前庭神経鞘腫の自然縮小を予測する画像所見は何か

公開日:

2024年4月1日  

Spontaneous shrinkage of sporadic vestibular schwannomas: a clinical and radiological analysis

Author:

Daoudi H  et al.

Affiliation:

ENT Department, Pitié-Salpêtrière, APHP, Sorbonne University, Paris, France

⇒ PubMedで読む[PMID:37878002]

ジャーナル名:J Neurosurg.
発行年月:2023 Sep
巻数:140(3)
開始ページ:856

【背景】

前庭神経鞘腫が自然経過の中で縮小する可能性は3-14%と報告されている(文献1,2,3).
仏ソルボンヌ大学脳外科などのチームは,2019年に前庭神経鞘腫の自然縮小の予測因子として,MRI上の2つの画像所見(腫瘍縮小予測所見)を指摘している(文献1).一つは,腫瘍表面のスキャロッピング・サイン,もう一つは拡大した内耳道内の腫瘍成分を取り囲むような髄液の存在である.
本稿は,同じチームが,散発性(非NF)前庭神経鞘腫のうち自然経過が観察された512例を解析して,この2つの腫瘍縮小予測所見の意義を検討した.腫瘍体積が20%以上縮小か腫瘍径が2 mm以上縮小したものを腫瘍縮小と定義した.

【結論】

全症例のうち66例(13%)が,初診時(38例)あるいは経過観察中(28例)に,2個の腫瘍縮小予測所見のうち少なくとも1個を呈した.この66例では平均追跡期間4±2.5(SD)年のうち,31例(47%,全症例の6%)が腫瘍縮小を示し(他には縮小例無し),35例(53%)は不変で,増大例はなかった.腫瘍縮小予測所見が初診時に認められた38例中では6例が,経過観察中に認められた28例中では25例が腫瘍縮小を示した.
腫瘍が縮小した31例中では,腫瘍径が大きいもの,腫瘍体積が大きいもの,内耳道外の小脳橋角槽に限局した腫瘍,のう胞性成分有り,中心壊死有りの例で,腫瘍縮小速度が有意に早かった.

【評価】

2019年に仏ソルボンヌ大学脳外科などのチームは,196例の前庭神経鞘腫の自然経過の解析結果に基づいて,腫瘍縮小を予測し得るMRI上の2個の所見を報告している(文献1).一つは腫瘍表面がホタテ貝の貝殻縁ような凹凸を示している(スキャロッピング)所見で,もう一つは拡大した内耳道内の腫瘍を取り囲む髄液スペースである.いずれも,一旦増大した腫瘍が縮小したときに現れる所見であることは容易に想像出来る.
本稿は同じチームが症例数をさらに増やし,512例の前庭神経鞘腫の画像追跡を通して,先に報告した2個の腫瘍縮小予測所見の有用性を検証したものである.本研究対象の512例では31例(6%)が腫瘍縮小を示したが,その全てが初診時MRIか経過観察MRIで腫瘍縮小予測所見を示した症例であった.また,初診時MRIで腫瘍縮小予測所見を呈した38例中6例(15.8%),経過観察MRIで腫瘍縮小予測所見を呈した28例中25例(89.3%),併せて66例中31例(47.0%)が腫瘍縮小を示し,その他の35症例(53.0%)の腫瘍サイズは不変であった.すなわち,初診時既に腫瘍縮小予測所見が認められるものは,既に腫瘍縮小過程がある程度終了しているもので,それ以上の縮小は少なく,新たに腫瘍縮小予測所見が認められたものはまさに腫瘍縮小過程が進行中であるという解釈が出来そうである.
この結果から,初診時あるいは初期の経過観察時にMRI上の腫瘍縮小予測所見が認められる前庭神経鞘腫では,少なくとも当分の間は増大の可能性は殆どなく,治療介入は不要で,経過観察の間隔も延ばして良いという判断が出来るかも知れない.
今後他施設の症例で検証されるべき重要な発見である.
もちろん,5-10年の安定期を経て増大に転じる前庭神経鞘腫があることは当然念頭においておかなければならない(文献4).
なお,MRI上の腫瘍縮小予測所見が認められた66例においても,純音聴力(PTA)は初診時43±26.2 dB,最終追跡時53±28.3 dBと低下していた.ただし,腫瘍体積縮小が認められた31例中,最終追跡時MRI(高分解能T2強調像)における蝸牛内T2高信号が回復した11例では,回復しなかった20例と比較してPTAの低下幅が小さかった(p =.02).この理由について著者らは明らかにしていないが,興味深い所見である.こちらも追試が必要である.

執筆者: 

有田和徳