出血した脳深部のAVMの予後

公開日:

2024年4月1日  

最終更新日:

2024年4月2日

Management and outcome predictors of patients with ruptured deep-seated brain arteriovenous malformations

Author:

Sattari SA  et al.

Affiliation:

Department of Neurosurgery, Johns Hopkins University School of Medicine, Baltimore, Maryland, USA

⇒ PubMedで読む[PMID:37721414]

ジャーナル名:J Neurosurg.
発行年月:2023 Aug
巻数:140(3)
開始ページ:755

【背景】

脳深部(脳葉深部,視床,小脳,脳幹など)の破裂動静脈奇形(AVM)の最適な治療法に関してはまだ議論の余地が大きい.ジョンズ・ホプキンズ大学脳外科は1990年から30年間に治療したAVM1,066例のうち,脳深部破裂AVM177例を対象に,治療法や臨床諸因子が予後に与える影響を解析した.
AVM年間破裂率は診断から治療までの8.24%から,治療から最終追跡までは1.65%と低下した.多変量Cox回帰解析では,ナイダス前動脈瘤の存在は高い出血リスク(HR 2.388,p =.036)と相関し,確定的治療(手術か定位手術的照射)は出血リスクの低下と相関した(HR 0.267,p =.001).

【結論】

多変量ロジスティック回帰解析ではSMグレードIV-Vと脳幹AVMが低いAVM閉塞率と相関し(OR 0.404,p =.033とOR 0.325,p =.014),確定的な治療が高いAVM閉塞率(OR 8.864,p =.008)と相関した.初診時のmRSと比較した場合,小脳AVMの患者と確定的治療を受けた患者では,最終追跡時の機能予後不良(mRS >2)のオッズは低かった(共にp =.013).確定的治療を受けた患者ではmRS悪化のオッズは低かった(p =.001).また,喫煙は高い死亡オッズと相関し(p =.01),確定的な治療は低い死亡オッズと相関した(p =.007).

【評価】

脳動静脈奇形(AVM)の中でも脳深部のものは出血率が高く,予後不良なため確定的な治療が必要であるが(文献1),それらの発生部位の周囲には重要構造が密集しているために治療は困難なことが多い(文献2).
本稿はジョンズ・ホプキンズ大学脳外科で治療した破裂脳深部AVM177例の後方視的解析である.実際のAVMの局在(複数回カウント症例を含む)は脳葉深部39.0%,視床19.2%,基底核14.1%,脳幹部19.8%,脳梁10.7%,脳室周囲26.6%,小脳25.4%であった.この177例のうち57.1%に定位手術的照射(ガンマナイフ54.4%,サイバーナイフ36.6%,陽子線4%)が,19.2%に摘出手術が,3.4%に塞栓術単独が,20.3%に保存的治療が行われた.本稿では手術か定位手術的照射を確定的治療,保存的な治療か血管内塞栓術単独を非確定的治療と定義している.この結果,確定的治療(実際は74.8%が定位手術的照射)が年間出血リスクを低下させ,AVM閉塞率を上げ,機能予後低下を回避し,死亡率を低下させることを明らかにした.さらに,ナイダス前動脈瘤の存在は高い出血リスクと相関し,喫煙者では死亡率が高いことも明らかにした.
この結果を受けて著者らは,機能低下(mRS >2)を避け,死亡率を下げながら,高いAVM閉塞率と低い出血率を獲得するためには,確定的治療が有用であると結論している.また,特にナイダス前動脈瘤を有する症例では確定的な治療を,喫煙者では禁煙を推奨している.
既に日本のShinyaらやKogaらの報告などで,定位手術的照射が脳深部AVMの年間破裂率を低下させることが報告されており(文献3,4,5),本研究の結果も,概ねそれらに一致している.
ただ,本研究で,喫煙が脳深部AVM患者の高い死亡オッズと相関(OR 6.068,p =.01)したのは興味深い.著者らはAVM破裂後の血管れん縮が喫煙によって誘発される可能性,喫煙によるAVM血管壁の損傷,炎症,動脈硬化によって出血率が高まる可能性,喫煙によるAVM閉塞の阻害などの可能性を挙げているが,どれも説得力に乏しいような気がする.
さらに本研究では,多変量解析の手法で,交絡因子の影響を極力排除するように努めているが,症例数が少ないためか,傾向スコアマッチングなどのより精度の高い方法を用いての,確定的治療と非確定的治療の比較は出来ていない.
今後,より多数例での詳細な検討が望まれる.

執筆者: 

有田和徳