent data and ideas. Stroke. 36:1588-1593, 2005
- 4) Girdhar G, et al. Thrombogenicity assessment of Pipeline, Pipeline Shield, Derivo and P64 flow diverters in an in vitro pulsatile flow human blood loop model. eNeurological Sci. 14:77-84, 2019
- 5) Girdhar G, et al. Thrombogenicity assessment of Pipeline Flex, Pipeline Shield, and FRED flow diverters in an in vitro human blood physiological flow loop model. J Biomed Mater Res. 106:3195-3202, 2018
- 6) Marosfoi M, et al. Acute thrombus formation on phosphorilcholine surface modified flow diverters. J Neurointerv Surg. 10: 406-411, 2018
- 7) 榎本由貴子, 他. フローダイバーター留置術周術期抗血小板療法期間に関する多施設共同ランダム化比較試験.
参考サマリー
- 1) 第2世代PIPELINE FLEXによる頭蓋内動脈瘤の治療成績
- 2) パイプラインでの治療後,早期の動脈瘤完全閉塞が得られなかった症例はどうなるのか:134個の追跡
- 3) 頭蓋内解離性椎骨動脈瘤に対する治療はステント・アシスト・コイル塞栓かフローダイバーター・ステント留置術か
- 4) 頭蓋内動脈瘤に対するフローダイバージョン:カナダにおける実用的ランダム化試験(FIAT)
- 5) パイプライン(PED)で治療した1,000個の脳動脈瘤:単一施設の症例登録研究
- 6) 末梢性動脈瘤にもパイプライン
- 7) 未破裂動脈瘤に対する新型フローダイバーターステントDerivoの安全性と有効性
- 8) 破裂脳動脈瘤に対する新しい治療戦略:“Plug and Pipe”の有効性
- 9) フローダイバーターは側枝を持つ脳動脈瘤に不向き
- 10) 未破裂動脈瘤の治療に伴う合併症率と致命率:10万例のメタ解析