くも膜下出血後のてんかん発症予測モデル:RISEスコアの提案

公開日:

2024年4月18日  

Predictive Model for Estimating the Risk of Epilepsy After Aneurysmal Subarachnoid Hemorrhage: The RISE Score

Author:

Campos-Fernandez D  et al.

Affiliation:

Epilepsy Unit, Neurology Department, Vall d'Hebron University Hospital, Barcelona, Spain

⇒ PubMedで読む[PMID:38527232]

ジャーナル名:Neurology.
発行年月:2024 Apr
巻数:102(8)
開始ページ:e209221

【背景】

くも膜下出血(SAH)後追跡期間中の患者の12-25%に発生するけいれんは(文献1),機能予後不良,認知機能低下,QOL不良と相関する(文献2,3).スペインのバルセロナ自由大学てんかんユニットなどのチームは,2012年から10年間に入院した動脈瘤性SAH患者419例を開発コホートとして,追跡期間(発症8日-6.9年)におけるてんかん発症のリスク因子を抽出した.84例(20%)はSAH発症7日以内の早期発症けいれん(EOS)を呈し,その73%はSAH発症24時間以内に発生した.
SAH発症8日以降の追跡期間(平均追跡期間4.2年)のけいれんは50例(11.9%)で発生した(発生中央値207日).

【結論】

SAH発症前mRS,VASOGRADE(血管れん縮予測グレード),開頭手術,EOSの4因子は,SAH発症8日以降の追跡期間のけいれん発生と相関した.発症前mRS(R)≥2,開頭手術(S),EOS(E)に各1点を,VASOGRADE(I)の黄群1点/赤群2点を付与し,合わせてRISEスコア(0-5点)としリスク分けした.低リスク群(0-1点)161例,中リスク群(2-3点)236例,高リスク群(4-5点)22例のけいれん発生頻度は各2.9,20.8,75.7%であった.
他院からの検証コホート308例では,RISEスコアは高い精度でSAH発症5年以内のけいれん発生を予測した(AUC:0.82).

【評価】

SAH追跡期間におけるけいれん発症リスクを予測することが出来れば,その予防戦略を立てることが可能な筈である.本研究では,SAH発症前mRS(R)に0-1,開頭手術(S)の有無に0-1,EOS(E)の有無に0-1,VASOGRADE(血管れん縮すなわち遅発性脳虚血:I)に0-2のポイントを付与したRISEスコア(0-5)がAUC:0.82という高い精度でSAH発症8日以降のけいれん発生を予測し得ることを明らかにした.
このRISEスコアで使用されているVASOGRADEとは,2015年に発表されたくも膜下出血後の脳血管れん縮による遅発性脳虚血(DCI)予測のグレーディングシステムである(文献4).VASOGRADEはWFNSスケール(1-5)と修正Fisherスケール(1-4)を基にしており,実際上はくも膜下出血の重症度を反映するものとなっている.WFNSスケール1-2で修正Fisherスケール1-2なら緑群でDCI低リスク,WFNSスケール1-3で修正Fisherスケール3-4なら黄群でDCI中等度リスク,WFNSスケール4-5なら赤群でDCI高リスクと判定される.このVASOGRADEグレーディングシステムによるDCI予測のAUCは0.63と報告されている.
既に脳卒中後のてんかん発症の予測モデルとしては,脳内出血に関するCAVEモデル(文献5),脳梗塞に関するSeLECTモデル(文献6),それらにMRIでの脳表ジデローシスの所見の有無を組み入れたCAVE-SモデルとSeLECT-Sモデルが提案されている(文献7).今回のRISEモデルの登場によって脳卒中後てんかん発症予測モデルがそろったことになる.
さて,このRISEモデルでのスコアが高く(4-5点)高リスク群と判定された患者に対して予防的抗けいれん剤投与を行うべきなのであろうか.この点に関して,米国心臓/脳卒中協会の動脈瘤破裂によるくも膜下出血の管理ガイドラインでは「予防的な抗けいれん剤の投与はルーチンでは行うべきではないが高リスク患者では考慮されても良い」と記載している(文献8).この中では高リスクの例として,中大脳動脈瘤破裂,脳実質内出血,高グレードのくも膜下出血,皮質梗塞を挙げている.
今後は,このRISEモデルのみならず,CAVEモデル,SeLECTモデルで脳卒中後てんかん発症高リスクと判定された患者群を対象としたRCTによって,脳卒中後患者に対する予防的抗けいれん剤投与の社会生活上のQOLや制約も含めたリスク/ベネフィットが明らかにされることを期待したい.

<コメント1>
RISEスコアは,先に報告されている脳内出血に関するCAVEスコア,脳梗塞に関するSeLECTスコアのSAH版と考えてよい.これらの予測スコアで重要なことは,このスコアが予防的投与を推奨するものになり得るかどうか,である.
予防的投与が推奨されるためには,①「その後の発症リスクが高い」ことに加え,②「事象が起こった(この場合はけいれん)場合,後方視的にみて,事象が起きる前に予防内服をしておけば防げる事態が起きてしまった」,つまり,「事象が起きてからの内服では遅い」ことが証明される必要がある.例えば,初回けいれんに起因する死亡や転倒などによる重症外傷などである.
この点に関して言えば,たとえてんかん患者であっても,1回の発作でこのような事態になる可能性はかなり低い.であれば,発症リスクがいくら高くても,予防的投与をせずとも,1回目の発作が起きてから抗てんかん薬を開始することで十分と思われる.
また,このRISEスコアで4,5点となる高リスク群には,発症前mRS 0-1(0)+開頭手術(1)+EOSあり(1)+VASOGRADE:RED(2)や,発症前mRS 2(1)+開頭手術(1)+EOSあり(1)+VASOGRADE:YELLOW or RED(1-2)が含まれる.これらの患者の中にはSAH後にADL自立となり得,自動車運転が可能となる患者がいるはずである.これらの患者に対する抗けいれん剤の予防的投与は,一時的かもしれないが,無駄な社会的制約を課す可能性がある.
これらの観点から,発症リスクが高いというだけでは抗けいれん剤の予防的投与を推奨することにはならない.本研究から予防的内服を推奨する根拠が引き出されるとしたら,けいれんが起こった50例の詳細な解析によって,けいれん後の投与では遅く,けいれん前に予防的内服をすべきであった症例がかなり多かったという事実が示されることではないか.(鹿児島大学脳神経外科 細山浩史)

<コメント2>
一方,てんかんの臨床定義の観点からはどうだろうか.2回以上の非誘発性発作が生じた場合は当然として,1回目の非誘発性発作でも,その後10年間にわたる発作再発率が2回の非誘発性発作後の再発リスクと同程度の場合,すなわち60%以上と考えられる場合には,やはり臨床的診断として治療がすすめられている.さて,本研究での高リスク群が,仮に追跡期間内に100%のけいれん発生率であれば誰しも予防的投与を考えると思われるが,今回認められた75.7%という数値を,てんかんの臨床的定義で用いられている60%と比べた場合,予防的投与が妥当,とは考えられないだろうか.論理の飛躍かもしれないが,やはり75.7%というきわめて高いリスクは臨床医としては看過できない数値である.いずれにしても内服開始時には,患者・家族への十分なインフォームドコンセントが必須であるが,逆に予防的投与をしない場合の発作や運転中の事故のリスクなどについても十分に説明しておくことが必要であろう.(広島大学てんかんセンター 飯田幸治)

執筆者: 

有田和徳